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本日、連続投稿となります。
20話を午前中に投稿しておりますので、未読の方はそちらから先にお願いします。
大きな扉の向こうは、思ったよりもこじんまりとした部屋だった。しかし、内装はもちろん豪華の一言。そして何より、ズラリと並んだ王族の方々は皆さん目が潰れそうなほどの美形揃いで、正直足がすくんでしまいそうになる。
それでも何とか勇気を振り絞って、デュマ夫人に教えられた通りにドレスの裾をつまみ腰を落として最敬礼の挨拶をする。
「…お初にお目にかかります、ルイーズでございます。以後、お見知りおきをお願い申し上げます」
長いテーブルの一番奥、いわゆるお誕生席に座る壮年の男性が口を開いた。
「王城へようこそ、ルイーズ。まずは顔を上げて、こちらによく見せておくれ」
「……はい」
少し長めの前髪を左右に分けた流れるようなプラチナ・ブロンド、そして王家を象徴するサファイア・ブルーの瞳の持ち主であるその男性は、ルイーズに向かってゆるりと微笑んだ。
「私がお前の父、アレクサンドルだ。これまで父親だと名乗ることが出来ず、本当に申し訳なかった。政務でなかなか自由に時間が取れないが、これからは出来る限りお前と触れ合う機会を作りたいと思っている。すぐには慣れないかもしれないが、私のことは"お父様"と呼んで欲しい」
「……はい、お父様」
「…………」
ルイーズの言葉を聞いた国王は、何とも言えない表情をした。気のせいか口許がムズムズと動いているような…?
「………あなた、口許が緩みきってますわよ」
「全く隠しきれていないですね、父上」
「国王の威厳も何もあったもんじゃないな」
「……っ、うるさいぞお前達!」
周りを囲んでいる王妃と王太子、最後は多分第2王子のフィリップだろう、その3人がやれやれといった顔で突っ込んでいるのに対して、国王は顔を赤くして反論(?)している。
事前にレーヌ伯爵家の父から聞いた話によると、アレクサンドル国王は前王と王太后の第2子で、第1子の王女が南の国デルアーレ王国へ嫁いでいる。ガルニエ公爵家出身のジャクリーヌ王妃との間には、王太子であるアンリ、第2王子のフィリップがいる。
(王族の方々ってこんなにざっくばらんな感じなの…!?)
見た目の煌びやかさからは想像もつかないあまりに和気藹々とした雰囲気に、あっけにとられてしまう。唖然とするルイーズと目が合った王妃が優雅に微笑んだ。
「はじめまして、ルイーズ。私が貴女の義理の母になるジャクリーヌよ。アレクも言った通り、いろいろ事情があって貴女を迎えるのが遅くなって本当にごめんなさいね。こんなに可愛らしく育ってくれて、本当にレーヌ伯爵ご夫妻には感謝してもしきれないわ。貴女のお母様ソフィーのことは、本当の妹のように可愛がっていたの。どうか私のことも本当の母だと思って甘えてちょうだいね。……あ、もちろん呼び方は"お母様"でお願いね」
「はい、お母様。ありがとうございます」
黒髪に緑の瞳のジャクリーヌは、大輪の花が咲いたような華やかさがある。
(年齢不詳なんだけど……王太子殿下の年齢を考えたらどう考えても40歳は超えてるよね?…美魔女、恐るべしだわ)
ルイーズが入室してからずっと優しい眼差しを向けてくれている王太子が、フワリと微笑んでからジャクリーヌに続いて口を開いた。
「よく来てくれたね、ルイーズ。お茶会で既に会っているが、改めて私がお前の兄のアンリだ。隣にいるのが妻のカトリーヌ、そして子供達のジャンとシャルロット。ジャンはもうすぐ4歳、シャルロットは2歳になる。歳が近いからぜひ仲良くしてやってほしい」
「お久しぶりね、ルイーズちゃん。お茶会で見てからお会いするのを楽しみにしていたのよ。ジャンとシャルロットは同年代の子供達とは触れ合う機会が少ないし、一緒に遊んでもらえると嬉しいわ」
「はい。私も仲良くしていただきたいです」
カトリーヌ妃は、とても親しみやすい雰囲気のお姉さんみたいな方だ。……というか、実際に義理の姉にあたるのか。
「私のことは、お義姉様と呼んでね」
「…はい、お義姉様」
ルイーズの思考を読んだようにニッコリと微笑むカトリーヌ。するとアンリの膝の上にいたジャン王子が、ピョンと膝から飛び降りてこちらに向かってきた。
「ぼくもごあいさつしたいです、ははうえ」
「あら、そうね。ではジャンもご挨拶なさい。こちらはあなたの叔母上にあたるルイーズ様よ」
「……おばうえ?」
4歳の子に叔母と呼ばれる8歳……。少し遠い目になってしまったのは仕方ないと思う。
ルイーズの心情を察してくれたのか、アンリがすかさず助け舟を出してくれた。
「4つしか違わないのに叔母上はちょっと可哀想だね……。ルイーズ姉上、と呼んではどうかい?」
「ルイーズあねうえ」
「…はい、ジャン王子」
「なかよくしてください、あねうえ」
「こちらこそ、仲良くしてくださいね」
差し出された小さな手をそっと握ると、ジャンの顔にはにかむような笑みが浮かんだ。
(か、可愛すぎる……!!)
