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※2020年9月21日
魔導士団に務めるイレーヌの姉
1番上→2番目に修正いたしました
ずいぶん日が短くなり、朝晩もめっきり冷え込んできた晩秋のある日。午前中の魔法の講義を終えてアルベールが帰ったばかりのところに、部屋をノックする音が聞こえた。
取り次いだモニークが些か緊張した面持ちで戻ってきたと思ったら、その後から侍女長であるイザベルが1人の少女を連れて入ってきた。王宮侍女のお仕着せに身を包んだ少女はちょうど自分と同じくらいの年に見える。
「先触れも出さずに申し訳ございません。少し予定よりも早まってしまい、急なご挨拶になりますことをお詫び申し上げます。本日より、侍女見習いとして内宮で預かることになりましたイレーヌでございます。……さ、王女殿下にご挨拶を」
侍女長に促されて、茶色いおさげ髪の少女が一歩前に出た。
「お目にかかれますことを光栄に存じます。イレーヌ・ヴァリエと申します。よろしくお願い申し上げます」
深々と頭を下げるイレーヌは髪と瞳はこの世界では1番多い茶色ながら、リスを思わせるような大きな瞳で可愛い顔立ちをしている。家名に聞き覚えがあったのでもしやと思い、ソファーから立ち上がりイレーヌの前まで行く。
顔を上げたイレーヌと目が合うと、キラキラした瞳でジッと見つめられた。前世でいうアイドルに向けられるような熱のこもった視線に、少しばかり居心地が悪くなってくる。しかしここは王女たるもの、それを顔に出すわけにはいかない。ルイーズはなるべく優雅に見えるようにゆったりと笑顔を浮かべた。
「ルイーズです。よろしくお願いしますわね。…もしかして、イレーヌには魔導士団にお姉さまがいたりするかしら?」
「あ…はい。2番目の姉が魔導士団で窓口の仕事をしております」
「やっぱり!じゃあ、ヴァリエ子爵家の出身なのね」
「はい、ヴァリエ子爵家の三女です」
「そう。…年はおいくつなのかしら?」
「10歳になります」
「じゃあ、わたくしと同い年ね!」
「はい」
「恐れながら殿下、そのことなのですが…」
イレーヌの後ろに控えていた侍女長がズイッと出てきた。
「なにかしら?」
「殿下が学園にご在学中、イレーヌが身の回りのお世話をさせていただく予定でございます。今から内宮で見習いとして侍女の仕事を覚えることになっているのですが、まずは殿下にご挨拶させていただいた次第でございます」
なるほど、そういうわけか。これまで見習いの侍女から挨拶を受けたことがなかったので不思議に思っていたが、学園で3年間一緒の予定ならばこの対応も肯ける。
「…長いお付き合いになりそうね、イレーヌ。どうぞこれからよろしくね」
「は、はい!勿体ないお言葉でございます……」
恐縮しまくっているイレーヌを連れて侍女長が部屋から出て行くと、微妙な顔のマルセラと目が合った。
「…どうしたの?何か困ったことでも?」
「いえ……ただ、私は学園にはご一緒できませんので、そのことが口惜しいな、と」
「マルセラ…」
王立学園は全寮制で、それは王族といえども例外ではない。高位の貴族以上になると侍従を連れていいことにはなっているが、学園の規則として対象年齢以外の者は教師や職員を除いて学園に入れない。そのため、年齢の近い者を侍従とするしかないのだ。
「身の回りのお世話だけでなく、護衛についても殿下に近い年齢の者が付くことになりますが、その選定はすでに済んでいるのではないかと」
「え、そうなの?」
歳の近い護衛まで既に決まっていると聞いて少し驚いた。マルセラは当然といった顔だ。
「はい。恐らく今は任務のための訓練中かと。実践も積ませる必要がありますので、少なくとも入学の2〜3年前にはこちらに来ると思います」
「そうなのね」
寮は男女で分かれているから、もちろん女の子ってことよね?同じくらいの歳で護衛ができるほど強い女子なんてすごい…。
(学園で護衛が必要になるような場面に出くわさないことを祈りたいけど、私も自分の身を守るくらいには魔法を身につけないとね!)
