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後半、ジャクリーヌの回想になります。
昼食の後、ルイーズはアレクサンドルに言われたとおり王城にある国王の執務室へと足を運んだ。デュカスが扉の前にいる近衛騎士と短く言葉を交わすと、そのうちの1人が確認のため中へ入って行った。すぐに出てきた騎士によって扉が開かれ、ルイーズのみが中へ入るよう促された。
「王女殿下以外はここで待機するようにとの仰せです」
「分かりました。…デュカス、マルセラ。ここで待っていてくれる?」
「「かしこまりました」」
揃って頭を下げた2人が、扉から離れたところまで移動する。国王の近侍に付き添われてルイーズが執務室に入ると、中にはアレクサンドルの他にジャクリーヌがいた。
「ああ、ルイーズ……」
ソファーから立ち上がったジャクリーヌが、ルイーズに近づいてそっと抱きしめた。
「お母様…?」
「…人払いを」
「御意」
アレクサンドルの指示であっという間に人が捌けていくのをルイーズが感心しながら見ていると、抱きしめていた腕を緩めたジャクリーヌがルイーズを見下ろした。じっと見つめる大きなエメラルドグリーンの瞳が潤んでおり目の端が赤くなっていることに気がついて、ルイーズは驚きに目を瞠った。
(お母様…もしかして、泣いていらしたの……?)
「…とりあえず座ろうか」
「ええ、そうね。…ルイーズ、こちらへいらっしゃい」
「はい…」
アレクサンドルに促されたジャクリーヌが、ルイーズの肩を抱いてソファーへと誘う。そのまま隣に腰を下ろせば、向かいに座ったアレクサンドルが沈痛な面持ちで口を開いた。
「……ルイーズ」
「はい」
「まずは…これまでお前にずっと嘘をついてきたことを詫びなければならない。様々な事情があったにせよ、当事者であるお前が真実を知らされずにいたことは、本来あってはならないことだと思っている。……本当にすまなかった」
国王である父親に頭を下げられてしまい、ルイーズは大いに慌てた。
「お父様、お顔を上げてください!真実を知らされていなかったことは確かにショックでしたが、でもそれもわたくしのためを思ってのことだったのですよね?それにわたくしは、お父様の娘になれたことをとても嬉しいと思っています。ですからどうか謝らないでください」
「ルイーズ……」
のろのろと顔を上げたアレクサンドルが、申し訳なさそうに眉を下げる。父親に頭を上げさせたい一心で言い募るルイーズを見て、アレクサンドルが苦笑いを浮かべた。
「まだまだ幼いと思っていた娘に救われる日が来ようとは………なぁ、ジャクリーヌ?」
「ええ、本当にそうね。私達には勿体無いくらいの自慢の娘だわ」
「お父様、お母様…」
優しく微笑むジャクリーヌに慈しむような視線を向けてから、アレクサンドルは再びルイーズを見た。
「お前の推測どおり……お前の本当の父親は私ではなくアンリだ。私はお前の祖父、ジャクリーヌは祖母、そしてジャンとシャルロットはお前の異母弟妹ということになる」
「……はい」
イレーヌが落とした日本語のメモのおかげで既に知っていたこととはいえ、改めてアレクサンドルの口から語られることによって、本当にそれが事実なのだと認識せざるを得ない。
「ルイーズ」
「はい、お母様」
「本当はもう少し貴女が大きくなってから話そうと思っていたのだけれど……よかったら少しだけ昔話に付き合ってくれるかしら?」
「……はい」
隣に座るルイーズの手を包み込むように握ったジャクリーヌが、昔を懐かしむような表情で語り始めた。
◇◇◇◇◇
ジャクリーヌの末の弟であるレオンとレーヌ伯爵家のソフィーが出会ったのは、レオンが12歳、ソフィーが10歳の時に開かれた王家のお茶会だった。当時から可愛らしいと評判だったソフィーに一目惚れしたレオンの熱心な求婚が実を結んだのは、レオンが学園に入学する直前のことだった。
家柄と見目の良さで令嬢達に絶大な人気があったレオンだったが、彼自身はソフィー以外の令嬢には目もくれず二つ年下の婚約者を溺愛した。姉であるジャクリーヌの目から見ても、2人は相思相愛でとてもお似合いのカップルだった。素直で愛らしいソフィーをジャクリーヌも可愛がり、彼女が早く義理の妹になる日を心待ちにしていた。そんなある日、あの事件が起きたのだ。
