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更新お待たせいたしました。

アランと2人きりで誕生日を祝ったあと、いつものように講義を受けたり魔法の訓練をしたり両親の公務について行ったりという日々を過ごしているうちに、あっという間に約束の期日がやってきてしまった。


土属性を持つルイーズに不利にならないように、アレクサンドルとの手合わせは室内ではなく外で行うことになった。場所はいつもルイーズがギャレット辺境伯と訓練をしている王家の森の中。手合わせとはいえ実戦なので、周りに迷惑がかからないよう結界が張ってある。


鬱蒼とした森が途切れた所でルイーズがマルセラと一緒に準備運動をしていると、少し遅れて近衛兵を連れたアレクサンドルが現れた。シャツとスラックスのみという、いつもより格段にシンプルな格好の父親を見て、ルイーズが驚いたように動きを止めた。


「……どうした?私が来たことがそんなに不思議なのか?」

「いっ、いえ…そうではなく…お父様のそういう服装を初めて見たので……」


ああ、と納得したように頷いたアレクサンドルが、フッと不敵な笑みを浮かべる。そんな表情まで様になっている父親を、ルイーズは感嘆の眼差しで見つめた。


「こう見えても、学園在籍中は向かう所敵なしと恐れられたほどの腕前だったのだぞ?王太子時代は魔導士団を率いてよく遠征に行ったものだ。在学中私に対抗できたのはただ1人…ジャクリーヌだけだ」

「えっ…お母様ですか?」

「そうだ。彼女はいわゆる天才肌のタイプで、まるで息をするように魔法を扱っていた。魔力量からすれば私の方が多かったが、魔法のセンスはおそらく彼女の方が上だろうな」

「お母様、そんなにすごいんですね…」


イザークから似たような話を聞いたことがあったが、ジャクリーヌがそれほどの実力の持ち主だとは思っていなかった。普段の優雅な王妃としての姿からはとても想像がつかない。


「さぁ、おしゃべりはこれくらいにして、始めようではないか。…準備はよいか、ルイーズ?」

「はい」

「…今回はお前の実力を測るための模擬戦であるから、私の方からは攻撃は一切せず防御のみとする。私は魔法陣も使わないが、お前は何をやっても構わない。もちろん体術や武器を使っても良いぞ」


そこまでのハンデを与えても勝てると思われていることが悔しいが、恐らく本人が言うように本当にアレクサンドルは相当強いのだろう。ちなみにガルニエ公爵から聞いた情報によると、アレクサンドルの魔法属性は風、水、雷の三種類だそうだ。


(確かに私はまだ魔法を学び始めてから1年も経っていないひよっこだけど……それでも、ここで負けるわけにはいかない)


アランと共に公爵領に行くために、こんなところで躓いているわけにはいかないのだ。


近衛兵とマルセラを結界から離れたところへ下がらせて、アレクサンドルとルイーズは5マトルほどの距離を空けて互いに向き合った。


「…お父様、よろしくお願いします」

「うむ…いつでも良いぞ」

「では……いきます!」


言い終わると共に、ルイーズはまず自分の周りに防御の魔法陣を展開した。前後左右プラス上方に展開した魔法陣を連結させる方法をガルニエ公爵に教えてもらったのだ。連結した魔法陣に、五属性全てを付与していく。ここまでの作業を10秒以内で行えるように、何度も繰り返し練習した。


「ほう、全ての属性付与か……初めて見たな。さすがだ、ルイーズ」

「ありがとうございます。…でも、本番はこれからですよ!」

「よし……来い!」

「───はっ!!」


手のひらに集めた大きな火の玉を、細かく分散して掛け声とともに一気に放つ。通常の魔力量であれば防ぐだけで精一杯の数の小さな火の粉が、一斉に襲いかかる。それを見たアレクサンドルが、眉一つ動かさずに片手を大きく振り上げた。


瞬く間に、辺り一面に霧のような細かい雨が降り注ぐ。ジュワァッ…と大きな水煙が上がり、ルイーズの放った火の玉が吸い込まれるように消えていった。


「うむ…なかなかの威力だな。さあ、どんどん続けるがよい」

「っ……はい!」


手加減せずに放った攻撃も、一瞬で消されてしまった。一応攻撃パターンはいくつか考えてきたが、やはりまともに正面から攻撃していてはとても敵いそうにない。


(とりあえずは、いろんな属性攻撃を仕掛けてみて…もうこれ以上は出てこないと思わせてから、最後の最後に奥の手を仕掛けよう)


「えいっ!」

「これもなかなかだな」

「はぁっ!」

「こんなこともできるのか」

「ふんっ!」

「うむ、良いぞ良いぞ」


土埃で目眩しをしてから氷の矢を放っては水の渦で消し去られ、雷を帯びた水を上から降らせては爆風で吹き飛ばされ、さらに炎のトルネードを放っては分厚い氷の壁が立ちはだかり……と、ことごとく攻撃を阻止されて、ルイーズは少し疲れてきた。それもアレクサンドルの方はほとんど動かずに腕一本で防いでいるのだから、嫌でも実力差を感じざるを得ない。


(……そろそろ仕掛けるとしますか)


まだまだ余裕の表情のアレクサンドルに向かって、ルイーズは両手を大きく掲げて風魔法と氷魔法を同時に行使した。


「ええい!」

「おっと…多いな」


風を起こし四方八方から氷の礫が襲いかかるようにすると、アレクサンドルが両手を上げてそれらを更に強力な風で吹き飛ばした。アレクサンドルが手を上げる一瞬の隙を狙って、ルイーズは密かに土の中で生成していたゴーレムをアレクサンドルの背後に出現させた。


