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更新お待たせいたしました。
「それでは、これから見本をお見せしますので。注意して見ていてくださいね」
「はい、よろしくお願いします!」
膝を落として地面に掌をついたヴィクトル・ド・ギャレット辺境伯が目を閉じると、一箇所に魔力が集中するのを感じた。どこからともなくゴゴゴと地鳴りのような音が聞こえてきたかと思うと、数拍後に地面がボコボコッと盛り上がり始めた。
「わっ…!す、すごい…!!」
少し離れた場所でその様子を見つめていたルイーズは、盛り上がった土の塊がみるみるうちに人型になっていく様子に歓声を上げた。
ここは王城の奥にある広大な森林地帯。通称「王家の森」と呼ばれる森の入口近くで、ルイーズはグランシェール王国筆頭魔導士補佐であるギャレット辺境伯と土魔法の訓練を行っていた。
いつも魔法の訓練に使っている王城内の訓練場も地面は土で出来ているが、室内であるために土の量には限界がある。そのため、ちょっとした砂塵や泥爆弾のような攻撃はできるが、土の壁を造ったりといった大掛かりな魔法には向いていない。土魔法の基本に関してはギャレット辺境伯から合格点をもらったため、今日はさらにステップアップのため訓練の場を外に移しているのだった。
自分とヴィクトルとの間に立つ、高さ4〜5マトル(メートル)はあろうかというほどの土の人形──いわゆるゴーレムを見上げて、ルイーズは感嘆のため息をついた。
「……さすがです、ギャレット辺境伯。これは確かに訓練場では作れませんね」
「恐れ入ります。……ただ、やはり他の属性魔法と比べると、土魔法は室内…特に建物の高層階では少し不利と言えるかもしれません」
「地面まで距離があると、魔法が行使しづらいのですか?」
「そうですね。一般的に高い場所になればなるほど、そこまで土や砂を持ってくるのにも魔力と時間が必要ですから」
「なるほど…」
「私の場合は、風魔法と組み合わせることにより、その難点についてはほぼ克服していますが」
「あぁ…そういう使い方をするのですね。でもそれですと、土魔法の属性しか持たない人はやはり不利ですよね?」
「そういうことになりますね」
ルイーズの言葉に頷いたヴィクトルが自らの作り出したゴーレムに掌を向けると、大きな土人形はあっという間に崩れて地面へと吸い込まれていった。
「……さぁ、次は殿下の番です。まずは地面に手をついて、ご自分の魔力の流れを感じてください」
「はい」
先程ヴィクトルがやっていたのと同様に、ルイーズは片膝をついて利き手である右手の掌を地面にあてた。身体の中を流れる魔力を感じるため、目を閉じて集中する。
この魔力の流れを感じる訓練は当初からずっと行っているのだが、最初はなかなかコツが掴めなかった。イザークから「血管の中を血液が流れるのと同じ感じです」と教えてもらい、前世の某忍者マンガのチャクラのイメージでやってみたら、少しずつできるようになった。レーヌ家で魔法の本を読んだ時に感じた忍者が印を結ぶイメージは、あながち間違っていなかったわけだ。
魔力の流れを感じることができたら、今度はそれを地面に向かって流す。土の中に魔力が流れ込んでいく様子をイメージしていると、だんだん体が軽くなってポカポカしてきた。
目の前でパラパラパラと土が空中に浮き上がる気配したかと思うと、ダンッと何かが着地したような音がして、ルイーズは目を開けた。
「……これ……は」
現れたのは、全長0.5マトルほどの泥人形。前世のミシ○ラン人形のようなずんぐりむっくりした土の塊が、勇ましそうに(?)仁王立ちしていた。
(一応出てはきたけど、なんだか弱そう……辺境伯のゴーレムとはえらい違いだわ……)
がっくりと肩を落とすルイーズの耳に、ヴィクトルの興奮した声が入ってきた。
「素晴らしいです、殿下!」
「………そうでしょうか?」
「えぇ!一発目でちゃんと人型のものが出てくることはまずありません。ましてや殿下はまだ訓練を始めてから数ヶ月です。さすがとしか申し上げようがありません」
