47話 「荒野の戦い」Ⅱ
20160406公開
『このボランティアに参加して良かった』
岡田孝也は心からそう思っていた。
自分の家に帰れないという事がどれ程心の重みになるのかは実際に経験しないと分からないだろう。
刻一刻と傷んでいるであろう我が家の事を考えると、時が流れる程に焦りが募った。
その経験から、疎開先から戻った時に家を使える状態で保存しておくという店長の発想は全面的に賛同せざるを得なかった。
勿論、たった今、故郷の双葉町に帰郷出来る様になったとしても、簡単には行かない。
何故ならば、町というものは住人が居て初めて機能するのだ。自分達親子だけが帰宅を果たしても、町のみんなが一緒に帰らないと生活が成り立たないという事は、中学生から大学生になったこの5年間で理解していた。孝也はそれくらいは理解出来る成長をしていたのだ。
もっとも、自分が魔法使いとして戦争に参加するなんて、このボランティアに参加した当時には想像は出来ても本当になるなんて思いもしなかったが・・・・・
「みなさん! 有効射程距離に入ったら、予定通りに『敵獣』を狙って下さい!」
店長が声を張り上げた。
遠くで恐竜の様な化け物たちが動き出したのが見えた。
自分達兄妹で造った砦が本当に役立つ事をこっそりと神様に祈った・・・・・
俺は最初の1発目を風向きと風速を確かめる意味も有って、曳光弾を選んで単射で発砲した。
射撃姿勢は最も安定する2脚を使った伏射ちだ。
風は右から左に流れている様だ。つまりは東風という事だ。風速は2㍍といったところだろう。距離と風向と風速から2クリック修正する。
一瞬だけ視線を向けてヤツラの隊列を確認した。2列縦隊の『害獣』30頭の後ろに『敵獣』が1頭という隊列だった。これなら『敵獣』の姿はほとんど『害獣』の身体の影に入って狙撃は難しくなる。北側からは4つの群れが侵攻して来ていた。本命の『敵獣』のみの群れは未だ動き出していなかった。
俺は切換えレバーを『3発制限点射』を表す「3」の位置に捻った。
呼吸を整えながら引金を引いた。右肩を3発分の反動が叩くが、『害獣』が2頭行動不能になっただけだった。
再度、照準を合わせた時に『害獣』の群れが方向転換した。角度は40~45度くらいか?
今度は『連発』の「レ」の位置に切換えレバーを捻る。確実に殺るには、残弾数を気にしている場合では無かった。まさか『之の字運動』をして来るとはさすがに想定外だった。
1度照準を合わせ直して再度方向転換をしたタイミングで引金を引いた。
2秒後にやっと『敵獣』がもんどりうって止まった。
息を継ぐ間も無く、右隣の群れを探して、そのまま連射を重ねた。
3つ目の群れに照準を合わせた時に遂に本命の群れが動き出した。本命の群れに照準したい気持ちを抑え込んで3つ目の群れに炎弾を叩き込んだ。
3つ目の群れを率いる『敵獣』を殺った頃には『敵獣』だけの群れは早くも2回目の方向転換をしていた。
「千恵ちゃん、タイミングは任せる!」
「グミ村の戦い」での働きから、彼女の『当て勘』と『瞬発性』は天性のものが有ると見込んだ俺は今回の迎撃戦で重要な役割を彼女に振っていた。
そう、千恵ちゃんには北側からやって来る本命の『敵獣』を迎え撃つ役割を振っていた。
彼女1人で北側を抑える事で支援チームの残り6人を全て東側の防衛に回せる価値は大きかった。
「やります・・・ 今!」
彼女の言葉と同時に、『敵獣』の群れの前に壁が生まれた。
余りのピコマシン消費量からほとんど使われる事の無い魔法『炎壁』だった。消費ピコマシンに比べて効果が低過ぎるとして「死に魔法」だったが、彼女は2500℃の高温を維持しながら3層もの炎壁を組み合わせる事で必殺の魔法に仕上げていた。
ちょうど3度目の方向転換から加速を始めていた『敵獣』の群れはなす術も無く罠に飛び込まざるを得ないタイミングとポジショニングだった。
この時点で、戦いが始まって30秒しか経っていなかった・・・・・
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