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54話 「出発」

20160413公開



20160415一部描写を修正

 鈴木千恵は自分の身体から力が抜ける感覚の後で、ペタンという擬音が聞こえるかの様に尻餅をついた。

 てんちょーが行ってしまう・・・・・

 自分を置いて行ってしまう・・・・・

 そして2度と会えなくなる気がする・・・・・

 だが、彼を止める言葉は彼女の口から出る事は無かった。

 彼の決意は明白で固い。

 もしここで止めようとしても無駄なのだ。

 ならば、どうするのか?




 俺は自分自身でつけた『ラカ・クヌ・ナク』の傷を癒しながら、陣地の上で事態の推移を見守っている石井青年に声を掛けようとしたが、その前に少女の声が上がった。


「てんちょーさん、私も行きます! 駄目だって言われても、付いて行きます!」


 俺は思わず、陣地の方を見た。

 そこでは千恵ちゃんが、俺を真っ直ぐに見詰めていた。

 千恵ちゃんの表情はいつになく真剣だった。

 その千恵ちゃんを周りのみんなが驚いた様な顔で見詰めていた。

 

「てんちょーさん、1人で行く積りでしょう? 1人よりも2人の方が安心です! だから付いて行きます!」


 俺は石井青年の方を見た。

 彼は肩を竦めながら声を上げた。


「という事は3人の方がもっと安心ですね」


 更に声が上がった。


「わ、私も行きます!」


 岡田あずささんだった。

 どうなっている? 全く訳が分からない。

 未だ俺は何も言っていない。

 確かに『ラカ・クヌ・ナク』と一緒に新たな『害獣』の群れの対処をする気だったが、どこをどうすれば未成年の女の子がそんな危険な事を志願する気になるのかが分からない。


「駄目だ。許可出来ない。女性でしかも未成年の君達を連れて行く事は、あらゆる意味で不可能だ」


 第一、自衛隊でさえ普通科の一線部隊への女性自衛官の門戸を閉ざしている。

 理由は簡単だ。個人の能力とは関係無く、4つの理由から制限せざるを得ないのだ。

 それは「母性の保護」・「近接戦闘における戦闘(作戦)効率の維持」・「男女間のプライバシー確保」・「経済的効率性」だ。

 それを本格的な戦闘訓練を受けていない女性のティーンエイジャーに門戸を開けという事は、あらゆる意味で有り得ない。

 それに今回の行動はかなり危険だし、本格な野営能力と経験が無いと足を引っ張られるだけになる。

 石井青年でさえ、もしかすれば辛い行程になるかもしれない位だ。

 だから1人で行く気だった。


「店長さん、私からもお願いします! 千恵を連れて行ってやって下さい」

「私からもお願いします!」


 何が起きているのだ?

 何故、2人の母親が娘を危険な場所に連れて行けと頼んで来る?

 有り得ない。


「鈴木様、岡田様。いくら保護者の許可が有っても、こればかりは認められません」


 答えは意外な搦め手でやって来た。

 鈴木さんが更に言い募った。


「もし、一緒に連れて行ってくれなければ、この子たちはきっと無断で付いて行きます。そちらの方が危険ではないでしょうか?」


 どんなスイッチが入ったのだろうか?


「好きな人と一緒に居たいという娘を応援したいのが私の願いです」


 スマナイガナニヲイッテイルノカダレカオシエテホシイ・・・


 いきなり暴露された自分の秘密に、千恵ちゃんが顔を真っ赤にして母親に何かを言っている。

 まあ、聞こえているんだが・・・・・

 親子喧嘩を始めた2人に事情を知らない周りの日本人は思いもかけない事態の展開に付いて行けていない。

 ついさっきまで命のやり取りをしていたのに、今、起こっているのは色恋沙汰だ。

 その落差に付いて来いという方が無理難題だろう。

 そしてフロンティーナ人は蚊帳の外だった。途中から翻訳機能を切られた様だ。

 

≪『ラカ・クヌ・ナク』が説明を求めています。説明しても構いませんか?≫

≪いや、やめてくれ・・・≫


 なんというか、これは軍事機密並みに知られたくない気がする・・・



 結局、気が付けば、4人で行く事になった。

 最初は反対していた周りの日本人さえも、最後は千恵ちゃんたちを応援しだしたのだ。

 日本人の常識とか、良識とか、どこに行った?



 釈然としないまま背嚢に7日分の食料や着替えや野営道具を詰め込んでいる俺の所に渡辺さんがやって来て、説明をしてくれた。

 本当は4人では無く、俺1人か、多くても俺と士長の2人だけで送り出すのが正しいのは分かっている。

 だが、何故かそれでは2人が帰って来ない予感を全員が感じたそうだ。

 それを千恵ちゃんに指摘されて、説得されて、反対意見だったみんなが賛成に回ったそうだ。

 未成年の女子中学生と女子高生を連れていては無茶出来ないだろう、と・・・・・・

 そして、その決定を下した後には不安が消えたそうだ。

 いつの間に、超能力集団になったんだろう・・・・・


 

 こうして、4人と1頭の旅は始まった。

 

 


お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m


P.S. 今朝、5:5評価をして下さった読者様、有り難う御座います m(_ _)m

   執筆の励みになりました(^^)

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