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とうとう、あの人の登場です。

王女であるルイーズの生誕パーティーは国王主催の正式な行事であるため、室内としては最大の広さを持つ王城内の舞踏場で行われる。


今日のために作られたサファイア・ブルーのドレスは、光沢のある生地にたっぷりのシフォンが重ねてあり、さらに沢山のパールやクリスタルがちりばめられている。サイドを編み込んだ髪をアップにされ、その上に華奢な小ぶりのティアラが載せられた。


プラチナ製のティアラは、真ん中に大きなダイヤ、その周りに小さめのダイヤとサファイヤが付いている。代々グランシェールの王女が使ってきたものだそうで、前世ならば博物館レベルの代物だ。


パーティーには国内の殆どの貴族が招待されており、特に子供がいる家は病気などのやむを得ない事情がない限り、原則的に参加が義務付けられている。去年初めて主賓として参加したのだが、公爵から順に挨拶を受けるだけでも当然相当な時間になるわけで…。ずっと微笑んでるから表情筋がヤバイことになるわ、同じ姿勢でいるから筋肉痛になるわで、はっきり言ってちょっとした拷問だった。


その後普段から体を鍛えようということになり、今ではちょくちょく内宮の庭を走りこんだりしている。その一環として週一回程度だがマルセラに護身術の稽古をつけてもらっているので、前よりは体力がついてきたんじゃないかと思う。


魔導士一家に生まれた義母ジャクリーヌはルイーズがトレーニングをすることに寛容だが、基本的に父はあまりいい顔をしない。それでも何年間も王女であることを公表しなかった負い目があるのか、一応今のところは黙認してくれている。魔法に関しても同様だ。……まぁ後者に関しては、これからどうなるか分からないけれど。


舞踏場近くの控え室で来賓が揃うまで待機しているルイーズの手には、最近ハマっているシリーズものの小説。お隣のファールシュタッド皇国で流行っている冒険物語なのだが、龍の一族に育てられた少女が魔法の力に目覚めて、魔王に捕らえられた両親を救い出すために冒険の旅に出るという、典型的なファンタジーだ。そしてその魔王っていうのが、実は悪い神官に呪いをかけられた王子で……と、もうこの時点で先の展開が読めてしまう。だとしても、魔王が超絶腹黒イケメンなので全然オッケー!ルイーズ的には萌えポイント満載で読んでいて楽しいのだ。


「……殿下、そろそろお時間です」


ドアの外に控えている第3近衛団副団長デュカスの声が聞こえて、ルイーズは本をパタリと閉じた。栞代わりにしているアランからもらったカードを指先でそっと撫でて、ゆっくりと立ち上がる。


「わかりました」


部屋に控えているモニークがドアを開ける。マルセラに付き添われてドアの外に出ると、デュカスを含め4人の近衛兵が揃って頭を下げて廊下に並んでいた。


前後を近衛兵に挟まれる形で廊下を進んでいくと、反対側から国王と王妃が歩いてきた。舞踏場から大きな歓声が聞こえるところをみると、ちょうど王太子であるアンリの一家が登場したところなのだろう。


このドアの向こうは舞踏場の階段上に繋がっており、王族はそこから広い階段を下りて登場することになる。両側に並んだ父と母に微笑まれ、ルイーズも笑みを返した。


「アレクサンドル国王陛下、ジャクリーヌ王妃殿下、ならびにルイーズ王女殿下のおなり」


舞踏場に集まった何百という貴族の人々の目が注がれ、一気に緊張が高まる。震えそうになる足を叱咤しながら、両親に手を取られてルイーズはゆっくりと階段を下りていった。



◇◇◇◇◇



公爵家から始まった謁見も9割方が終了し、男爵家のいくつかを残すのみとなった頃。部屋の隅では、室内楽団がモーツァルトにも似た軽快な音楽を奏でている。挨拶を終えた貴族達が軽食をつまみながら思い思いに談笑している様子をボーッとルイーズが眺めていると、挨拶をするために1組の親子連れが近づいてくるのが見えた。


父親と母親の後からついてくる女の子の髪の色を目にしたとたん、心臓がドキリと跳ねた。


(この子もしかして……!)