「そこまでおっしゃるのなら、そうかもしれませんが……」
とはいえ、さっきの屈強そうなゴーレムを見てしまった後では何とも締まりがない。歯切れの悪いルイーズに、ヴィクトルが朗らかに笑いかけた。
「せっかくですから、この人形を動かしてみましょうか?……魔力の流れを感じつつ、人形に何か命令してみてください」
「えーと、そうですね……」
この泥人形に何を命じたらいいか少しだけ考えてから、ルイーズは魔力の流れを感じるために目を閉じた。
「……では、わたくしとギャレット辺境伯の周りをランニング!」
目を開けてからビシッと指差して命じると、泥人形はヒョコヒョコとルイーズたちの周りを走り始めた。足をつく度にベシャベシャと音がするのはこの際目を瞑ることにする。
「おぉ、素晴らしい!殿下は本当に筋が良いですなぁ」
「あ、ありがとうございます」
ここまで手放しで褒められると、さすがに悪い気はしない。ちょっと照れながらお礼を言うルイーズに目を細めたヴィクトルが、上着の胸ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した。
「今日はこの辺にいたしましょうか。…殿下、人形に土に戻るようご命令ください」
「はい。……ご苦労様、もう戻って良いわよ」
ルイーズが声をかけると、泥人形はベシャアッと土の中に溶けていった。後には何も残っておらず、訓練前同様に草が生えた地面があるだけだ。
「初めてでここまでできれば十二分です。何度もやっていくうちに、だんだん人形が大きくなっていろんな命令をきくようになりますよ。そうなれば、人形に物理的な攻撃や防御だけでなく、魔法による攻撃をさせることも可能です」
「それはすごいですね。……慣れれば同時に何体もの人形を動かすことはできますか?」
「そうですね……かなりの魔力を消費しますが可能です。殿下は魔力量も多いようですから、先程私が出した大きさのものでも4,5体はいけるのではないかと。……あくまで可能性の話ですが」
「なるほど、そうなのですね。……他の属性魔法も同時行使しながらは、さすがに厳しいですかねぇ……」
「……え?」
そもそも多属性であること自体珍しいのに、巨大な土人形を何体も行使しながら他属性魔法も使うなどというとんでもないことを呟いた王女に、ヴィクトルは思わず耳を疑った。
「あ…すみません、変なことを言ってしまって。出来たら良いなぁと思っただけなので、聞き流してください!」
「あ、いえ…」
「そろそろ戻る時間なのですよね?」
「はい、そうですが…」
「では参りましょう!…ギャレット辺境伯、どうもありがとうございました」
「え、えぇ。こちらこそお付き合いいただきありがとうございました」
「マルセラ、帰りましょう」
「はい、殿下」
(……陛下は王女殿下を前線に立たせるつもりはないと明言されていたが、殿下のご希望は実践的な訓練ばかりだ。実践的な訓練を急いでいるのは、この前の件以外にも何か理由があるのだろうか?)
先日東の国の商人が来た時のことを、ヴィクトルはガルニエ公爵から聞いていた。一体何処からルイーズに関する情報が漏れたのかは調査中だが、下手をすると国同士の争いの種になりかねないほどの魔力をルイーズは持っている。ルイーズ本人は魔法に対してただ貪欲なだけで自身の存在の重要さにあまり気づいていないようだが、公爵をはじめとした魔導士団のトップは今回の事態をかなり重く見ている。
(厄介なことにならなければいいのだが……)
侍女を連れて足取り軽く王城へと戻って行く王女を追いかけながら、ヴィクトルは自分達の懸念が現実のものとならないよう祈るのだった。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。
なかなか更新速度が上がらず、本当に申し訳ありません。
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