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「この部屋を借りてもいいかしら?」
「もちろんでございます!どうぞお入りください」
「ありがとう」
司書の役人にドアを開けてもらい、ルイーズ達はいくつかある真ん中サイズの個室に入った。ここは4人まで使える部屋で、少し大きめのテーブルに椅子が4脚置いてある。ちなみに小さい個室は1〜2人用、大きい個室には10人くらいまで入れる。
「イレーヌ。調べ物を少し手伝ってもらえる?」
「はい、お役に立てるか分かりませんが…」
「もちろん十分役に立つわ。さっと目を通す程度で構わないから、『予知夢』『未来予知』『夢見』またはそれに似たような言葉が出てきたら教えてくれる?私はこっちの本を調べるから、イレーヌはこの束をお願い」
「かしこまりました。…殿下は、ファールシュタッド語がお分かりになるのですか?」
「あまり難しいのは無理だけどね」
「さすがです、殿下!」
「イレーヌも家庭教師に習ったんじゃない?」
「本当に初歩だけです。簡単な挨拶とか…。殿下は王家に来られる前から勉強されていたのですか?」
「えぇ。何故か私にとっては覚えやすくて」
「すごい…やっぱり元のスペックが違いすぎる…」
(小さい声だから聞こえないと思っているようだけど、しっかり聞こえてるからね!?)
イレーヌが向けてくるキラキラ目線に若干の居心地の悪さを感じつつ、ルイーズは自分の前にある本の山の一番上から手をつけることにした。そこから黙々と調べ物を続けて2カトル(30分)ほど経った頃、イレーヌが徐に席を立った。
「……どうしたの?」
「お茶をお持ちします。気づかずに申し訳ございません」
「そんなに気にしなくていいのに」
「いいえ、そういうわけには参りません」
深々と頭を下げて去っていったイレーヌは、すぐにお茶をワゴンに載せて戻ってきた。
「ありがとう。イレーヌも一緒に飲みましょう?」
「いいえ、わたくしは…」
「手伝ってもらっているのだし、私が許可するわ。自分で淹れてもらうことになってしまうけど、それで良ければ飲んでちょうだいな」
「ありがとうございます。…では、いただきます」
恐る恐るカップに口をつけるイレーヌにルイーズが微笑みかけると、硬い表情ではあるもののイレーヌも笑顔を返してくれた。実はこの時のイレーヌの脳内ではルイーズを褒め称える言葉が大音量で叫ばれていたのだが、もちろんそれをルイーズが知る由もない。
淹れたてのお茶を飲みながら、ルイーズはさりげなく例の帳面の話題を出してみることにした。
「そういえば、この前廊下で落とし物を拾ったんだけど心当たりはある?」
「……落とし物、ですか」
「えぇ。小さな帳面なんだけどね」
「帳面…」
小さく呟いたイレーヌにポケットから取り出した紙の束を掲げてみせるが、彼女は顔色を変えない。
「見覚えはない?」
「…ありません」
「そう。…じゃあ、他の人をあたってみるわね」
(なるほど…あくまでシラを切るつもりね。まぁ、それも想定内なんだけれど)
怪しい言葉が書いてある帳面をすぐに自分のものだと認めるのは、確かにリスクが大きい。ルイーズは帳面の話題は終わったことにして、再び調べ物を始めた。
それからしばらく経って、イレーヌが「あの、殿下」と声をかけてきた。
「何かしら?」
「ここの文章ですが…」
イレーヌが差し出したのは、「世界の魔法・魔術・占術」という分厚い事典のような本だった。その占術に関する説明の中に、東の国では伝統的に神からの予言を預かる職業がある、という記述があった。
「これは、未来予知には入らないでしょうか?」
「神からの予言……なるほどね」
いわゆる巫女のような職業ということだろうか?神からの予言だとおそらくもっと漠然とした内容になるのだろうが、これから起こる未来のことを話すことには違いない。
「素晴らしいわ、イレーヌ。よく見つけたわね」
「いえ…たまたま目についただけですので…」
「それでもすごいわ。…とりあえずこれはリストに入れておきましょう」
