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※2022/6/24

一滴の量についてご指摘をいただき、0.5cc→0.05ccへ訂正いたしました。それに伴い、惚れ薬の一瓶の容量も10cc→5ccへと変更しました。

どうやら一桁覚え違いをしていたようです。申し訳ありません。

ご指摘どうもありがとうございました。

「───”惚れ薬”?」

「さようでございます」


ここは王都内にあるロッシュブール公爵家の本邸。自室のソファーに座り怪訝そうな顔で聞き返したアランに、公爵家別邸の執事サリューは頷いた。


サリューの家は代々ロッシュブール公爵家の執事を輩出しており、現在の王都本邸の執事はサリューの父ブリュノが務めている。屋敷の管理や人事に関することから来客への対応、パーティーの準備など、執事の仕事は多岐にわたるが、それに加えて公爵家に関わる他家や王家の情報収集も執事としての重要な仕事の一つである。時には情報を集めるだけでなく表立っては言えないような仕事をこなすこともあるため、一人前の執事として認められるためには、一通りの教育や武術はもちろん、隠密行動に必要な知識や技術を身につけることも要求される。


父親の後を継いで将来的に本邸の執事となる予定のサリューは、今回アランの生誕パーティーでオルセー侯爵令嬢マヌエラが勧めてきた怪しげな液体の成分を調べていく過程で、同様の液体を王都内の高級娼館で見たことがあるという証言を得た。


「南の大陸にあるシャバーブ帝国の闇市場で取引されているもののようです」

「それはそれは……また随分と怪しげなものが出てきたね」

「はい」


マヌエラが勧めてきた時から疑っていたのだろう。驚くどころかむしろどこか面白そうにさえ見えるアランが、口元に薄っすらと笑みを浮かべてサリューを見た。


「それで…その薬の用法と効果は?」

「惚れ薬の原液と自分の血液を一滴ずつ何らかの飲み物に入れて、誘惑したい相手に飲ませます。するとその相手は自分のことしか目に入らなくなり、何としてでも手に入れたいという衝動を抑えることができなくなります」

「……”手に入れたい”とは、具体的にどういうこと?」

「まさに言葉のとおり……その人の身も心も自分のものにしたいと欲し、実際にそれを実現するために行動を起こします。…まぁ、一種の媚薬みたいなものです。ただし一般的な媚薬とは違い、対象者が限定される点が”惚れ薬”と呼ばれる所以ですね。私が自分の身体で実際に試してみたので間違いありません」


貴族や裕福な商人が通うという高級娼館に足を踏み入れたサリューは、惚れ薬の隠語として使われる”赤いバラ”を試してみたい、と支配人に告げた。それなりの身分に見える格好で出かけたため、支配人はサリューをどこぞの貴族だと思ったらしい。何やら含みのある笑みを浮かべ「こちらへどうぞ」と奥の部屋へと案内された。


中にいたのは、輝くようなプラチナブロンドに青い瞳の若い女だった。自分の未来の主人が想いを寄せる王女を彷彿とさせる髪と瞳を見て、サリューは思わず息を呑んだ。サリューの反応に気を良くしたのか、女は嬉しそうに微笑んでサリューを部屋に招き入れた。


「貴方みたいな人でも、この髪と瞳を見ると驚くのね」

「……それは本物?」

「まさか。髪は染めているし、瞳は魔法で色を変えているのよ」

「瞳の色を変える魔法?…水で光の屈折率を変えているのかい?」

「そう、大正解!すごいわね。一発で当てた人なんて初めてよ。…貴方、何者?」


女の視線が疑わしげなものに変わる。サリュー自身の魔力はさほど多くないが、凝り性の性格のせいでありとあらゆる魔法書を読み漁った弊害がこんなところに出てしまった。ここで変に疑われると、本来の目的を果たせなくなってしまう。サリューは自身の見た目が良いことを十分自覚していたし、それが仕事をこなすうえで役立っていることも分かっていた。女受けがいいと言われる優しげな表情で、サリューは困ったように苦笑を浮かべてみせた。


「もしかして警戒させてしまったかな?僕自身はしがない下級貴族の三男坊だよ。学園時代の友人で魔法が大好きなやつがいてね、彼の影響で珍しい魔法を見るとついどんな属性がどのように使われているのか分析したくなってしまうんだ。何の役にも立たない、ただの趣味なんだけれどね」

「……ふぅん。じゃあ、そういうことにしておいてあげる。せっかくのお客さまに無粋なことは聞きたくないし」

「ありがとう。助かるよ」


にっこりと笑ったサリューは、上着を脱いでから女の手を引きベッドへと誘(いざな)った。


「君のことは何て呼べばいい?」

「そうね…ルイーザって呼んでちょうだい」

「ルイーザ…」

「貴方のことは?」

「…じゃあ、僕のことはアルと」

「ふふっ…わかったわ」


この呼び名のことは絶対にアランには言うまいと固く心に決めつつ、サリューは例の薬について聞いてみることにした。


「ルイーザはよく”赤いバラ”を使うの?」

「いいえ、そんなに使わないわ。とても効き目が強い代わりに、副作用が酷いの」

「副作用というと具体的には?」

「まず、一度この薬を飲むと効き目が三日間続くわ。そして薬の効果が切れた後に、今度は一週間ぐらい全く異性を受け付けなくなるの」

「…ということは、僕は三日間ここに通わなくちゃならないってこと?」

「正確に言うと、丸三日ここから出られなくなるのよ」

「……なるほど」


三日間盛り続けるなんて、考えただけでも恐ろしい。背中を冷汗が伝うのを感じながら、サリューはルイーザと名乗った女がベッドから立ち上がりグラスを準備するのを眺めていた。


