60話 「鬼島津」
20160419公開
チエッチは時々訳が分からないというか突拍子もない事を言う。
今もそうだ。
「幼な妻立候補者としてはここは一言、喝を入れねば」と呟いたかと思った瞬間には、難しい話をしている織田店長と『士長』と恐竜もどき達のボスの会話に割り込んだ。
「てんちょーさん、鬼島津って武将を知っていますよね? 腹を括ってやるしかないと思います」
思わず噴き出したのは仕方が無いと思う。
魔法が実在して、恐竜みたいな怪獣が闊歩している異星でまさか聞くとは想像もしていなかった戦国時代に勇名を欲しいままにした武将の異名を突然聞いたのだ。
よりにもよって『鬼島津』だ・・・
チエッチ、どんだけ織田店長を猛将にしたいんだよ・・・
いや、もしかして「島津の退き口」の再現をさせたいのか?
でも、それ、負け戦だよ・・・・・
俺は突然会話に割り込んで来た千恵ちゃんを見詰めた。
「てんちょーさんの強みは確かに守りに入った時の固さです。でも、それって、今回は難しいと思います。なら、攻めるしかないと思います。『攻撃は最大の防御』って言いますよね?」
「えーと、千恵ちゃん? 何が言いたいのかな?」
俺は思わず訊いていた。
勿論、それなりに軍事教育を受けた俺はそれくらいの言葉は知っているし、その限界も知っている。
有名な言葉だが、敵の防御を上回らければ、却って犠牲の方が大きい。
「ここは一気に攻めるべきです。これまで私たちは機動力で負けていたから守りに入る事が多かったですけど、今度は機動力が互角です。ならばやりようは広がると愚考した次第です」
この頃になると、さすがに俺も少しクスっとしてしまった。
女子中学生が『愚考』なんて言葉を使うとは思ってもいなかったからだ。
もっとも、採るべき方針の話し合いも行き詰りつつあるから、却って新しい視点は必要だろう。
感謝の気持ちを込めて笑顔を浮かべてお礼を述べた。
「元ネタは分からないけど、確かにその通りかもしれないな。うん、分かった。千恵ちゃんの意見は良い視点の切り替えになったよ」
「ここまで言ったんだから、ついでにもう少し意見を言ってもいいですか?」
「大歓迎だよ」
「せっかくこれだけの『敵獣』と『害獣』が揃ったんですから、いっそのこと敵陣突破を狙えないかな? と思ったんですよね。相手にしたら、そんな攻撃なんて受けた事ないでしょうから、意外といけるかな? って」
多分、俺の表情は驚きが占めていただろう。
言われてみれば、こっちには『ラカ・クヌ・ナク』という指揮能力を持つ『敵獣』が居る。
それを中核とした密集隊形であれば、それを止める事は難しいだろう。
そこまで考えた時に、驚きは更に深まった。
「まさか、最初に『鬼島津』と言ったのは?」
「ええ。『鋒矢の陣形』です」
この陣形で有名な戦闘は『関ヶ原の戦い』での島津藩の退却戦だ。俗に言う『島津の退き口』だ。
圧倒的に少ない人員で徳川方の包囲網を喰い破った島津藩の勇戦は、『鬼島津』という異名を持つ島津義弘の名を更に高めた。
「『島津の退き口』は負け戦での止むを得ない状況で下した非情の決断でしたが、今回は全く違う結果を見せると思います。それは『蹂躙』です。『無双』です!」
そう言い切った千恵ちゃんの顔は若干上気していた。
そんな千恵ちゃんにあずさ君が声を掛けた。顔には呆れた感情が溢れていた。
「あんたねえ、ゲームじゃないんだから・・・。 でもチエッチがそっち方面の子って知らなかった」
あずさ君の声に我を取り戻したのだろう。
慌てて表情を取り繕いながらボソボソと言った。
「いや、それは隠していたから・・・。 だって、ほら、ゲーム好きの女の子って、男性に嫌われるでしょ?」
最後はこっちを見ながらだったので、安心させる様に出来るだけ優しく答えて上げた。
「特に気にしないんじゃないかな?」
千恵ちゃんは安心した様な表情を浮かべるとあずさ君に言った。
「やはり、大人の男の人はほーよーりょくの数値が高いね」
千恵ちゃんのおかげで光明が見えた気分だった。それにしても、彼女はよく見ている。
確かにここ最近の大きな戦いは防衛戦だったし、『疎開支援チーム』の安全を最優先にしていた。
だが、俺と石井青年が『女神様が遣わしてくれた神の兵』と呼ばれる様になった戦いは、攻めた時のものだ。
久々に攻めるのもいいかも知れない・・・・・
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