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55話 「奇妙な集団」

20160414公開

 鈴木百合は、娘の千恵が岡田さんところの長女と何やらコソコソと相談している事は当然の様に知っていた。

 なんせ千恵は彼女の希望であり、夫の忘れ形見なのだ。気付かない方がおかしい。

 娘がコソコソとしている事を知っていたのは岡田さんも同じだった。

 2人の母親はお互いの情報を持ち寄って、1つの結論を得た。

 娘たちが恋の季節に突入したという結論だった。

 日本に居た頃では考えられない様な日々を送る内に、娘の千恵は爆発的とも言える成長をしていた。

 今では自分の意見も言うし、色々と大人びて来ていた。

 だが、いくら成長したといっても、娘はどこまで行っても娘だし中学生でしかない。少々寂しい部分もあるが、母親としては独り立ち出来る様にフォローして上げようと思っていた時に、思いもかけない事態が訪れた。

 織田店長に付いて行きたいと娘が言い出したのだ。

 その直前に突然の様に不安が彼女の心をさいなんでいた。

 それは織田店長を失う不安だった。断崖絶壁に立たされた気分だった。

 きっと娘がもたらす影響だろうと心の奥では分かっていたが、百合は色々な感情に揺さぶられる様に叫んでいた。

 


「店長さん、私からもお願いします! 千恵を連れて行ってやって下さい」


 そして岡田さんも同調した。

  

 


 

 俺は今では愛馬とも言える『益獣ポニー』の鞍をいつもより前にして、もう1つの鞍を後ろに固定した。

 更にその後ろには、かなり膨れ上がった背嚢が4つ、固定されている。

 その他にも色々な道具も固定されている。おかげで機動力は削がれているが、補給を受けられないという前提なので受け入れるしかなかった。

 石井青年の方も準備は終わった様だった。

 

「準備は出来た? お母さんに挨拶は終わった?」


 俺は同乗者の千恵ちゃんにたずねた。


「大丈夫です」


 そう答えた千恵ちゃんの表情にはホッとした感情が窺えた。

 不本意ながらも受け入れたからには現状で出来る万全の準備をした。

 食料は4人でも10日間はつ量に増やして乗せている。

 着替えも、雨に降られても靴下もどきも含めて常に乾燥した下着が1着は防水加工の袋に入っている様に3セットを用意した。

 当然だが、野営用の2人用テントは男女別に2張りを持って行く。

 その他、千恵ちゃんたちがどうしても持って行くと言い張った道具類も含まれる。


「それでは、渡辺さん、後を頼みます」

「任せて下さい。店長こそ、気を付けて下さい」


 渡辺さんには戦力の落ちた「疎開支援チーム」を纏める重責を担って貰う。

 もっとも、活動を阻害する存在だった『敵獣』と『害獣』の心配に関しては今後は気にしなくてもいい。

 最大の障壁だった存在がこちら側に付いたからだ。


「『ラカ・クヌ・ナク』、待たせた」


 敢えて声を出して呼び掛けた。

 彼女は見ようによっては人間臭い仕草で首を縦に振った。


 こうして俺たちは荒野に乗り出した。

 最初の接触は動き出して30分ほどした頃だった。

 俺の後ろに乗っている千恵ちゃんがいきなり鞍上で立ち上がると、右手で2時方向を差しながら緊張感を滲ませない声で教えてくれた。


「てんちょーさん、『害獣』の群れが近付いてきます。数は10くらいで、速度は時速20㌔くらい。んーと10㌔ちょい先です」


 俺は何かに引っ掛かった。


「あ、こっちにも群れ発見。こっちは近いな・・・ 数は5で速度は同じ」


 重力も大きさも同じこの星で、見通せる距離は大人の身長で5キロも無い。

 自衛隊に居た頃に96式装輪装甲車の上に立って演習場を見渡した事が有る。確かその高さで見える距離は7㌔強だった。ほぼ同じ高さの筈の千恵ちゃんがどうして10㌔先の群れを発見出来るんだ?

 以前から気にはなっていたが、折角だから訊いておく事にしてみた。


「もしかして、千恵ちゃんって“視える”人? 見えない筈の物が見えたり、変に勘が良かったりしない?」

「あ、ばれてました? 小さい頃にそれで気味悪がられて、隠していたんですけどね」

「やっぱり。まあ、特技だと考えたらいいんじゃないかな? やたら炎弾を当てるのが上手いのもきっとその特技の特典だし」


 そう言った途端に千恵ちゃんは小さく呟いた。


「さすがてんちょー・・・」


 三々五々という感じで集まって来た『害獣』は、自然と周囲を固めていった。

 その後も集まった端から隊列を組み、今では俺たちと『ラカ・クヌ・ナク』を中心とした直径100㍍の輪形陣を組んでいた。

 数時間もしない内に『敵獣』も合流して来た。

 日が暮れる前には輪形陣は直径300㍍になっていた。


「『ラカ・クヌ・ナク』、今日はここで野営にしよう」


 彼女は不思議そうに4つの目を向けて来た。

 いや、ただ単にそう感じただけだが。


≪『ラカ・クヌ・ナク』が止まる理由を尋ねて来ています≫

「人間は夜は寝ないといけないし、食事も必要だからだ」

≪やはり人間は不便だと言っています≫

「悪かったな」

≪そういえば、どの『害獣』も『敵獣』も食事をしていなかったな。『益獣』はしょっちゅう餌を食べるのに≫

≪3日に1度の食事で問題無いそうです≫

「それは便利なこって」



 奇妙な集団の1日目が終わろうとしていた。


お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m


P.S. 

 何故か『戦記』ジャンルで日間4位まで上昇しました。

 後は落ちるだけですが、それでも嬉しいものですね(^^)

 新たにブックマークと評価をして頂いた方には、その喜びを与えてくれた事に感謝を m(_ _)m

 また以前にブックマーク並びに評価をして頂いた方には、これまで支えてくれた事に感謝を m(_ _)m

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