「……どうする?やめておく?貴方とてもいい男だし、私は三日分のお金をもらえるならその後一週間休んでも構わないけど」

「いや…君となら、ぜひ試してみたいね」

「そう?……貴方がどんな求め方をしてくれるのか楽しみだわ」


そう言って妖艶に笑った女が、棚から濃い紫色の小瓶を取り出した。グラスの中にあるシュワシュワと泡を立てている液体に中身を一滴注ぎ、瓶の蓋の裏側にある針のようなもので自分の指先を刺した。女の指から滴る赤い液体がグラスの中に落ちて溶けていくと、中の液体が薄いピンク色へと変化した。


「作るところを見るとちょっと気持ち悪いんだけど、大丈夫?」

「これから君の色んな所を味わう予定だから、それくらい構わないよ」

「あら……見かけによらず好き者なのかしら?」

「そうじゃなきゃ、こんなもの試したがらないだろう?」

「それもそうね」


うふふ、と笑った女から手渡されたグラスを一気にあおる。味は普通のシャンパンにしか感じない。しかしすべてを飲み干してグラスをテーブルに置いた直後、サリューは視界がグラリと傾ぐのを感じた。


「……アル?」


窺うように仮の名を呼んできた女の顔を見た途端、サリューは体中の毛が逆立つような興奮を覚えた。脳内から興奮物質が一気に放出されたように動悸が早くなり、下半身が熱を持つのを感じる。目の前の女を犯したくてたまらなくなり、乱暴に女の肩を掴んだサリューは彼女を強引にベッドに押し倒した。


「ルイーザ…!!」

「きゃっ……」


その後のことは、あまりよく覚えていない。途中で短い仮眠を取ったり、使用人が持ってくる食事を摘んだりしたのは覚えているが、意識のある間はほとんどずっとルイーザを抱いていた気がする。途中で何度も彼女が気を失ったのが分かったが、それでも彼女が欲しいという欲望が消えることはなく、最初に言われた通り結局サリューは三日三晩ルイーザを抱き続けたのだった。


「…どおりで疲れた顔をしていると思ったよ。あまり具体的には聞かないでおいてあげるけど、大変だったね。……それとも、役得だったかい?」


相手の女の容姿や互いの呼び名についての話はもちろんのこと、三日間どんな風に過ごしたのかということについてはまるっと省略して説明したにもかかわらず、大体の内容を察したらしいアランにニヤリと意地悪い笑みを向けられて、サリューは恐縮しながら首を振った。


「いいえ、滅相もない……もうあんな体験はたくさんです」

「お前がそう言うくらいだから、相当キツイんだろうね」

「えぇ。成人している私でさえかなり辛いですから、これを13歳になったばかりのアラン様に飲ませようだなんて正気の沙汰とは思えません。ましてやご自身もまだ12歳ということを考えると、あのご令嬢は本当に薬の効果を正確に分かったうえで飲み物に混入したのか、非常に疑わしいと言わざるを得ません」

「あぁ。僕もそう思う」


シャバーブ帝国というのは、古代から薬の調合において優れた技術を持っており、今でもいろいろな病気やけがに効く薬を周辺国に輸出することで利益を得ている。国に何人もいる王が後宮(ハレム)と呼ばれる場所に多くの女を囲っており、その中の一人が王の寵愛を得るためにお抱えの薬師に作らせたのが”惚れ薬”と呼ばれるものなのだとか。あまりの効果の大きさに製造を禁止されたが、実際は今でもこっそり作られ続けており、サリューの説明通り闇市場で取引されているらしい。


「僕以外の人に飲まれては困るから、わざと溢したんだろうね。あの時の彼女の動きはかなり不自然だったから」

「そうでしょうね」

「お前が見たその小瓶一本で、どれくらいの量がありそうだったかい?」

「そうですね……おそらく5ccぐらいではないかと」

「5ccか…」


仮に一滴0.05ccだとしても、全部で100回分はある。液体の性質にもよるが、もっと多く使える場合も考えられる。


「その薬には中毒性があるのかな?」

「同じ相手に使い続けると、そうなる可能性が高いそうです」

「………」


ものすごく嫌な顔で黙り込んでしまったアランにサリューは心から同情した。今回は自ら進んで服用したし相手の女もまあまあ好みだったから良かったようなものの、好きでもない相手にあの薬を盛られるのは耐え難いだろう。


「金輪際彼女と同じ夜会や茶会には出たくないんだけど、さすがにそういうわけにもいかないか……」

「…あ、あのっ!明日は王女殿下を別邸にお招きするんですよね!?”惚れ薬”の話は公爵様にもご相談するとして、とりあえずは明日の段取りを確認しませんか?」

「うん……そうだね。そうしよう」


”惚れ薬”に中毒性があると聞いて難しい顔で考え始めたアランだったが、サリューの言葉で気を取り直したように顔を上げると、明日のルイーズとの二人きりの誕生会へと気持ちを切り替えたのだった。


ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。

これまで、この作品をR-15にする意味はあるのか?と思っていましたが、ようやく今回その設定が役立ちました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一滴の量なのですが、10倍多い気がします。0.05mlくらいです。 [一言] いつも楽しく拝見させて頂いております。素敵な作品をありがとうございます。
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