「はい」
仮にイレーヌの言う通りたまたまだったとしても、指定したキーワードが出てこないにもかかわらず、内容を読み落とさずにこれだけの分厚い本の中からきちんと拾い上げてくるというのは、この歳でなかなかできることではない。ましてやイレーヌは姉妹ばかりの子爵家の三女。先程のファールシュタッド語の話からも推測できるように、おそらくレーヌ家でルイーズが受けていた教育の方が上だろう。
…ということは、よほど素の頭が良いか、もしくは前世でそれなりの教育を受けてきたかのどちらかと考えるのが無難だ。
だからこそ、うっかり落としてしまった怪しげな帳面を簡単に自分のものだと認めはしないだろう。でも、もし本当にイレーヌが転生者で『君バラ』について知っているのなら、何としてでも細かい設定やこの先の展開を聞いておきたい。それから、もしできるなら元の世界についても語り合ってみたい。
そんなことを考えつつ調べ物を続けていたルイーズだったが、ふと図書館の窓から見える陽の光が濃くなってきたことに気づいて顔を上げた。
「……今日のところはこの辺で終わりにしましょうか」
「はい、殿下」
「とても助かったわ。また時間がある時に手伝ってくれる?」
「はい!もちろんです」
「ふふ、ありがとう」
荷物をまとめて帰り支度を始めたイレーヌを見ながら、ルイーズはある決心をしていた。
(いつもはもっと周りに人がいて、なかなかイレーヌと2人になる機会なんてない。せっかくのチャンスを逃す手はないわ)
必ずしも上手くいくとは限らないが、このまま何もしないで部屋に戻るよりはマシだ。ルイーズは一か八か賭けに出ることにした。
「…ねぇ、イレーヌ」
「はい、なんでございましょう?」
「ジェラールの誕生日が近いから今度プレゼントを買いたいのだけれど、一緒に選んでくれる?」
「……わたくしが一緒に選んでもよろしいのですか?」
「えぇ、もちろん。出入りの業者が来る時に同席してくれると心強いわ」
「はい。かしこまりました」
イレーヌは必死に隠しているようだが、口許がニヨニヨと緩んでいる。前にジェラールが部屋に来た時、妙に視線を感じると言っていたが、もしかしてイレーヌはジェラールのファンなのだろうか?
「ジェラールにはペンを選ぼうと思っているのだけれど、どんなものがいいかしら?」
「ペンですか…」
この世界でペンといえばインクを付けて使うペンのことで、羽根ペンと万年筆が存在する。元の世界のようなインクカートリッジ式の万年筆は残念ながら無いのだが、それでも万年筆は庶民にはとても手が出ないほどの高価なものであることに変わりない。
「ジャックの誕生日も近いから、ついでに選ぼうかしら…」
「……え?ジャック様は夏生まれなのでは───」
(───かかった)
慌てて口を噤んだイレーヌが、ギギギと音がしそうなほど不自然に顔をこちらに向ける。パチリ、と大きく一つ瞬きをしてからルイーズは首を傾げた。
「あら…そうだったかしら?」
「…………」
国を上げてお祝いをする王族はともかく、貴族といえども基本的に誕生日を知っているのは親しい間柄のみ。貴族名鑑には生まれ年は載っているが、詳細な日にちまでは載っていない。
「イレーヌはジャックと面識があるの?」
「……いいえ」
「そう。ならどうして誕生日を知っているかのような言い方をしたのかしら?」
「そ、それは……」
言い淀むイレーヌは明らかに目が泳いでいる。ルイーズは一度ポケットにしまった帳面を取り出して、再び問いかけた。
「もう一度訊くわ。この帳面は貴女のものよね。……風間由依さん?」
「!!?」
イレーヌの顔に浮かぶ驚愕の表情を冷静に観察しながら、ルイーズは自らの作戦がうまくいったことに内心ホッと胸を撫で下ろしていた。
何とか予告通り投稿できて良かったです。
次までは書いてあるので、早めに上げられると思います。少しゲームのネタバレもありますよ〜。
ここまでお読み下さいまして、ありがとうございました。
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