今日の昼食は王城での剣の稽古を終えたアランと一緒にとる予定になっているが、まだ昼食までには半刻ほど時間がある。……ということは、今なら稽古の様子が見られるかも。
前々からアランが剣を振るう様子を見てみたいと思っていたのだ。善は急げとばかりに、ルイーズは身支度を始めた。
「マルセラ。騎士団の訓練場に見学に行きたいのだけれど、付き添いをお願いしてもいいかしら?」
「今からでございますか?」
「えぇ、お昼まで少しだけ見られれば十分だから」
「…かしこまりました」
「ありがとう。お昼にアラン様がいらっしゃるから、モニークは準備をお願いできる?」
「はい、殿下。かしこまりました」
部屋を出たルイーズは、マルセラを伴って外宮へ向かった。訓練場がある円柱形の建物が近づくにつれ、野太い声や剣戟の音が聞こえてくる。場違い感が半端ないルイーズと違って、よくここに通っているというマルセラは慣れた様子で建物に入っていく。
訓練場をぐるりと囲む廊下に二ヶ所だけある出入口の隙間から、体格の良い騎士団員に混じって彼らよりもずっと小柄な少年達が練習している一角を見つけた。頭や胴、腕などに防具を付けた状態なので、遠目には誰が誰だか分からない。
指導係であろう騎士数人が、1人につき2〜3人ずつの子息を相手に稽古をつけている。皆同じように見える子息達をしばらく観察していると、その中の1人に自然と目が留まった。
まず、剣を構えた時の姿勢がとても良い。そこからの無駄のない動き、癖のない綺麗な太刀筋、全ての身のこなしがとても美しい。稽古をつけてもらったあと待っている間の立ち姿になんとなく見覚えがある気がしてよく目を凝らしてみると、背格好からどうやらルイーズの目当ての人物だと気付いた。
顔が見えなくても分かるなんて、あまりにアランが好きすぎて自分で恥ずかしくなってくる。熱くなってくる顔を両手で押さえているうちに、騎士による稽古は終わり少年達同士の手合わせが始まった。
同時に2組ずつが手合わせしていく中で、アランは最後の組に登場してきた。相手はアランよりも顔半分ほど背が高い少年だ。互いに礼をして構えたのち、「はじめ!」の掛け声と共に相手の少年が素早く斬り込んできた。
(速い!……けど、アラン様はもっと速い!!)
半身を捻って相手の攻撃を難なく避けると、アランはあっという間に胴に一本入れていた。防具もあるし木刀なのでもちろん怪我はしないが、なかなか痛そうだ。
相手は身体も大きくパワーはアラン様よりもありそうだけれど、やや動きが大きいような気がする。踏み込みや次の動作に移る時に隙があるのだ。ルイーズが見ていて分かるくらいなのだから、きっと騎士団の皆さんにはよくわかるんだろう。
(あぁ、ほらそこ!…だから、動きが大きいんだってば!……あーあ、また取られちゃった)
「そこまで!」の声がかかり、手合わせが終了する。相手の少年が親しげにアランの肩を叩いているところを見るに、どうやら2人は友達らしい。
(それにしても、本当にアラン様は隙がないなぁ)
動きも美しくて惚れ惚れしてしまう。頭に防具を付けてるのがもったいない。あの素敵なお顔を出してもう一回手合わせしてほしい……。
そんなことを考えていると、「あの、殿下」とマルセラに声をかけられた。
「……なにかしら?」
「恐れながら、殿下は剣の稽古をされたことがおありでしょうか?」
「いいえ、ないわ。どうして?」
「……先程手合わせをご覧になっている途中に呟いておられた言葉が的を射ていたものですから、もしやと思ったのですが……」
「え……」
どうやら集中して見ているうちにすっかり興奮してしまい、気づかないうちに声に出してしまっていたらしい。実は前世で子供の頃に弟と剣道を習っていたことがあり、その感覚で思ったことを言っていただけ。弟は中学高校と続けて有段者だったけれど、"私"は中学に上がる前にやめてしまったので初心者に毛が生えた程度だ。経験者だと言うのもおこがましいほどの腕前なので、自分でもすっかり忘れていたのだが。
「…私は剣の経験はないわ。ジャックが稽古しているところを見たことがあるだけよ。はしたないところを見せてしまってごめんなさい。お母様に叱られそうだから、このことはどうか内緒に───」
「王女殿下は一体何を内緒にしたいのでしょう?」
背後から聞こえた声に振り向くと、稽古を終えて訓練場から出てきたアランがこちらに向かって来るところだった。
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