ふわふわのハニーピンクの髪に大きな明るい水色の瞳、少し上を向いた可愛らしい鼻にぷっくりと色づく唇。誰が見ても魅了されるであろう、これぞヒロインという風貌の少女がそこにいた。


「王女殿下におかれましては、お誕生日を迎えられましたこと心よりお慶び申し上げます」


優しそうではあるが冴えない風貌の父親が、緊張した様子で口上を述べる。「うむ」と頷いたアレクサンドルが、珍しく声をかけた。


「ロゼッタ男爵、そちらが養女にしたという令嬢か」

「はい。マリベルと申します」


(ビンゴーーーー!!)


そうだ、ヒロインのファミリーネームはロゼッタだった!今思い出したよ!!


「お幾つなのかしら?見たところルイーズと近いようだけれど」


ジャクリーヌにも声をかけられて、ロゼッタ男爵は緊張のせいかさらに顔色を無くしていく。こんなに長く国王夫妻と話すことなんてないんだろうな。お気の毒に。


「こ、今年で9歳になります」

「ではルイーズと1つ違いね。…学園で接する機会もあるでしょうから、よろしく頼みますわ」

「は、はい!もったいないお言葉、恐れ入ります。娘共々しかと肝に銘じます…!!」


夫人と共に青い顔をしてぎこちなく下がって行った男爵だったが、娘のマリベルの方は顔こそ上げなかったものの顔色ひとつ変えていなかったし、下を向いたままキョロキョロと視線を動かしているのが見えた。平民上がりという設定だったと思うから、貴族の常識が分からず、怖いもの知らずなのかもしれない。……もしくは、ひょっとする可能性も考えられる。


(ヒロインが転生者というのはありがちなパターンだし、なんと言っても現にここに1人いるわけだしね)


いずれにせよ、これで『君バラ』の設定のひとつがはっきりした。やはり思ったとおり、ゲームの舞台は学園でルイーズの1つ下の学年がメインのようだ。


……では、一体誰が攻略対象なのだろう?


ふとそう考えて、ルイーズは重大なことに気づいた。"王女ルイーズ"は『君バラ』の中で、ヒロインのライバル的な立場だったはず。ということはつまり、ルイーズの婚約者が攻略対象である可能性が高いということだ。


───どうして、今までそのことに思い至らなかったのか。


(もし、マリベルがアラン様ルートを選択したとしたら……?)


今は自分に好意を寄せてくれているアランが マリベルに惹かれていくところを想像して、胸が苦しくなってくる。アランとマリベルは3つ違いだから学園での接点はないはずだけれど、よく聞く"ゲームの強制力"とやらがどの程度の力を持つものなのか得体が知れないだけに、不安ばかりが募る。


「……ルイーズ?疲れたのかしら?」

「…っ、お母様……大丈夫ですわ」


隣から声をかけられて我に返ると、全ての謁見が終わったところだった。基本的に社交界デビューをしていないルイーズが声をかけることはないので黙って座っているだけとはいえ、さすがに思考を飛ばしすぎた。


「お召し替えのお時間でございます」

「えぇ、わかったわ。…お父様、お母様、少々失礼いたします」

「あぁ、行っておいで」

「行ってらっしゃい」


マルセラに声をかけられて、そっと目立たないように退席する。主賓なので、ここで一度お色直しを挟むのだ。初めて聞いた時は、結婚式の新婦かよ!と心の中で突っ込んだものだが、もう慣れた。


階段の裏にある扉から出て、待機していた近衛兵たちと共に控え室へと戻る。部屋に入るとすぐに侍女たちによって手際よく着替えさせられる。髪型からアクセサリーに至るまで、そっくり衣装替えするのに要した時間は約20分。途中でトイレに行ったり飲み物を飲んだりしてトータル30分でお色直し完了だ。


2度目の衣装は薄いピンク色を基調とした、ふんわりコーデ。髪は下ろして、ドレスと共布のリボンをサイドに編み込みハーフアップに。ダンスをするので、さっきのドレスよりは足捌きの良いデザインになっている。


今度は1人だけで登場しなければならないので、ドアの前で気合いを入れ直す。マリベルのことは気になるものの、とにかく今日は自分が主役なのだから、何とか最後まで乗り切らなくては。


ルイーズの再入場を告げる声に、会場がシンと静まり返る。大きく深呼吸をして、ルイーズはドアの向こうへと足を踏み出した。


今回はあまり間をおかずに投稿できて良かったです。

ヒロイン登場しましたので、登場人物紹介に載せておきます。


ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました。

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