「っ、おお……ゴーレムか。これは驚いた」


後ろからゴーレムに羽交締めにされて僅かに目を瞠ったアレクサンドルだったが、すぐに冷静な表情に戻って手を小さく上げた。が、それよりもルイーズが魔法を放つ方が早かった。


「……上か!?」


魔力の気配に気づいたアレクサンドルが、上から襲い来る稲妻に対抗するため自らも稲妻を放つ。空中でドーン、という雷と雷がぶつかる大きな衝撃音がしたかと思うと、瞬きをする間もなくアレクサンドルのすぐ目の前にルイーズが現れた。


「!?!」

「お父様、失礼!!」

「ぐっ……」


無防備な身体に魔力を込めて渾身の力で撃たれたパンチは、いくら武術の心得があれどアレクサンドルに膝を付かせるには十分だった。


「………い、まのは……まさか」

「すみません、お父様。卑怯な手を使ってしまって。……でも、わたくしどうしても公爵領に行きたいのです」


父親に一撃入れることに成功したというのに、泣きそうな顔をしている娘を見て、アレクサンドルはルイーズが自分が考えているほど子供ではないのだと悟った。ルイーズは明らかに自らが《空間魔法》の使い手だと知っていて、今の攻撃を仕掛けてきたのだ。


「………いつから知っていた?」

「初めてお父様にお会いした時からです」

「ほとんど初めからではないか…」

「まあ、そうなりますね」


そう言って苦笑いを零す娘を見て、先程お見舞いされたパンチと比べるとずっと鈍く重い痛みが胸に走る。込み上げる苦い思いを噛み締めるように、アレクサンドルはゆっくりと立ち上がった。


「どうして分かったのだ?もしやピエールが何か──」

「いいえ、レーヌ伯爵は何もおっしゃってはいませんでした」

「そうか。……では、フィリップか?」

「フィリップお兄様もご存じないと思います。《空間魔法》についてわたくしに教えてくれたのは、フィリップお兄様ですから。間接的にそのことがヒントとなったことは確かですが」

「……どういうことか、説明してくれるか?」

「はい」


ルイーズは、王家に引き取られる前に偶然パレを瞬間移動させてしまったこと、それを他人には言わないようレーヌ伯爵に言い含められたこと、フィリップとジェラールの手合わせを見て《空間魔法》はガルニエ家の血筋のみに使える力だと知ったこと、などをかいつまんで話した。


「それらを総合して考えると、わたくしが本当にお父様の子供であったなら、《空間魔法》は使えないはずだという結論に至りました。……そして、そこから導き出される答えは自ずと決まってくるのではないか、と」

「………そうか」


理路整然と説明をしているルイーズだが、ここまで全く悩まなかったわけがない。むしろいろんな葛藤があったはずだ。2年半の間、ずっと疑いを持ちながら少しずつ確信を深めてきたのだろう。散々話し合い結論を出した上でやったことだが、それが本当にルイーズのためになっていたのだろうかと、今更ながらアレクサンドルは自身の気持ちが揺らぐのを感じていた。


「約束は約束だ。私の負けだから、公爵領行きを許そう」

「本当ですか!?」

「ああ、王に二言はない。……それとは別に、お前には先程のことをきちんと話しておきたい。昼食を終えてから、私の執務室に来れるか?」

「…はい、分かりました」


しっかりと頷いたルイーズの頭に優しく手を載せて、アレクサンドルが微笑んだ。


「さっきのパンチは効いたぞ」

「す、すみません!」

「いや、構わん。あれはグザヴィエ直伝か?」

「はい。ミレージュ男爵が魔力を込めて打つと威力が増すとアドバイスしてくださったので…」

「なるほど。護身術に使えそうだ。雷属性を付与するとさらに強力になるだろう」

「…っ、試してみます!」

「うむ…では、また後でな」

「はい。…お父様、お忙しい中どうもありがとうございました」


深々と頭を下げたルイーズにヒラリと手を振って、アレクサンドルは護衛とともに戻って行った。


「ルイーズ様!お怪我は…?」

「大丈夫よ、マルセラ。……私、お父様に一撃入れることができたわ」

「なんと……それはようございました」

「ええ。マルセラや男爵、魔導士団の方々のおかげだわ。ありがとう」

「いいえ。わたくしは何も」

「ふふ…いいの。私がお礼を言いたいのよ」

「恐れ入ります」


頭を下げるマルセラに、晴れやかな笑みを向けるルイーズ。どこか吹っ切れたような主人の顔を見ながら、マルセラは今夜にでも叔父である男爵にお礼の手紙を書こうと思ったのだった。


お父様との対戦、ようやく書き終えることができました…!

途中、ワクチンの副反応で体調を崩し、風邪をひいて体調を崩し……と、なかなか書く時間が取れず、かなりお待たせしてしまいました。

気長に待ってくださっている方々、お待たせしているにもかかわらず覗きにきてくださる方々には、いつも感謝の気持ちでいっぱいです。

この後お父様やお兄様とのお話し合いが終わったら、新章である公爵領編のはじまりです。

そこからはかなり話が動いていく予定ですので、引き続きお付き合いいただけたら幸いです。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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