48話 「荒野の戦い」Ⅲ
20160407公開
ナグ中級魔法兵は、『女神様が遣わしてくれた神の兵』の指導が受けられると聞いた時には空にも舞い上がる気分だった。
もともと、ナグは『女神様が遣わしてくれた神の兵』に希望を見出していた。戦力としてだけでなく、魔法も凄いという噂だったからだ。『敵獣』を1人で殺せるような人間が魔法にも精通しているという事は、他の兵科よりも下に見られている魔法兵の立場を変えてくれるかもしれないのだ。
特に噂話のハイライトの一騎討ちで決着を付けたのが、『敵獣』相手では役に立たないと思われていた炎弾だというのが素晴らしかった。
実際に逢った『女神様が遣わしてくれた神の兵』の2人は特に驕る事のない人柄で、末端の兵ほど丁寧に接していた。
逆に上の地位の人間ほど扱いが悪くなるという変わった態度を取るらしい。聞いた話だとナジド王とタメ口で話している姿が頻繁に目撃されていて、それを王も受け入れているらしい。
魔法の実習は素晴らしい成果を齎してくれた。
指導を受けたのは炎弾だけだったが(その他は消費魔素の問題で無理だったのだ)、魔素を多く消費するが、それまでの威力とは段違いに向上した。これなら弓兵以上の遠距離攻撃力を手に入れられる! と一緒に派遣された魔法兵分隊全員が喜んだ事は公然の秘密だった。
もっとも、兵では無い筈の「疎開支援隊」の7人が自分たち以上の戦力だと知った時は全員が微妙な表情になった事は内緒だ。
「千恵ちゃん、ナイス!」
俺は4つ目の『害獣』中心の群れを無視する事にした。
それよりも炎壁を突破して来る『敵獣』を削る方が重要だ。
銃口を炎壁の方に向けて、その瞬間を待った。
「てんちょー、私が左の列を狙います! てんちょーは右側のをお願いします」
「了解! 任せた」
「半分も掛からなかったみたい」
「上出来だ!」
千恵ちゃんが言った通りに、何度か炎壁が揺れた後で、生き残ったヤツラが炎壁の左右を掠める様に姿を現した。
無事に切り抜けた『敵獣』は11頭だった。という事は10頭は炎壁で食い止めたという事だ。
これ以上の戦果を期待するのは贅沢というものだろう。
左の列に5頭、右の列に6頭と2列に分かれた『敵獣』は速度を落とす事無くこちらに向かって来る。
学習したのか、「之の字運動」は不規則にコースを変える様になっていた。
俺はそれを薙ぐ様にハチキュウで捉え続けた。
最後の1頭が動かなくなる頃には俺の右側に居た魔法兵分隊も炎弾を撃ち込む程に接近されていた。
そして西側から南側にかけては白兵戦が始まったのだろう、号令と悲鳴と怒号が聞こえていた。
「てんちょー、こっちもなんとか食い止めました!」
千恵ちゃんの声と重なる様に、東側から士長の声が聞こえた。
「みなさん、頑張って下さい! あと7頭だけです!」
東側がヤバい事になっていた・・・・・・
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