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「ようこそ、ルイーズ様!ようやく我が家にお招きできて嬉しいですわ!!」
「この度はご招待ありがとうございます、カミーユ様」
「ジャック様もようこそ!…さぁ、早くお入りくださいな」
「ありがとうございます」
初夏の日差しが眩しいとある日、ジャックとルイーズは王都郊外にあるロッシュブール公爵家の別邸へと招かれていた。
馬車から降りたルイーズ達を出迎えてくれたカミーユは、目にも鮮やかなターコイズのドレスを着ている。この前のルイーズのアドバイスを参考にしてくれたようで、カミーユのはっきりした顔立ちと髪と瞳の色にとてもよく似合っている。
その少し後ろでは、アランとジョアンが並んで立っている。今日は2人ともお茶会で見た時よりも少しくだけた服装のようだ。男子だけで何かをする予定なのか、手紙の中にジャックには動きやすい服装で、という指定があった。
「…ようこそルイーズ嬢、ジャック殿。今日は両親もいないことだし、気軽に楽しんでほしいな」
「ありがとうございます、アラン様」
「よろしくお願いします」
ロッシュブール公爵夫人は奥様方のお茶会に呼ばれているとかで不在らしい。つまり今日この屋敷でのことは基本的にアランに任されているということで、公爵夫妻からの信頼の厚さがうかがえる。
玄関に入る手前で、20代半ばくらいの男性が恭しく頭を下げた。
「レーヌ伯爵家ルイーズ様ならびにジャック様、ようこそいらっしゃいました。私はこちらのロッシュブール公爵家別邸にて執事を務めさせていただいております、サリューと申します。何かご希望の際やお困りのことがございましたら、私に何なりとお申し付けくださいませ」
「はい、よろしくお願いします」
まさに執事の鑑というべきか。一分の隙もない所作にルイーズは感動してしまう。別邸でこのレベルということは、本邸の方の執事はどれだけすごいのだろう…。
(…いや、ジョルジュももちろん負けてないけどね!!)
そのまま屋敷に入るかと思ったら、ルイーズの前を歩いていたカミーユがくるりと振り向いた。
「ここからは男女別行動ですわよ、ルイーズ様!」
「…別行動、ですか?」
「はい!」
ルイーズと同じく事情が掴めず困った顔をしているジャックに、ジョアンが笑顔を向けた。
「僕たちは庭でパレをやろうかと思うんだけど…ジャック、パレは得意?」
「えーと…得意かどうかは分からないですけど、パレで遊ぶのは好きです」
「じゃあ決まりだ!…兄上、いいですよね?」
「うん、いいんじゃないかな」
「よし、行こう!」
アランの返事を聞くが早いか、ジョアンはジャックの手を引いてさっさと行ってしまった。
「じゃあルイーズ嬢、また後でね」
「はい」
こちらに向かって軽く手を挙げて去っていくアランを目で追っていると、カミーユがルイーズの手をガシッと握った。
「さぁ、参りましょう!わたくしの部屋へご案内しますわ」
「はい。よろしくお願いします」
ニコニコしているサリューに見守られながら玄関のドアを入ると、目の前に左右に分かれた大きな階段が現れた。2階まで吹き抜けの玄関だけでもかなりの広さで、度肝を抜かれてしまう。
「…とても広いお屋敷ですね」
「そうですか?…王都の本邸に比べたら狭い方なのですけれど…」
「そ、そうなのですか」
「えぇ。お母様とわたくし達兄妹は普段は本邸に住んでいて、ここには週末などに来るのです。お父様はお仕事の関係で、王城のすぐ近くにあるもう一つの別邸に泊まることもありますわ」
……さすがは公爵家。公爵様がお仕事用に使うという別邸ですら、きっとレーヌ伯爵家よりも広いのだろう。ちなみにレーヌ伯爵家も王都郊外に別邸を持っているけれど、勿論もっと慎ましやかなサイズだ。
公爵家の凄さに驚きつつ階段を上っていくと、広い踊り場に出た。"踊り場"ってどんな場所のことか前世ではイマイチ分からなかったけれど、確かにここなら踊れそう。
広い廊下を進んでいくカミーユが「こちらですわ」と振り返ると、待機していた侍女がサッとドアを開けた。案内されて入った部屋にも2人の侍女がいて、すでにお茶の準備に取り掛かっている。
「どうぞお座りになって!」
「ありがとうございます」
白とピンクを基調とした女の子らしい部屋の真ん中に、猫脚のかわいらしいテーブルセットが置いてある。勧められた椅子に座ったルイーズは、何もかもが桁違いの公爵家にすっかり圧倒されていた。
「わたくしの今日のドレス、どうかしら?ルイーズ様のアドバイスを参考にさせていただきましたのよ」
