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今回はアラン様です。
人生2度目の生誕パーティーを終え、ルイーズは自室のソファーで休憩を取っていた。お昼少し前に始まったパーティーが終わったのは、約2アルス(4時間)が経った頃。その後着替えを済ませて自室に戻ってきたのが今から四半アルス前のこと。
ソファーでウトウトしかけていたルイーズの耳に、ドアをノックする音と近衛兵の声が入ってきた。応対に出たモニークが、すぐに戻って来てアランの到着を告げる。
「…待たせてしまったかな?」
慌てて出迎えると、パーティーの服装そのままで完璧な笑顔を貼り付けたアランが、感情の読めない声で言った。
「…いいえ」
「そう。なら良かった」
口調は柔らかいのに、目が全く笑っていない。
(こ、怖すぎる……)
心当たりは……まぁ、あるけど。
(あれは不可抗力だって!!)
思わず顔が引き攣りそうになるのを必死で堪えて、何とか笑顔を作る。
「お疲れでしょう?どうぞお座りになってください」
「うん。お言葉に甘えて、そうさせてもらうよ」
笑顔を崩さないままソファーに座ったアランが、ルイーズに向かって手招きをした。
「ルイーズもおいで。…プレゼントを渡す前に、少し話をしよう」
「は、はい……」
まさに蛇に睨まれた蛙、とはこのことか。
ぎこちない動作で、ルイーズは恐る恐るアランの隣に腰を下ろした。
「今日はパーティーの主役お疲れさま。長い時間大変だったね」
「いえ…あんなに大勢の方に祝っていただいて幸せです」
「そうだね。……ねぇ、ルイーズ。君に聞きたいことがあるんだけど」
「はい」
相変わらず感情の読めない笑顔を浮かべたままのアラン。次に来る言葉を予想して、思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「ジェラールのことを、どう思ってる?」
「………え?」
てっきりテラスでのことを問い詰められると思っていたルイーズは、予想外の質問に目を瞬いた。アランの顔からはよそ行きの笑顔が消えていて、その代わり真剣な眼差しで見つめられ少し戸惑ってしまう。
ジェラールに対して特に恋愛感情はないし、多分これからもそうだと思う。そのことを素直に伝えるしかないのだけれど……。
「ジェラール様とは、友人として仲良くしていきたいと思っています」
「………友人」
「はい」
「異性として好意を持っているわけではない、と」
「そうです」
じっと見つめてくるアランを、目を逸らさず真っ直ぐに見つめ返す。すると、これまで感情が乗っていなかった視線に僅かに熱が篭ってくるのが分かった。
「……僕は、少しは自惚れてもいいのかな?君が、ジェラールよりも僕を好いてくれていると」
「もちろんです!……アラン様を、お慕いしております……」
後半消え入るような声になってしまったのは、仕方ないと思う。誤解されたくなくて思わず言ってしまったけれど、穴があったら入りたいくらいだもの。恥ずかしさでいたたまれず下を向いてしまったものの、いつまで経っても反応がないので視線を上げてチラリと隣を窺うと、アランはほんのり頬を染め片手で口元を押さえたまま固まっていた。
(う、わぁ……これはレアすぎる……)
いつものクールな雰囲気からは想像できないアランの様子を目にしっかりと焼き付けなければと思うのと同時に、この表情をさせたのが自分だと言う喜びがじわじわと湧いてくる。
固まったままの姿勢で視線だけをこちらに向けたアランと目が合うと、口元を押さえていた手をそっと頬に添えられた。
「……全く、ルイーズには敵わないな。本当は僕から言うつもりだったのに、先に言われてしまった」
「すみません、そんなつもりじゃ」
「ううん、いいんだ。半分は僕がそう仕向けたようなものだからね。君の気持ちを聞くことができて嬉しいよ」
「アラン様…」
「僕も君が好きだ。君を誰にも渡したくない。…もちろんジェラールにも」
頬に手を添えていない方の手で髪を撫でられ、ゆっくり抱き寄せられる。まるで真綿で包むようにそっと抱きしめられ目を閉じると、ウッドノート系の清涼感のある香りに混じって微かに汗の匂いがした。
(アラン様の匂い…なんだか安心する……)
アランの肩に顔を埋めて目を閉じると、高鳴っていた鼓動が少しずつ落ち着いてきた。それからどれくらいそうしていただろう?時間にすれば数秒のことだったのかもしれないが、ルイーズにはかなり長く感じられた。
しばらくして背中に回っていたアランの手が緩んでするりと腰まで下りてきたと思ったら、少し体が離された。至近距離でじっと見下ろされると、綺麗な顔がよく見えて急にまた恥ずかしさが押し寄せてくる。
「そんな可愛い顔をすると、離せなくなるよ」
「…だって……アラン様の顔が近くて……」
「恥ずかしいの?」
「……はい」
「可愛いなぁ、本当に。……そうだ、せっかくだからこのままプレゼントを渡してしまおうか。───アデル」
「はい、アラン様」
ルイーズの腰に手を回したまま、アランがアデルが持ってきた箱を受け取った。背後で何やらゴソゴソしている気配がするが、両腕で体を囲まれていて振り向くことができない。少しして腕を緩めたアランが、ルイーズの肩に両手をかけて座ったまま体をくるりと半回転させた。
「…え?な、なにを……」
「ごめん、ちょっとじっとしてて。…このネックレス、外してもいい?」
「はい、いいですけど…」
ソファーの上で回れ右したため、アランに背を向けた形になっている。ルイーズの首についていたネックレスが外されたと思ったら、今度は違う感触のものが首にかけられた。ペンダントヘッドの部分に触れてみると、丸みを帯びた形で表面が少しゴツゴツしている。
「アラン様、これは……」
「……うん、よく似合ってる。マルセラ、すまないけれど手鏡を持ってきてもらえるかな?」
「かしこまりました」
奥の私室から戻ってきたマルセラから手鏡を受け取ると、アランはルイーズの顔の前に翳した。
「これが僕からの誕生日プレゼントだよ。君の意匠であるシェリーの花の色に合わせたんだ。……どうかな?」
大きめのペンダントヘッドはハート型で立体的になっており、表面に小さなピンクダイヤが敷き詰められている。とても可愛らしいデザインだが、大振りで素材がいいので大人になっても子供っぽくならずに使えそうだ。
「……とても素敵です…!!ありがとうございます」
「気に入ってもらえたのなら嬉しいよ」
甘い笑みを浮かべるアランに微笑み返し、なんとなく懐かしさを覚えてもう一度鏡を覗いて───思い出した。
そうだ、確か前世でもよく似たデザインのネックレスを持っていた。どこかのジュエリーショップで一目惚れして、バイト代を貯めて買ったもの。もちろんもっと小さかったし、ダイヤモンドなんかじゃなくてキュービックジルコニアだったけど。でも、とても気に入っていた。
首にかかっている高価なネックレスが自分には分不相応だと告げられた気がして軽く頭を振ると、アランが心配そうに覗き込んできた。
「どうしたの?疲れた?」
「あ、いえ…。あまりに素敵で、夢みたいだと思って」
ルイーズの答えに、アランは優しく目を細めた。
「夢だったら困るよ。せっかくルイーズの気持ちが聞けたっていうのに」
「…はい、私も困ります」
ふふ、と嬉しそうに笑ったアランが、テーブルに手鏡を置いて「そういえば」と表情を戻した。
同じような話が続いて退屈されている方もいらっしゃるかと思いますが、どうかもう少しだけ我慢してくださいませ〜。
次回から少しずつ話が動いていく予定です。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。




