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お色直しの後は、パーティーの主役であるルイーズとアレクサンドル国王のファーストダンスから始まる。
階段を降りた先でルイーズを待っているアレクサンドルは、国王としての威厳に加え大人の色気が滲み出ていて、若い頃はさぞかしモテただろうなぁと容易に想像できる。現に今も会場の奥様方からの熱〜い視線を感じるもの。
実の母であるソフィーも、この色気にやられたのかな?なんて思ってみたりもするのだけれど、父の口からはほとんどソフィーの話が出てこない。たまにジャクリーヌの思い出話に相槌を打つ程度だ。
「デュマ夫人のレッスンは厳しいと聞くが、ルイーズはなかなかの腕前ではないか」
「ありがとうございます、お父様。いつも夫人から合格点が頂けず苦労しておりますわ」
ルイーズという子を成すくらいの仲なのだからソフィーとの思い出話の1つでも出てきていいはずだと思う反面、父が自分に向ける笑顔は慈愛に満ちたもので、これが偽物だとはとても思えない。
そんなことを考えているうちにもアレクサンドルとのダンスが終わり、次のお相手であるアンリが進み出て来る。この後、フィリップ、ジャンの順に踊ってから、ようやく王族以外の男性と踊ることができる。
ルイーズとアンリが踊り始めると、周りの貴族達もそれぞれパートナーとダンスを始めた。アンリもアレクサンドル同様、ルイーズが踊りやすいようにゆっくりとリードしてくれている。来月第3子の出産を控えているため今日は踊らずに椅子に座っているカトリーヌが、ルイーズ達に小さく手を振るのが見えた。
「ルイーズは本当にソフィーによく似ているね。瞳や髪の色は違うけれど、顔立ちや雰囲気がまるで生き写しだ。……こうやっていると昔を思い出すようで懐かしいな」
深い海のような色の瞳を細めるアンリ。今この瞬間その目に映っているのは、自分ではないのかもしれない。…ふと、そんな気がした。
「ソフィーお母様とよくダンスをされたのですか?」
「そうだね…ソフィーには、ダンスの練習によく付き合ってもらっていたよ」
「そうですか…」
ダンスの練習と聞いて、ふとアランとのダンスを思い出してしまい、カッと顔が熱くなる。それに気づいたアンリが、少しだけ目を丸くした後小さく笑った。
「どうやらルイーズにもダンスに思い出があるようだね。…お相手はアラン殿かな?」
「お、お兄様……!!」
「ふふっ、冗談だよ。…それにしても、我が家の姫君のハートを射止めるなんて、彼は本当にラッキーだ」
「もう…からかわないでください!」
「ごめんごめん。ルイーズが可愛いらしくてつい」
ふふふ、と艶のある笑みを浮かべるアンリの色気にあてられて、周りのご令嬢方が卒倒しそうになっている。
(私も眩しすぎてとても直視できません…!)
次に交代したフィリップが、怪訝そうにルイーズの顔を覗き込んできた。
「…ルイーズ。顔が赤いが大丈夫か?」
「大丈夫です、フィリップお兄様」
「そうか、それならいいが。…お、曲のテンポが変わったな。付いて来れるか、ルイーズ?」
「はい!」
曲に合わせて早いステップを踏み始めたフィリップの動きに必死に付いていく。去年フィリップと結婚したライン=アイグナー連合王国の王女グウィネスも実は懐妊中で、年明けに出産予定だ。相次ぐロイヤルベビーの誕生に、国中もお祝いムード一色となっている。
クイックステップの曲を踊り終えてグッタリしているルイーズに、カトリーヌの隣に座っているグウィネスが小さくグッと親指を立てた。ライン=アイグナー連合王国は騎士道の国で剣技も盛んなことから、女性でも騎士が多いと聞く。グウィネスも王女ながら剣の腕前は相当なものらしい。王族としては微妙な仕草も、前世の某歌劇団の男役のような義姉がやるととても様になっている。
「ルイーズ姉上、次は僕の番だよ」
「よろしくね、ジャン」