「はい、とてもよくお似合いだと思います」
「本当?よかった!ルイーズ様の今日のドレスもとても素敵ですわ」
「ありがとうございます」
今日のルイーズの装いは、胸元に白いレースがあしらわれたレモンイエローのサマードレス。子供同士のお遊び会のようなものだし、ジャック同様カジュアルな装いでということだったので、フリルなどは最低限のシンプルなドレスにした。カミーユも色こそ華やかだけれど、おそらくデザインは普段着に近いのではないかと思われるシンプルなドレスを着ている。
「カミーユ様のネックレス、とても可愛いですね!ドレスとお揃いの…トルコ石ですか?」
「そうなんです!気づいてくださるなんて、さすがルイーズ様ですわ!」
「いえ、そんな……あ、バレッタもお揃いなんですね。素敵です!」
「ありがとうございます!ルイーズ様のリボンもドレスのレースとお揃いですのね!」
可愛いものに対してテンションが上がるのは、古今東西、年齢に関係なく女性に共通なんだと思う。その後も、ハンカチやバッグ、便箋などの文房具に至るまで、カミーユの部屋にあるものを見せてもらいながら、ルイーズたちは楽しくおしゃべりを続けた。
「あぁ、ルイーズ様にとっておきをお見せできないのが残念ですわ!本邸の方ならもっとたくさんありますのに……」
しばらくおしゃべりした後、おかわりの紅茶を飲みながらカミーユが悔しそうに呟いた。
「今日こちらの別邸にご招待いただいたのは、何か理由があるのですか?」
「……それは、お兄様のせいですわ……」
「アラン様の?」
「えぇ」
カミーユが恨みがましそうな顔で頷いた。
「元々は本邸の方にお招きする予定だったのです。でも、ちょうどお母様のお茶会と重なってしまって…それならお兄様がこちらの別邸で、と」
「どうしてアラン様はこちらがいいとおっしゃったのでしょう?」
「……午後になれば分かりますわ。お兄様に止められているので、わたくしからは何も言えません」
ちょっと拗ねたようなカミーユがなんだか可愛い。アランがこの別邸を希望した理由も気になりつつルイーズが紅茶を飲んでいると、男子3人が戻ってきたと執事のサリューが知らせに来た。
「そろそろ昼食にいたしますので、お嬢様方もサロンに参りましょう」
「わかったわ」
「はい」
案内されたサロンは、庭に面した側の全面が窓になった明るい部屋だ。床はタイル貼りになっており、今日は窓を開け放ってオープンテラスのようになっている。
前世では一流ホテルのアフタヌーンティーでしかお目にかかったことのないケーキスタンドに、美味しそうなサンドウィッチやマフィンなどの軽食がたくさん並んでいる。子供向けにつまみやすいようにしてあるのだろうが、それにしてもなんて贅沢な昼食……。
「カミーユ、ルイーズ嬢とはお話しできたかい?」
ルイーズの向かいに座っているアランは、紅茶のカップを持つ姿もとても優雅で様になっている。
「えぇ、たくさんお話しできましたわ!」
「それは良かったね。午後からも二手に分かれようと思うんだが……ルイーズ嬢、今度は僕に付き合ってもらいたいんだけど、いいかな?」
「…私とアラン様…2人だけですか?」
「うん、そう。……ダメかな?」
少し眉を下げて困った顔をされ、思わずドキリとしてしまう。ダメ……なわけない。ただ、2人きりだなんて、どうしていいのか分からないだけだ。
「午後からは、何をする予定なんですか?」
「この屋敷の裏手に丘があってね。それを超えると小さな湖があるんだ。そこまではずっとうちの領地なんだけど、もしできたら馬で一緒に行ってみたいなと思って」
「…湖には行ってみたいですが、馬に乗ったことがないので……」
この世界に生まれてからというもの、外で過ごす機会というものはほとんどなかった。湖に行くなんてとても魅力的な提案だけれど、あいにくルイーズは生まれてこのかた馬に乗ったことがない。残念に思いながら返事をすると、アランはキラキラした笑顔を浮かべた。
「それなら心配いらないよ。僕の馬に一緒に乗ってもらうつもりだから」
「え……」
カミーユとジョアンからは何やら生暖かい視線を感じる。2人とも口を挟まないところを見ると、どうやらこれは決定事項のようだ。ならば腹を括るしかないか…とルイーズはアランに頷いた。
「……分かりました。ご一緒させていただきます」
「あぁ、よかった。断られたらどうしようかと思ったよ。…よろしくね、ルイーズ嬢」
「はい」
ニッコリと綺麗な笑顔を向けられて、ルイーズもアラン様に微笑み返したのだった。
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