56話 「炎弾改」
20160415公開
20160415・20160416炎弾設定一部描写追加
岡田あずさにとって、迎撃戦からの半日は『棚から牡丹餅』というか、展開が早過ぎて心が付いて来ていないというか、現実という実感が湧かなかった。
今、目の前では、煮立った鉄鍋に士長が『益獣』と牛の干し肉を投入していた。
小さ目のまな板の上では、こっち原産の乾燥させた保存用野菜が切られるのを待っていた。
あの声を上げた時には本当に連れて来てくれるとは思わなかったが、今になってやっと実感が湧いてきた。
もっとも、こっちを興味深そうに見ている巨大な『敵獣』の顔が2㍍ほど先に在るので、現実と夢がごっちゃになっている気もしている・・・・・
同じ野営地で食べる食事でも、これまで護衛中隊の方で用意してくれていた食事に比べれば質は落ちるが、それでもお腹が空いていたせいか結構満足した。
勿論、自衛隊時代に比べれば格段に落ちる。
需品科が野外炊具1号で作ってくれる食事や、カンメシ(戦闘糧食Ⅰ型の通称)、もしくはパックメシ(戦闘糧食Ⅱ型の通称)のどれでもいいが、それらを食べられるなら、喜んで全財産を投げ出してしまうだろう。
同じ思いだったのか、石井青年がポツリと洩らした。
「自衛隊時代の野外戦闘訓練の時って、メシが旨かったですよね?」
「まあ、身体を動かした後に食べるから余計に旨く感じるんだろうな。カンメシもパックメシも普通に食べても美味しいし」
「もし1箱でも手に入るなら全財産をはたいてでも買うんですけどね」
「全くだ」
連れて来た2人は俺と石井青年の無駄話を興味深そうに聞いていた。
「こんな食事が続くけど、後悔していない?」
俺は2人に訊いた。
「全然後悔していないですよ。貴重な体験ですし」
千恵ちゃんがすかさず答えた。
「そう。さてと、寝るにはまだ早いので、魔法の訓練をしようか?」
「いいですけど、どの魔法ですか? チエッチが使う炎壁とか覚えた方がいいですか? あれって、結構難しいんですよね」
「違うよ。炎弾の改良型を覚えて貰おうと思ってね」
「え? 炎弾って改良出来るんですか? 結構強力だと思うんですけど」
「今から実演するからよく見てて」
おれは2人にそう言って、炎弾を発現させる為に魔方陣を発現させた。
生み出された炎弾は通常のもので直径が約3.4㌢の球状だ。
「これが今までの炎弾だね。この炎弾の放出核の重さを知っている?」
2人とも知らなかったようだ。首を横に振っている。
「約20㌘だよ。実はこの大きさと重さには理由が有ったんだ。比重が水と同じなんだ。で、表面は硬化されているが中身の強度は水と同じくらいしかない。どうせ水と同じ強度ならいっその事こびり付いてくれれば良いのにそれも無い。まあ、炎弾は加速後は鏃状になるが、角度や当たる場所によっては弾かれる原因だ」
この説明には石井青年も初めて気付かされたのか、感心した表情をしていた。
まあ、俺も気付いたのは最近だ。
何度も疎開する人たちにデモをしている内にふと疑問に思った事からインターフェイスに訊いて、やっと分かったくらいだ。
「で、これが、新しく覚えて貰う炎弾・・・」
今度の炎弾は魔方陣が発現しなかった。
なんせ今、初めて発現させた開発ほやほやの魔法だからだ。
「あれ、小さい?」
千恵ちゃんが真っ先に声を上げた。
「そう、今までのよりも直径が半分になっている。でも、放出核の重さは約20㌘のままだ。この違いはある点でとんでもない違いを生むけど、分かる?」
全員が横に首を振った。
『敵獣』の「ラカ・クヌ・ナク」も小さくだが首を振っている。
「比重が8倍になるって事だよ」
3人と1頭の顔に?マークが貼り付いている。
「水の8倍の比重を持つという事は、この炎弾の放出核は鉄並みの強度を持つという事だよ」
全員の顔に理解の色が拡がった。
「ラカ・クヌ・ナク」だけはその後に怯えを含んだ色になったが、今は未だ突っ込まない。
「俺と士長が使うハチキュウの炎弾は元々89式小銃の弾頭を再現したものに2500℃の高温を付加したものだから、通常の炎弾と違って、当たり所が悪く無ければ大概は肉体に喰い込む。まあ、例外は『敵獣』の頭蓋骨くらいかな? 2人とも鉄砲を撃った事が無いから速度は上げられないけど、比重を上げる事で使うピコマシンはそのままで、今までよりも強力な炎弾を使える様になるって事さ」
早速、3人は新しい炎弾の習得に掛かった。
30分もしない内に3人とも自分のものにしていた。
「さて、次は更に画期的で役立つ魔法だが、その前に1つ片付けないといけない問題が有る」
≪「ラカ・クヌ・ナク」は人類の言葉を理解しているんだろ?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。肯定≫
≪人類の言葉もある程度は発音可能だな?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。肯定。質問してもよろしいですか?≫
≪構わん≫
≪その事にいつ気付きましたか?≫
≪魔法が使える段階で気付いたさ。もっとも、確信したのは今日1日一緒に行動してからだがな≫
相変わらずインターフェイスは自ら進んで情報を教えない。
魔法を使うには詠唱が必須だ。
日本人たちはショートカットとも言える魔法の名前だけで発動可能だが、フロンティーナの人々は、「詠唱」という名の「作用の指定」が必要だ。
だから「ラカ・クヌ・ナク」が魔法を使ったという事は、『彼女は詠唱が可能』となるのと同義だ。
勿論、『敵獣』や『害獣』に特有の言語が有って、その言語を使ったという可能性は残されているが、先程の反応はどう考えても人類が使っている概念を分かっているとしか思えない。
「「ラカ・クヌ・ナク」、人間の言葉が分かるのだろ?」
彼女の返事はゆっくりと首を縦に振る事だった。
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