フィリップと交代したジャンが向かい合わせに立ち綺麗な礼をすると、周りの貴族から感嘆の声が上がった。ジャンは父親であるアンリにそっくりの顔立ちで、髪や瞳の色も父親譲りのプラチナ・ブロンドにサファイア・ブルーと、まさに王子様そのもの。
まだダンスは習いたてだからステップはぎこちないけれど、目線や仕草の1つ1つが優雅で上品なのよね。幼いご令嬢たちがウットリと見ているのがここからでもよく分かる。…ジャンよ、こうやって君も罪作りな男に育っていくんだね。
「……姉上。ロッシュブール家のアラン様がずっと姉上を見ているよ」
「え……」
ジャンに指摘されてホールに視線を移すと、盛装してイケメン度3割増しのアランがじっとこちらを見つめていた。…まるで視線だけで溶かされそうなほどに熱く。
(アラン様…そのお顔はヤバイです……)
曲が終わりそそくさと退散したジャンと入れ替わるように、アランが進み出てきた。
「王女殿下、次は私とお相手いただけますか?」
「…はい、喜んで」
お互いに礼をしてから差し出された手を取ると、あっという間に腰に手が回されグッと引き寄せられた。アランとのダンスは去年の生誕パーティー以来1年ぶりだけれど、ブランクを感じさせないくらいに踊りやすい。…そして、いつもドキドキする。
今日のアランは、瞳と同じグレーのジャケットとお揃いのスラックス。長めの丈で白とシルバーの糸で刺繍がされたとてもゴージャスな誂えのものだ。白いシャツと黒いリボンタイにルイーズがプレゼントしたタイピンを付けてくれている。
ジャンとのダンスの時に感じた視線と同じ熱量で至近距離から見つめられて、ドキドキが止まらない。前世で言えばまだ小学生である年齢の自分が、こんな感情を持っていることが信じられない。
「……さっきのドレスも素敵だったけど、これもすごくいいね。それにいつもと違う香りがするけど…これは何の香り?」
「…これは、シェリーの花の香りですわ。この日のために作ってもらいましたの」
「そうか…愛らしい香りで君に良く合っているよ」
耳元で囁くアランの声がすぐ近くに聞こえて、思わず身を竦めてしまう。…もう、みんな見てるから恥ずかしいんだけど!!
「ありがとうございます。……あの、アラン様」
「何だい?」
「皆に見られておりますし…もう少し離れていただけると……」
「ああ、そうだね」
とてもいい笑顔のアランは、どう見ても確信犯だ。
「でも、周りに僕達の仲をアピールするいい機会でもあるからね。君を狙っている奴らへの牽制にもなるし。……というのは建前で、本音は僕がこうしたいだけなんだけど」
そう言ってグレーの瞳を細めて見つめられると、これ以上何も言えなくなる。こんな見た目も中身もとびきりのイケメンと両想いだなんて、やっぱりまだ信じられない。
王女として何一つ不自由のない暮らしがあり。
家族や周りの人達にも恵まれ。
勿体ないくらい素敵な人と想いを通わせていて。
幸せであればあるほど、これはもしかしたら自分の願望が見せている、長い長い夢なのではないかという気さえしてくる。
(あまり疑心暗鬼になるのも良くないとは、分かっているのだけれど……)
この幸せがこの先ずっと続けばいい。
ゲームの強制力なんて関係なく、生きていければ。
アランの腕の中で、ルイーズはそう願わずにはいられなかった。
◇◇◇◇◇
砂糖菓子よりも甘い笑みを浮かべて愛おしそうに腕の中にいる王女を見つめる公爵家嫡男と、頬を染め恥じらいながらもそれに応えて嬉しそうに見上げる王女。
この上なくお似合いの2人だと周りの貴族の殆どが微笑ましく見ている中で、他とは違う反応をするものが数名───ある者は悔しそうに、ある者は羨ましそうに、またある者は興味を隠しきれない様子で。
『……やっぱり生アラン様の破壊力ハンパないわ。幻のアラン様ルート以外ではお目にかかれないし、ホンモノ拝めて超ラッキー!!』
国中の贅を尽くした煌びやかな会場の片隅で呟かれた言葉は、誰にも気づかれることなくざわめきの中へと吸い込まれていった。
ここまでお読みくださいまして、どうもありがとうございました。




