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ここから第3章です。

よろしくお願いします。

年が明けて最初の大きな行事は、王城で行われる新年祝賀会である。その名のとおり今年も無事に新しい年を迎えられたことをお祝いする会だが、夕方から始まる夜会なので基本的には成人した貴族のみが参加する。例外的に王族の子供は顔を出すことになっているが、それも初めの挨拶の時間だけで、パーティーが始まってしまうと退席するのが慣しだ。


少なめの昼食の後、年に数回の晴れの舞台とあっていつもより気合の入った侍女たちによって飾り立てられたルイーズは、目の前の鏡を見ながら己の化けっぷりに感動していた。


今日の装いは、オフホワイトのプリンセスラインのドレス。レースで作られた薔薇がふんだんにあしらわれた清楚でありながら豪華なデザインなのだが、その美しさには思わず溜息が出てしまうほどだ。緩く編み込まれた髪には白い薔薇の生花が飾られており、我ながらなかなかの美少女だと思う。


(この衣装がもう二度と日の目を見ないのかと思うと、もったいないお化けが出そう…)


いくら出番が短いとはいえ、国中の貴族の前に出るわけだから、服装もそれなりのものである必要がある。しかし成長期であるルイーズのドレスは、来年には着れなくなってしまう。


さっきとは違う意味でまた溜息をついたルイーズを鏡越しに見たモニークが、髪を整えていた手を止め不安げに眉を下げた。


「……お気に召しませんでしょうか?」

「っ、いいえ!とても素敵に仕上がっているわ」

「本当でございますか?何やら浮かないお顔でしたので……」

「えぇと、それはね…この素敵なドレスももう二度と着ないのかと思ったら、勿体ないなぁって…」

「あぁ、なるほど。そういうわけでしたか」


ルイーズの言葉にホッとした表情でモニークが微笑んだ。


「殿下はそのようなことにまでお気を回されて…本当にご立派ですね。…殿下のお衣装の一部は、シャルロット殿下のドレスにリメイクされていると聞きました。このまま捨ててしまうわけではございませんのでご安心ください」

「そうだったのね!…もしかして、私の衣装もどなたかのリメイクだったりするのかしら?」

「そうですね……お年の近い王女様がいらっしゃらないので分かりませんが……」


ルイーズよりも年上の王女といえば、一番近くて現国王の姉でデルアーレ王国に嫁いだマリアンヌだ。30歳近く離れているから、さすがにリメイクは難しいかもしれない。


ルイーズとモニークがそんな会話を交わしていると、にわかに部屋の外が騒がしくなった。甲高い子供の声が聞こえるところから、どうやらシャルロットが突撃してきたようだ。


「ルイーズ殿下。シャルロット殿下が──」

「おねえさま、シャルロットです!入ってもよろしいですか?」


ルイーズ付きの近衛騎士を遮ってドアの外から聞こえるシャルロットの声にルイーズは苦笑した。入室の許可を騎士に伝えると、すぐさま小走りでシャルロットが駆け寄ってきた。


「わぁ!おねえさま、きれい!!」

「ありがとう。シャルロットもとても可愛いわよ」

「ほんとう?おねえさまとおそろいのドレスとってもうれしい!」


今日のルイーズとシャルロットは、髪型から靴に至るまでの全身がお揃いである。もうすぐ5歳になるシャルロットは本当に可愛らしくて、まるで薔薇の妖精のようだ。2人が並んだ姿を見て、侍女達もニコニコしている。


『W王女の双子コーデとか眼福すぎる……』


(え……?)


この世界では聞くはずのない言葉が聞こえた気がして思わずルイーズが部屋の中を見回すと、キラキラした目でこちらを凝視している茶色いおさげ髪の少女が目に入った。年明けに侍女見習いから正式にルイーズ付きへと昇格したイレーヌである。食い入るように自分達を見つめるイレーヌの熱い視線に気づいてルイーズはたじろいだ。


(前から思ってたけど、イレーヌの視線ってまるでアイドルを見るオタクって感じなんだよね…。前世では王室とか皇室の追っかけみたいな人達がいた気がするけど、こっちの世界にもそういう人がいるのかな?)


もしイレーヌがそうだったならば、王女付きの侍女なんて役得でしかない。自分に限っていえばただの貴族令嬢に毛が生えたようなものだけれど、周りの王族メンバーはキラキラ感が半端ないから、見ているだけでも眼福だろう。


(さっき前世の日本語っぽい言葉が聞こえた気がしたんだけど……まさかね……)


他の侍女に混ざって片付けをするイレーヌを視界に入れつつ、きっと自分の気のせいだと思い直しルイーズはシャルロットと共に新年祝賀会の会場へと向かったのだった。



◇◇◇◇◇



グランシェール王国では誕生日を祝う風習はあるものの、伝統的には数え年──つまり年が明けると一つ歳をとるという考え方だ。したがって、年齢を訊かれたときには「今年○○歳になります」と答えるのが一般的である。


