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今回は、ジェラールのターンです。
アランとのダンスを終えて互いに礼をすると、人混みの中からジェラールがこちらに歩み寄って来た。
「ルイーズ殿下、お疲れではないですか?」
「そうですね…少し疲れたかもしれません」
「では、よろしければ私とお話でもいかがでしょう?」
「お話、ですか?」
いつものように綺麗な笑みを浮かべるジェラールからは、特に怪しさは感じない。向かいのアランは表情を変えることなく注意深く成り行きを見守っている。
「はい。テラスに座るところがありますし、先程からほとんど何も召し上がっておられないとお見受けしましたので」
確かに、謁見の後に少し飲み物を口にした程度で、お腹が空いているのは事実だ。案外よく見ているのだなと感心しつつ、ジェラールの提案に乗ることにした。
「お申し出有り難くお受けしますわ。…アラン様、少し失礼してもよろしいでしょうか?」
「えぇ、もちろんです。お疲れのご様子と知りながら、お相手くださり感謝いたします」
パーティーの後に会う予定があるからなのか、アランは思ったよりもあっさりと了承した。もう一度軽く礼をして、すれ違いざまに「また後で」と囁くと、にこやかに人混みの中へと戻って行った。
アランが立ち去るのを見届けると、ジェラールが満足げに微笑んだ。
「参りましょうか?」
「はい」
差し出された腕に手を添えて、ルイーズはテラスの方へと歩き出した。紺色のタキシードに身を包んだジェラールが綺麗なダークブラウンの髪をサラリと揺らしながら歩く姿を、年上から年下のご令嬢までがウットリと見つめている。
(確かにこんなスーパー美少年が歩いてたら、二度見どころかガン見ちゃうよね…)
前世で「天使」とかいってトレンド入りしちゃうようなレベルの美少年で、しかも正真正銘のセレブだからね。
そんなことを考えているうちに、テラスに置いてあるテーブルまでやってきた。椅子を引いたジェラールが、胸元からハンカチを出して椅子の上に敷く。
「どうぞ、お座りください」
「ありがとうございます」
隣にジェラールが座るのとほぼ同時に、ジェラールの従者マルクがお皿とグラスが載ったトレイを持って来た。
深々と礼をして少し離れた場所に控えるマルクを、同じく近くに控えるマルセラが睨んでいる…気がする。あの2人は仲が悪いのだろうか?モロー子爵家とミレージュ男爵家はライバル関係にあるらしいけど、マルクもアデルと同じモロー子爵家の出身なのかな?
「適当に取って来させましたが、お口に合うものはありますでしょうか?」
「えぇ、幸いあまり苦手なものはありませんので」
「それを伺って安心しました」
「お気遣いありがとうございます。…実はお腹が空いていましたの。お言葉に甘えて、いただきますわね」
「はい、どうぞ」
ニコニコとルイーズが食べるところを見ながら時折自分も食べ物を口に入れるジェラールは、いつもより腹黒さが5割減くらいに見える。お腹が空いていたせいか無言で食べ続けていたルイーズは、話をしようと言われていたことを思い出してふと食べる手を止めた。
「……どうかされましたか?」
「いえ、あの…わたくし食べてばかりで…何もお話ししてないと思いまして」
「どうかお気になさらず。ルイーズ様が美味しそうに召し上がる姿を見ることができて幸せですから」
「そ、そんなもの…喜んでお見せするようなものではありませんわ」
(じっと食べるところを見られるなんて、私にとっては羞恥プレイ以外の何物でもないよ…)
恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じていると、ジェラールがふいに切なそうな表情を浮かべた。
「アランはいつも貴女のそのようなお顔を見ているんですね。───ルイーズ様、どうすればもっと私と打ち解けてくださいますか?」
「ジェラール様……」
