49話 「荒野の戦い」Ⅳ
20160408公開
擬態という言葉が有る。
今の織田店長を見ていると、その言葉が渡辺健二の脳裏に浮かび、しかもこびりついて離れない。
親子喧嘩の挙句に防大に入ったと聞いた時は小さい時から知っているだけに驚いた。
もっとも、あの不幸な出来事の6年後に社長が身体を壊した時に跡を継ぐべく帰って来てからの順応性にはもっと驚いた。
最初は雰囲気が固かったし戸惑っていた様だったが、1年もしない内にベテランの店員に負けない知識を身に付けて、その雰囲気もまさしくスーパーの店員そのものになっていた。
3年ほどで店長になったが、自衛隊に居た時代に他人を引っ張って行く教育とそういう立場に居ただけあって、上手くみんなを纏める能力は見ていて頼もしいものが有った。
だが、今の店長を見ていると、あの時は擬態していたとしか思えなかった。
本当の織田信長という人物は、こういった危険と隣り合わせの時にこそ真価を発揮するタイプなのだろう。
俺が東側に走って行った時には、東側はもう上から魔法を撃てる状況に無かった。
歩兵が盾を密集させて作る防御線もさすがに7頭もの『敵獣』には無力だった様で破られた後だった。
その為『敵獣』と歩兵がかなり入り混じっている。この状況で炎弾を使って跳弾でもされたら、もっと混乱する。
せめて空間を造らなくては援護もままならない。
「士長、残った『害獣』を先に削ってくれ! 俺は下でヤツラを喰い止める! その時の援護のタイミングと方法は任せる!」
俺はそれだけを叫んで、地面に飛び降りた。
空中に居る間にもう一度状況を確かめた。
6頭の『敵獣』は満身に炎弾を受けて、かなり傷んでいるのが分かる。でも手負い故に凶暴性が増しているのか、混乱した歩兵の手には余る状態に陥っている。1頭だけ大きいのは騎兵の小隊が相手をしていた。体格が『益獣』と同じくらいなせいもあって20対1にも拘らずにこれも苦戦している。
もともと『敵獣』の方が『益獣』よりも瞬発的な力が上なので仕方が無い面も有るが・・・
こんな状況で更に無傷な30頭もの『害獣』と1頭の『敵獣』に乱入されたら収拾が付かない。
強化された俺の身体は着地のショックを受け止めてくれた(第一空挺団出身だったら五点着地を決めるところだろうが、俺にはそんな技術が無いので素で飛び降りた)。
ハチキュウに銃剣を生やし、7㍍先で横っ腹を見せている『敵獣』目がけて一気に加速する。
ヤツの近くの地面には何人も歩兵が倒れているので、最後の3㍍はそのままの勢いで跳躍せざるを得ない。踏ん張りが効かないが、この勢いなら何とかなるだろうと判断して一番柔らかそうな腹の部分に銃剣を喰い込ませるように突き込んだ。
だがやはり不十分だった様で、突き刺さったのは5㌢程だった。筋肉層で阻まれている。『敵獣』が反射的に身を捩る前兆をとらえた。ここで下手に拘るとハチキュウごと振り回されるので、一旦ハチキュウを消して距離を取った。
こっちに顔を向けて3つの目を向けるヤツの動きに注意をしつつ、音だけでなく目でも周囲の状況を確認しようとした時にヤツの顔面に炎弾が命中してあっさりと弾かれた。跳弾となった炎弾がヤツの右手の爪を槍で食い止めていた歩兵に当たったが、あっさりと鎧に当たって霧散した。
低温の炎弾の放出核を軽くする事でより威力を落とした炎弾だと気付いた瞬間には俺は思い切ってその場で1回転した。
僅か半秒に満たない時間で得られた視覚情報はかなりの量だった。
周囲では、歩兵が混乱に陥っているがかろうじて少数ながら複数で対抗している。万全の状態だったら無理だろうが、高温の炎弾を何発も被弾したせいで『敵獣』の動きが鈍っている為に可能になっているのだろう。とは言え、最初に受けた心理的な負担と凶暴化している『敵獣』に腰が引けているので倒すなどは不可能だろう。
また1発、炎弾が『敵獣』の顔面に命中した。
炎弾に過敏になっているせいか、『敵獣』の目の内上側2つが陣地の方を向いた。
視線が動いた瞬間に俺はハチキュウを出現させて一気に前に出た。
視線を変えるという事はそれまで向けていた意識を減らす事と一緒だ。その一瞬のブランクを利用しない手は無い。
3㍍の距離を一瞬で埋めた俺に慌てて上半身を起こして右手を振って来るが、俺は姿勢を低くしてヤツの懐に入った。ハチキュウをヤツの喉元に下から押し付けて引金を引く。
切換えレバーが連発のままだったので、5連射の高温の炎弾が喉を突き破って後頭部から抜けて行った。
後ろに跳びのいた勢いのまま、着地する寸前に後ろをチラッと見て、次に跳ぶ方向を確認する。
着地した瞬間に身体を沈ませて勢いを殺して身体を捻って両足で20度ほどベクトルをずらして跳んだ。
予定通り、背中を向けている『敵獣』との衝突コースに乗れた。
まだ気が付いていない。『敵獣』の上の目がピクッと動いてこっちを見た。尻尾の先がピクリと動くのに気付いたが、ヤツが尻尾を俺の身体の前に振るよりも俺の身体が『敵獣』の身体に乗る方が早かった。
さっき見た時にはコイツの下に誰も居なかった筈だが・・・
居たら、すまん!
さっきと同じく5連射を背中から下に向けて撃ち込んだ。高速かつ高温の炎弾をこの近距離で喰らった『敵獣』は着弾のショックで身体を震わせると、そのまま力尽きて崩れ落ちた。
背中から飛び降りた勢いを使って、新たな『敵獣』に向かった俺は一瞬だけ陣地の方を見た。
俺と視線が合ったのは、千恵ちゃんだった。
ナイスアシスト千恵ちゃん、と心の中でお礼を言った俺は、次の『獲物』に視線を向けた。
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