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更新遅くなりましたm(_ _)m

ついにやってきた王家の方々との顔合わせの日。朝早くからアンヌによって念入りに飾り立てられたルイーズは、前回のお茶会の時以上に緊張していた。城門を抜けた馬車は正面の大きな扉ではなく、少し離れた通用門のような扉の前で止まった。


普段ピエールが仕事をしているのは王城の外宮というところで、国の内政に関わる者が働いたり外部の訪問者の対応をする場所にあたる。ルイーズが住むことになるのは王家のための住処である内宮というところで、王城の外からは見えない造りになっている。今日は最初にピエールと一緒に外宮で今後の予定を聞いてから、父と別れてルイーズだけ王家の方々との顔合わせの後、王城を案内してもらう予定だ。


(ここでいつもお父様はお仕事をしているのね……)


初めて足を踏み入れる王城を目の前にして、ルイーズはロッシュブール公爵家へ行った日の夜のことを思い出していた。その日王城の勤めから帰ったピエールは、大きな紙の筒を抱えていた。


「……その紙は何ですの、ピエール?」


ピエールの手元を見ながらマリーが尋ねた。


「これは、アラン殿とルイーズの婚約証明書だよ」

「「……婚約証明書?」」


ルイーズとマリーが見事にハモった。もうすぐ王家に行くことが分かっているのに、何故今更?という当然の疑問が湧いてくる。ピエールが苦笑いを浮かべた。


「その反応は尤もだと思うけどね。これは宰相閣下のアイデアなんだよ」

「公爵様の?」

「そう。この証明書の日付は王家のお茶会の翌日。…つまり、ルイーズは出会った日にアラン殿に見初められ、すぐに両家の間で婚約が成立した、ということにしてある。流石に王家にそのまま認められるとは私も考えていないが、すでに存在している婚約者を全く無視して選定は行われないだろう、というのが閣下のお考えだ。ましてや、相手は公爵家の嫡男……実際にはかなり有利になるだろうね。まぁ、使える手は使うという、実に閣下らしいやり方だな」


さすが親子と言うべきか、公爵はなかなかの策士のようだ。


(……あれ?でも、アラン様の考えを聞いたのはついさっきだよね。書類準備するの早すぎない??)


何だか腑に落ちないルイーズの様子に気づいたピエールが、気遣わしげな視線を寄越した。


「…ルイーズ、どうしたんだい?」

「いえ、あの……アラン様から改めて婚約を申し込まれたのは、今日の午後に私がお返事をした後です。どうしてその証明書がもう出来ているのかな、と…」

「あぁ、それは」


安心させるように微笑むピエール。


「今朝お前の王家行きの話をした時に、宰相閣下がアラン殿に婚約の意思が変わらないか確認したらしい。そこに私がお前の返事を伝えたわけなのだが、そこからの閣下の行動の早さは驚くほどだった」

「まぁ、さすが公爵様ですわね……」


(うーん、これはもしかして最強の味方を得たと思ってもいいのかな?)


「この証明書には、念のために宰相閣下と私とで魔力を込めた印璽を施しておいた。まさかそんなことをする輩がいるとは思えないが、私達以外の誰かが開けたり改竄したり、廃棄することはできないようになっている。……これで少し安心したかい、ルイーズ?」

「はい…ありがとうございます」


正直なところ、公爵と父がここまでやってくれたことはかなり驚きだが、アランとの婚約を応援してもらっているのだと分かってとても嬉しい。


ルイーズがニッコリ笑って御礼を言えば、ピエールも穏やかな笑みを返してくれたのだった。



◇◇◇◇◇



2人の衛兵に付き添われて応接間のような場所に通されルイーズ達は、そこでしばらく待つように指示された。部屋の広さもさることながら、絨毯からカーテン、調度品に至るまで、いったいどれくらいの価値があるのかわからないものに囲まれて、なんだか落ち着かない。


「……まぁ、緊張するなと言う方が無理だとは思うけど」


おそらくシルクだと思われる、見るからに高級そうな布張りのソファでそわそわと視線を動かすルイーズを見て、ピエールが苦笑をもらした。


「私も来客用の部屋に来ることはあるが、専らもてなす側だからね」


前世ではド庶民のルイーズには煌びやか過ぎる内装だが、ここに住むようになれば少しは慣れるのだろうか?