実はルイーズの方も、ジェラールがいつまでたっても他人行儀なので、もう少し打ち解けてもらいたいと思っていたのだ。彼のいつもの態度を見るに、ルイーズと仲良くしたいというよりも、どちらかというとアランへの対抗心の方が勝っているような気がしていた。
(別に無理に張り合わなくてもいいのにね…)
下手に従兄弟同士で見た目も似ているから、周りからも比べられてしまうのだろう。せっかく同い年なのだから、できればもっと気安く接してもらいたい。
ルイーズは少しだけ考えてから、ジェラールにあることを提案することにした。
「ジェラール様……いえ、ジェラール。私達、同級生よね?せっかく同い年として3年間共に学園で過ごすのだから、堅苦しい話し方をやめてみない?…もちろん公の場では無理だけれど、せめて同年代同士の場だけでも。……どうかしら?」
首を傾げてニッコリと笑いかければ、ジェラールは目を丸くして口をパクパクと動かした。彼のこんな驚いた顔を見たことがなかったので、思わず笑ってしまう。
「ふふっ、ジェラールったら……まるで魚みたい」
「魚って……こんなに驚かせておいて、全く貴女って方は……!!」
少し怒ったような口調に、笑ったのはさすがに失礼だったかなと反省した。
「ごめんなさい、笑ったりして。気分を害したのなら謝るわ」
「…違います。そうじゃなくて……あぁ、もう!」
なんだか調子狂うなぁ、などとブツブツ言いながら、ジェラールがくしゃりと表情を崩した。少し眉を下げて泣き笑いのような表情を浮かべたあと、ニンマリと口の端を上げる。
「……そういうことなら、遠慮なく。後で不敬罪だなんて言われても責任取りませんよ?」
「そんなこと言わないし、責任なら私が取るから大丈夫よ」
「了解。……じゃあ、改めてよろしく、ルイーズ様」
「こちらこそ」
差し出された手を握り返すとそのままグイッと引かれて、ジェラールの胸に倒れこんでしまった。
「ちょ、っと…な……っ!?」
ちゅ、と音がしたと同時に耳元に感じる温かく湿った感触。耳にキスをされたのだとわかって、とっさにジェラールを押し返す。…が、いつのまにか両手でがっちりホールドされていて逃げられない。
「……ルイーズ様、いい香りがする。ずっとこうしていたいなぁ」
「は、離して…ジェラール」
「どうして?アランはもっといろいろやってるでしょ?」
「やってないわ……恥ずかしいから、お願い……」
「仕方ないなぁ」
そう言って腕の力を緩めたジェラールが、ルイーズの両肩に手を置いたまま顔を覗き込んできた。…ちょっと!至近距離に超絶美少年とか、無理だから!!目が潰れる!!
「……真っ赤な顔して可愛い。やっぱりアランにはあげたくないなぁ」
「ジェラール……お願いだからもう少し離れて……」
「えー、どうしようかなぁ?」
(やっぱりこいつ腹黒だ……っていうか、間違いなくドSだ)
ニヤニヤしながら楽しそうにルイーズを見ていたジェラールが、チラリと室内に目をやってルイーズから距離をとった。
「アランがものすごい顔で睨んでるから、今日はこの辺でやめておくよ。ルイーズ様と少し仲良くなれたしね」
「……そ、そうね」
ゲッソリしながら返事をしたルイーズを見て、ジェラールが嬉しそうに笑った。その屈託のないあどけない笑顔に、思わずドキリとする。
(この人、本当はこんな風に笑うんだ…)
やっぱりタメ口で話そうと提案してみてよかった。たとえ婚約しなかったとしても、ジェラールとはこの先も仲良くしていきたいもの。
「…改めて、誕生日おめでとう。こんな風に話せて嬉しかったよ。次会うときは、僕の贈ったブレスレットを付けて来てね。楽しみにしてるよ」
「ありがとう。私の方こそ、貴方とこうやってお話できて嬉しいわ。ブレスレットのこと、覚えておくわ」
スッと立ち上がったジェラールが、ごく自然な仕草でルイーズの手を取る。満面の笑みを浮かべるジェラールにエスコートされ、ルイーズは舞踏場へと戻って行ったのだった。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。