海賊との戦いにおいて最愛の婚約者と父親を亡くしたソフィーは、あまりに大きすぎるショックのため学園に通うこともできず自室に引きこもってしまった。それから一年ほどが経ち、友人や家族の励ましにより少しずつ心の傷が癒えてきた頃、ソフィーを実の妹のように可愛がってきたジャクリーヌが、自らの侍女として王城へ来ないかとソフィーに声をかけたのだった。畏れ多い申し出に初めは断ったソフィーだったが、王妃という立場でありながら何度もレーヌ伯爵家に足を運ぶジャクリーヌに心を動かされ、ついに王城へ上がる決意をする。ソフィーが18歳の時のことだった。
ジャクリーヌの侍女としてだけでなく、ソフィーはダンス練習や魔法の実技訓練を通してアンリとフィリップ2人の王子達とも交流を深めていった。当時8歳だったフィリップは亡きレオンによく似ていたことから、ソフィーは彼をとても可愛がり、フィリップ自身もソフィーによく懐いていた。当時13歳だったアンリには侯爵家令嬢であるカトリーヌとの婚約話が持ち上がっていたが、何故か本人はあまり乗り気でなくなかなか首を縦に振ろうとしなかった。
のらりくらりと婚約話を躱し続けるアンリに、ジャクリーヌはその理由を問うてみた。すると驚いたことに、アンリは他に意中の女性がいると言い出したのだ。誰なのかと聞いても、王太子妃になれるほどの身分ではないと言うばかりで、アンリは頑なに口を割ろうとしない。グランシェールの歴代の王達は不思議と愛妻家が多く、側室を置こうとしない国王がほとんどだ。しかし歴史的に見れば側室がいた時代もあり、王妃以外の妃を迎えることを特に法律で禁じているわけでもない。
そんなこんなで一年近くが経ち、カトリーヌを王太子妃として、意中の女性を側室として迎えればいいのではないかとアレクサンドルとも話していた頃、ソフィーが体調不良を理由に城仕えを辞したいと言い始めた。顔色も悪く食欲がないという彼女の願いを聞き入れて実家であるレーヌ伯爵家へ帰したジャクリーヌは、後にそのことをずっと後悔し続けることになる。ジャクリーヌが自分の元へ挨拶に来たソフィーの姿を見ることはその後二度となかったのである。
ソフィーが亡くなったと知って、フィリップは大泣きして暴れた。どうして城から追い出したのだと問われて、ジャクリーヌは答えることができなかった。しかしそのフィリップよりもジャクリーヌが気にかかったのは、王太子であるアンリの様子だった。たまたま夏休みで学園から戻っていたアンリは、話を聞いて血の気のない真っ青な顔で黙り込んでしまった。そしてその日から一言も発することなく学園へと戻ってしまったのだ。
さすがにそれを見て、ジャクリーヌもアンリの想い人が実はソフィーだったのではないかと思い始めた。そのことを国王である夫に話そうかどうか迷っている時、ソフィーの兄ピエールが内密に話をしたいと申し入れてきた。ピエールの腕に抱かれた赤子を見て、アレクサンドルとジャクリーヌは息を呑んだ。プラチナブロンドの巻き毛に透き通るような濃い青の瞳───間違いなく王家の血を引く赤子だと認めざるを得なかった。
ピエール・ド・レーヌにはまた王家から連絡を寄越す旨を伝えて、とりあえず赤子の面倒を見るように頼んだ。まさかと思い一応夫に確認すると、やはり身に覚えがないという。急ぎ学園に使いを出してアンリを呼び出すと、アンリは赤子の話を聞いて堰を切ったように涙を流し始めた。自分の子として引き取りたいと言うアンリだったが、そこでアレクサンドルが待ったをかけた。
ソフィーが王城から居なくなり諦めたようにカトリーヌとの婚約を受け入れたアンリは、その年の春学園に入ったばかり。同い年のカトリーヌとの結婚までには、早くともまだ3年はかかる。ここで婚外子である隠し子の存在が明るみに出てしまえば、アンリの王太子としての資質を疑問視する声が出てもおかしくはない。
ピエールは去り際に、ソフィーが生んだ子を自分の子として育てるつもりだと言った。ソフィーの親友であった妻のマリーも同意しているという。それならば…と、アレクサンドルとジャクリーヌは彼らの厚意に甘えることにした。アンリには、カトリーヌと結婚して後継をもうけ、王太子として実績を出してからでないと子供は引き取ることができないと告げた。そしてカトリーヌの心情も考慮して、実際に引き取るにしてもアレクサンドルの子として引き取るつもりだと。
初めはどこか納得いかないような様子だったアンリも、自分の子として引き取ることによって子供が受ける不利益の方が大きいと判断したのだろう。最後には、兄として陰ながら子供を見守ることに同意したのだった。
後半は説明が続いて読みにくかったかと思います。
申し訳ありません。
ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。




