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ここは王都郊外にあるロッシュブール公爵家別邸。本邸と比べるとやや簡素ながら重厚な造りの執務室に、1人の少年と3人の男達が集まっていた。


少年はロッシュブール公爵家嫡男アラン。今年からこの別邸の運営・管理を任されている実質的な所有者だ。残りの3人のうちの1人は別邸の執事サリュー、2人目はロッシュブール公爵家騎士団長レノ。そして残る1人は王国第3近衛騎士団副団長のデュカスである。


「わざわざ集まってもらってすまないね。王女殿下をあまりお待たせするわけにもいかないから、手短にすませようと思う」


執務室の机の前に並んだ3人の男達にアランが告げる。


「まず、現在のところこちらで把握している事実をレノから報告してもらいたい」

「はっ。かしこまりました」


黒髪を短く刈り込んだいかにも軍人といった風情の男が、アランに名指しされて口を開いた。


「一つめはオルセー侯爵家の動きについてです。先日侯爵家令嬢マヌエラ様がシャバーブ帝国から取り寄せた惚れ薬を、アラン様の生誕パーティーに持ち込みました。こちらの使用は未遂に終わりましたが、原液はかの令嬢の元にあると見られることから、引き続き警戒が必要かと思われます。また、最近侯爵家の使用人であるヴァンという男が、海賊団のメンバーと接触しているところが何度か目撃されています。これまでも海運関連で双方の繋がりは皆無ではありませんでしたが、過去の接触頻度から見ても多いように思われます。こちらも引き続き注視すべきかと。二つめにその海賊団についてなのですが、このところ東の国と頻繁に船を行き来させていることがわかりました」


東の国、と聞いて、デュカスの眉がピクリと動いた。


「扱う交易品は従来のものと変わりないのですが、こちらも過去10年ほどは年に2〜3回だったものがこの半年間で5回と明らかに回数が増えています」

「……この半年間?」

「そう。去年の秋に東の国の商人が来た後から増えてるんだよ」

「………」


思わず聞き返したデュカスに、アランが答える。予想通りの返答に、デュカスの表情が険しくなった。


「ロッシュブール公爵家の把握した新しい情報は大体こんなものだ。他に何かそちらで掴んでいるものがあれば教えてほしい。…むろん、差し支えのない範囲で構わない」


アランの問いかけに「そうですね…」と目を伏せたデュカスが、言葉を選ぶように話し始めた。


「東の国の商人が普段よりも頻繁に出入りしていることはこちらでも掴んでいましたが、海賊と接触しているのは初耳です。このことは陛下へ報告してもかまいませんか?」

「もちろん。そのために我々も動いている」

「ありがとうございます。…あとは、ルーデック公国についてですが、ゲオルグ公のお身体の調子がよろしくないようですね。そのため、後継者を誰にするのか連日議会で話し合いが持たれているそうです」

「そうか……。ただでさえ国境付近の治安が不安定なのに、政情不安まで加わってしまうとさらに公爵領への道が遠ざかってしまうな」


憂鬱な表情を浮かべたアランだったが、すぐに切り替えてデュカスへと顔を向けた。


「デュカス殿、時間を取ってくれて感謝するよ。またこうやって情報共有してもらえると助かる」

「いいえ、こちらこそ。王女殿下をお守りするのが私共の役目ですので、どんな些細な情報でもいただけるとありがたいです」

「うん、その点については利害が一致しているね。…これからもルイーズを頼むよ」

「かしこまりました」


騎士の礼を取ったデュカスが出て行ったあと、アランが再び表情を曇らせた。


「それにしても、オルセー侯爵家は一体何を企んでいるんだろう?海賊に頻繁に接触しているヴァンという男が気になるね。サリュー、少し詳しく調べることはできるかな?」

「はい。お任せください」

「うん、頼むよ。海賊と東の国はしばらく様子見するとして……ルーデック公国はこちらではどうしようもないんだよね。早く後継者が決まるといいんだけど」

「アラン様、そろそろサロンに行きませんと…」


憂い顔の主人にサリューが声をかけると、パッとアランの表情が明るくなった。


「ああ、そうだね。僕達で手の出しようもない他国のことよりも、先ずは目の前にいる大切な人のことを気にかけないと」

「そうですとも。王女殿下もアラン様を待ち侘びておられると思いますよ」

「うん。待つ人がいるってすごく嬉しいね」


いつもの冷静な仮面を脱ぎ捨てて年相応の少年の顔をしたアランがいそいそとサロンへ向かうのを見て、サリューとレノは思わず顔を見合わせる。


(やはりルイーズ殿下はアラン様にとってなくてはならない存在なんだよな)


3年前に初めて彼女がここへ来た時からそうだったし、きっとこの先も変わらない。2人の間に入る隙など全くないと見ていれば分かりそうなものなのに、あの思い込みの激しいご令嬢はきっと初めから分かろうともしないのだろう。


周りが見えておらず己の願望のみを優先させる身勝手さは、えてして想像だにしないことを引き起こしがちだ。


(惚れ薬の次は、一体何を仕掛けてくるつもりだ…?)


そこまで考えたサリューは、少し前に耳にした話を思い出してレノの方を見た。


「そういえば、あなたの部下が目にしたヴァンという男が接触している海賊団員についてなのですが」

「ああ…サン・ソラージュ港の件か?」

「ええ。どこかで見たことがある顔だという話でしたが、どこで見たのか見当はついているのですか?」

「それなんだが…おかしなことに、アラン様の生誕パーティーに参加していた貴族の男にそっくりだと言うんだ。以前にも何度か見かけたことがある子爵らしいんだが」

「子爵…というと、具体的には?」

「…ファーブル子爵だ」

「魔導士団に所属している、あの?」

「そう、そのファーブル子爵だ。海賊団員の方は、左頬に大きな切り傷があるらしいがな」

「うーん…」


(他人の空似か、それとも本当に子爵家に関係があるのか?)


ファーブル子爵はサリューもパーティーで見かけたが、赤毛に榛色(ヘイゼル)の瞳というさして珍しくもない見た目だったように思う。彼に似ているという話が何かのヒントになりそうにもなく、却って謎が深まっただけだ。


「このことはアラン様には?」

「話していない。公爵閣下に"この件は自分が預かる"と言われたのでな」

「閣下ご自身が預かると仰ったんですか?」

「そうだ」


ロッシュブール公爵が自ら預かるということは、それなりに重要事項だということを示している。


「…今の話、私に話しても大丈夫だったんですか?」

「お前なら悪いようにはしないだろう。適切に対応できると判断したから話したのだ」

「ははっ、責任重大ですね」

「元よりそうだろう」

「お互いにね」


同じものに忠誠を誓う身として共感するところがあるのかもしれない。2人の男は互いを労うように笑い合うと、それぞれの任務に戻るべく執務室を後にしたのだった。


お久しぶりの更新です。

少し堅い内容でしたが、楽しんでいただけたでしょうか?

この数ヶ月の間、転職したりムーンの方の連載に時間を取られたりして、こちらの更新が滞ってしまいました。

新しい仕事にも少しずつ慣れてきてムーン連載もひと段落しましたので、また更新頑張りたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

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