そんなことを考えていると、規則正しいノックの音と共にドアの外から声がかけられた。


「レーヌ伯爵様、入室してもよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」


落ち着いた女性の声がした方に目をやると、黒いお仕着せ姿の年配の女性が「失礼いたします」とお辞儀をしてから入ってきた。手になにやらファイルらしきものを持っている。


「内宮で侍女長を務めさせていただいております、イザベルと申します。本日はレーヌ伯爵様、ルイーズ様に今後のご予定をご説明差し上げるお役目を申しつかっております」


見たところ40代くらいの、厳格そうな印象の侍女長。学校に必ず1人はこういうベテラン先生いるよね、って感じの人だ。恐ろしく仕事が出来そう。


侍女長によると、ルイーズが王城に引っ越すのはこれから1ヶ月半後、国王陛下主催の秋のお茶会の3日後だそうだ。来週に予定されている衣装の採寸に先駆けて、王族が1人ずつ持っている固有の意匠をこれから決めなければならないらしい。


「王族の皆様方のお持ちになるものには、その方の物だと一目で分かるよう全てに象徴が施されます。具体的には、ルイーズ様が気に入られた植物を1つ選んでいただくことになります」

「……植物、ですか?」

「はい。……こちらにいくつか見本をお持ちしましたので、ご覧になっていただけますでしょうか?」


侍女長はそう言って手に持っていたファイルをテーブルの上に置いた。


「こちらが現在の王族の方々の象徴でございます。他国に嫁がれた王女様方の分も含まれております」


広げられた1枚目の紙に、いくつかの植物の絵が描いてある。中にはルイーズが見ただけで分かるものもあるが、分からないもののほうが圧倒的に多い。侍女長はその周りに、さらに何枚か植物の絵が描いてある紙を並べた。


「今現在ご存命の方と同じでなければ、これまでに使われたことがあるものでも構いません。こちらは過去の王族方が象徴として使っておられた植物です。花言葉や由来などが良くないものは使わないことになっておりますので、この中でしたら安心してお選びいただけます」


テーブルに並んだ順番にざっと目を通した中で、前世で馴染みの深い花に良く似たものを見つけた。


「あの……これは、何という花でしょうか?」

「こちらは、シェリーという果実の花です」

「……シェリー………」

「はい。数代前の王妃様で東の国のご出身の方がいらしたのですが、祖国に良く似た花があったそうでこちらを選ばれました。彼の国では実がならず花だけで、しかももっと花弁が多いものが主流なのだそうです」

「………」


おそらくシェリーとは、さくらんぼのことだ。実がならず花弁が多い花───すなわち桜の花がある国から嫁いできた王妃様が過去にいたのだという。この世界には、東方の国ジパングのような国が存在するということだろうか?


「シェリーは赤く可愛らしい実ですので、花だけでなく実の部分も象徴として使えるかと思います」

「そうですか……」

「……ルイーズ、この花が気に入ったのかい?」


シェリーの花をよほどジッと見つめていたらしく、顔を上げると心配そうな顔のピエールと目が合った。


「……はい。このシェリーという花にしてもいいでしょうか?」

「もちろんでございます。ではこちらで決まりということで、手配させていただきます」


テーブルに広げた紙をテキパキと片付けて、侍女長はピエールに向き直った。


「これからルイーズ様を内宮の方にお連れいたします。伯爵様はお時間になりましたら、またこちらでお待ちいただけますでしょうか?」

「わかりました。よろしくお願いします」


立ち上がったピエールは、ルイーズに向かって微笑んだ。


「……ルイーズ、また後で迎えに来るからね」

「はい、お父様」

「ルイーズ様、こちらでございます」


ドアを出てピエールとは反対側に歩き出した侍女長に遅れないよう慌てて付いて行こうとすると、侍女長はピタリと歩みを止めてルイーズを見た。


「……私の方が合わせますので、ルイーズ様は急がなくてもよろしゅうございますよ」

「あ、はい…ありがとうございます」

「私は王家に仕える者ですので、お礼は結構でございます。こういったことも、この先デュマ夫人からご指導があるかと思います」

「……はい」


ルイーズのペースに合わせて歩いてくれる侍女長に連れられて広い廊下を進んで行くと、突き当たりに大きな両開きの扉が現れた。扉の両側には近衛兵が立っていて、ルイーズ達が近づくと無駄のない動きで重そうな扉を開けてくれた。


「この先が内宮になります。ここから先は、王族の方々、内宮勤務の侍従および侍女、近衛兵以外は原則として入ることを禁じられております。例外的に王族の方々のご招待がある方は入ることができますが、必ず近衛兵が付き添う決まりとなっております」


説明を聞きながらドアをくぐる。背後でドアが閉じられると、それまでの喧騒が嘘のように物音が聞こえなくなった。それから歩くこと数分。途中で何人かの侍女とすれ違ったが、皆ルイーズ達が通り過ぎるまで脇に避けて頭を下げたままなので驚いた。


「あちらのお部屋に皆様お揃いでいらっしゃいます」


侍女長が両側に近衛兵が立つひときわ大きな扉を手で指し示した。


(この中に、王族の方々がいらっしゃる……)


緊張して手に汗をかいてきたのが分かる。バクバクと口から飛び出しそうな心臓とは正反対に、頭は血の気が引いていくような感覚がする。前世からの人生を通してこれほど緊張する場面は初めてかもしれない。


「では、参りましょう」

「……はい」


近衛兵によってゆっくりと開かれた扉の向こうに、ルイーズは震えそうになる足を踏み出した。


王族とのご対面までたどり着きませんでした…

次回はちゃんと出てきますので、もう少しお付き合いくださいませ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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