グランシェール的に言うならば、今年ルイーズは11歳になる。父である国王には、12歳までに婚約者を決めると言われているので、期限は今年いっぱいということになる。


年が明けて数日が経ったこの日、ルイーズの部屋には王城での勉強会を終えたジェラールが顔を出していた。


「エミール殿が婚約者候補を辞退したんだってね」

「そうなのよ」

「今までかなり乗り気だったキャシュフォール侯爵が急に辞退するなんて言い出したから、お祖母様がしきりと訝しんでたよ。…何か事情でもあるの?」

「えぇ、実はね…この前エミール様と姉君のブリジット様が来られたのだけど」

「うん」

「その時ブリジット様が───」


お茶請けのクッキーを上品な仕草で食べるジェラールの綺麗な顔に見惚れて、つい正直に答えそうになったルイーズは慌てて口を噤んだ。


「ブリジット様が……どうしたの?」

「え、えーと……」


(危ない…もう少しでアラン様のことを言いそうになっちゃった…)


アランが好きだと2人に告げたことは、さすがにジェラールには言えない。どう答えたものかと頭をフル回転させながら、ルイーズは口を開いた。


「……ブリジット様がずっとお話しされて、エミール様はちっとも話そうとして下さらないものだから…」

「エミール殿は姉君以外の女の子とは話せないらしいからね」

「え、そうなの?」

「うん。僕らとは普通に話すけどね」

「そうだったの…」


とっさにエミールのことを話題にしてしまったが、どうやらジェラールには怪しまれずに済んだようだ。それにしても、エミールの恥ずかしがり屋は筋金入りのようだ。


「──それで、エミール殿を候補から外すことにしたわけ?」

「いいえ。それも全くないとは言えないけど、直接の理由ではないわ」

「じゃあ、何が理由なの?」

「エミール様がいつも私と目も合わせて下さらないから、私と話すのが苦手なのだろうと思ってそう尋ねてみたの」

「へぇ…それでエミール殿はなんて答えたんだい?」「…私と話すのは嫌ではないらしいわ。でも私の目を見たら頭が真っ白になってしまうんですって」

「あぁ、なるほど」

「……?」


ルイーズにはよく分からないが、ジェラールは何やら納得した様子だ。


「エミール殿から辞退したいと言い出したの?」

「ええ、そうよ」

「確かに…その話のとおりなら、婚約者としては厳しいかもね」

「……そうかしら?」

「そうだよ」


首を傾げるルイーズの向かいに座るジェラールが近づいてきて、そっとルイーズの手を取った。2人きりの時には付けて欲しいというリクエストに応えて、手首には彼からのプレゼントであるブレスレットが煌めいている。


(え……な、なに……?)


急に近くなった距離に驚くルイーズを見つめてジェラールが微笑んだ。


「その青い瞳……高貴な青(ブルー・ノブル)と呼ばれる綺麗な青い瞳をまともに見ることができないエミール殿に、貴女はもったいない」

「そんな大げさな……」

「いや、ちっとも大げさなんかじゃないさ。…ルイーズ様は僕にとってももったいないくらいの人だけど、少なくとも彼よりは貴女の魅力を分かってるつもりだよ」


この瞳の色が珍しいということは自分でも分かっているつもりだが、面と向かって言われるととても恥ずかしい。綺麗な顔が間近にあることも手伝ってか、心なしか顔が熱いような気がする。


ほんのり頬を染めたルイーズを見て、いつもとは違う反応にジェラールも鼓動が早くなるのを感じた。濃い青の瞳をじっと見つめていると、吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥る。まるで催眠術にでもかかったようにゆっくりと華奢な手を持ち上げようとして、ジェラールがはたと動きを止めた。


「……ジェラール?」


途中までルイーズの手を持ち上げたまま動かないジェラールの名前を呼ぶと、ジェラールがほとんど口を動かさずに呟いた。


「……なんかものすごく視線を感じるんだけど」

「え……?」


言われて部屋の中を見回してみるが、侍女達はいつものように部屋の隅に待機して視線を落としている。


「特にいつもと変わらないと思うけど…」

「うーん、なんて言うのかな……まるで獲物を狙う肉食動物のような視線というか……じっと凝視されているような気がしたんだよね。……気のせいならいいんだけど」

「……?」


落ち着かない様子で周りに視線を巡らせたジェラールが、素早くルイーズの指の先にキスを落とした。


「っ…ジェラール!」

「ふふっ…油断したでしょ、ルイーズ様?」

「もう……」


悪戯が成功した時のような得意げな笑顔に、すっかり怒る気も失せてしまう。


(こういうところが憎めないのよね……)


同い年の気安さもあり、ずいぶん絆されているという自覚はある。でも、アランと一緒にいる時のようなドキドキ感は、ジェラールには感じないのだ。だからこれは友達に対する親愛の情であって、恋愛感情ではない。……多分。


すっかりこの世界の生活が長くなってきてだんだんと精神年齢が実年齢に近づいてきつつあるルイーズは、その辺の感情が自分でも曖昧になっているのを感じる。


(よく考えたら前世ではまだ小学生なんだものね……)


結婚年齢が早いこの国では、早く大人にならなければいけないのが現実だ。とはいえ、時間が許す限りはジェラールともアランとも仲の良い友人として接することができればいいなと思っている。


最近は屈託のない笑顔を見せてくれるようになったジェラールに、ルイーズも心からの笑顔を返したのだった。


ここまでお読み下さいまして、どうもありがとうございました。

今回から第3章というわけで章タイトルを考えたのですが、上手いこと思いつかず、とりあえず王女編②としました。センスがなくてすみません…。

いいものが思いついたら後で変更するかもしれません。


だいぶ役者も揃ってきてタイトル通りフラグばかりが乱立しておりますが(汗)、少しずつ回収しつつ進めていけたらいいなと思っております。

どうぞこれからもよろしくお願いします。

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