天使のような笑顔を前に癒されまくっていると、「……あー、その。俺もそろそろいいか?」という声が聞こえた。声のした方を見ると、ジャクリーヌの隣に座っているフィリップが、少し落ち着かない様子でチラチラとこちらを見ていた。
「失礼いたしましたフィリップ殿下。……ジャン、こちらに来なさい」
「まだあねうえとおはなしするの!!」
「今度またゆっくりね。今日ルイーズちゃんは忙しいから」
「えー、いやだー」
「わがまま言っちゃだめよ」
カトリーヌがジャンを説得している間に、フィリップが自己紹介を始めた。
「俺は2番目の兄のフィリップだ。2ヶ月ほど前に王立学園を卒業して魔導士団で働いている。今日は一日休みをもらっているから、この後ルイーズに王城を案内する役目を引き受けている。よろしくな」
第2王子のフィリップは、学園を卒業したばかりの18歳。魔法に素晴らしい才能があり、魔導士として仕事をしているそうだ。1年後にライン=アイグナー連合王国の王女との結婚が決まっているらしい。前王の弟が現在ヴィルニヨン大公を名乗っているが、子供がいないため将来的にはフィリップが跡を継ぐ予定になっているのだそう。
───と、これもまた事前に聞いていた予備知識だ。
王妃譲りの黒髪に濃いブルーの瞳を持つフィリップは、顔立ちもジャクリーヌに似ていてどことなく色気がある。アンリがキラキラ系王子だとすると、フィリップはワイルド系王子、といったところだろうか?どちらにしろ超ド級のイケメンには変わりないのだが。
フィリップからは呼び方を特に指定されなかったので、ごく普通に挨拶を返してみた。
「はい。よろしくお願いします、フィリップ殿下」
「……なんで俺だけ"殿下"?」
「それはあなたが許可しないとルイーズからは呼べないわよ」
ジャクリーヌから指摘を受けて、フィリップがちょっとバツの悪そうな顔をした。
「それもそうか。じゃあ俺のことは……兄上もいるから、フィリップお兄様、で決まりな。ルイーズ、呼んでみて」
「フィリップお兄様……?」
「……うん、いいな。疑問形なのがちょっと微妙だけど、そこは追い追い慣らしていくってことで」
ルイーズの言葉を聞いて、フィリップは軽く口の端を上げてニヤリとした。
(うわぁ…こういう表情もイケメンがやると様になる……!!)
実の兄に変な気持ちを抱くことはもちろんないけど(なんと言っても私にはアラン様がいるし!)、前世の精神年齢が大人なせいか、超イケメン18歳は非常に心臓に悪い。この後付きっきりで案内されるとか、ちゃんと最後まで生きていられるかな……?
王家の方々が思ったよりもアットホームな雰囲気だったのはすごく安心したけれど、違った意味で不安を感じてしまったルイーズなのだった。
この後、フィリップ殿下との王城ぶらり旅(?)となります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




