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34話

20160314公開

 最終的に7人に増えた『疎開』支援志願チームに、新しい魔法『家屋梱包』を伝授し、本番に備えて練習を続けもらう事をお願いしてから、俺たちは一旦旅装を解く事にした。

 まあ、旅装を解くと言っても、革鎧と防刃性を高める為に重くて分厚い服を脱いで、久し振りにゆったりとした服に着替えて室内用の履物に履き替えるだけで、意外なほどにリラックス出来た。

 帰りの道中で洗濯出来なかった下着類はまとめて侍女たちに渡した。

 しばらくすると、浴場の用意が出来たとの知らせを受けたので、『中の国』王城が誇る大浴場に向かった。

 はっきりと言って、この大浴場は俺の両親の執念が産み出したものだ。

 この大浴場を見れば、いかに日本人が『お風呂』に情熱を注いでいるかが分かる。

 奥行10㍍、幅20㍍の深さ80㌢の浴槽を満たすお湯を沸かす為に、どれだけの薪が必要かを想像すれば分かりそうな物だ。

 まあ、大半は生活魔法の『沸騰』で何とかしている様だが、それでも十人近くの専任の魔法士が交代でお湯を沸かしているのだから、贅沢の極みだ。

 と、如何にも無駄なコストの様に言っておきながら、浴槽に浸かった俺の口から出た言葉は「ふ~、生き返るなぁ」だったのだから、俺も大概、ごうが深い。

 横で、石井青年も同じ様な言葉を出しているから同罪だ。


「それで店長、明日は女王様に同行して行くんですよね?」

「その予定だけど、何か問題が有る?」

「いっその事、みんなを連れて行った方が今後の事も含めていいかな? って思ったんですが・・・」

「うーん、確かにこの世界の現状を見て貰う事は意味が有ると思うけど、危険性を排除出来ないから悩むところでも有るのも確かだ」

「それなら希望者を募って、希望者だけを連れて行くのはどうでしょう?」

「うーん、どうだろう? 希望者が集まるかな?」


 結局、『西の国』行きに同行する人数は12名になった。

 『疎開』支援志願チームの7人以外にも6人の人間が応募した。

 富田様も応募したが、居残り組をまとめて貰う必要が有るので、今回は残留して貰う事にした。

 『疎開』支援志願チームには、鈴木様母娘、岡田様親子の合計5人の他に、店員から渡辺父子が参加してくれる。そう言えば、この親子はちょこちょこと休みの日にボランティアに行っていた。きっと他人を手助けする事が2人には自然な事なのだろう。

 同行組は、店員からは田中君1人、お客様からは4人だった。

 幸女王みゆきと少しだけ打ち合わせをした後、早目に就寝する事にした。


 翌日は快晴だった。

 さすがに女王の移動だけあって、侍女や護衛を含めて100人ほどの家臣が同行する様だ。

 俺たちは後ろの方の馬車をあてがわれたが、俺と石井青年は帰りと同じ様に騎乗する事にした。

 まあ、習熟を兼ねているが、いざという時に身軽に動ける方が良い。

 途中の町や村で『西の国』側の歓迎を受けたりして、『西の国』の王城に着いたのは4日後だった。 

 途中の町や村でも感じていたが、思ったよりも『西の国』の民衆の歓迎度が高い。

 多分、今回の幸女王みゆきの訪問と言うのを、苦しい状況の改善に結び付くと期待しているのだろう。

 だが、実際にはもっと大きく事態が動く事になる。

 正式な王同士の会談は翌日だが、到着した夜には非公式な会談が設けられた。

 参加者は3人だけだ。

 『中の国』の幸女王みゆきと『西の国』のナジド王、それと俺だけだった。


「それで、『中の国』の受け入れ態勢はどれくらいで整う?」

「やはり1年は必要よ、おにいちゃん。少なくとも数年は住むのだから、住居を用意するだけでも骨が折れるもの。場所は開拓予定だったけど『敵獣』騒動で、手付かずになっている土地を抑えています」

「もし人手に問題が有るなら、先行してわれの国から技術者を送っても良いぞ?」

「それは助かります、ナジド王。本当に人手不足で困っているもので。それならば資材の手配だけで済むので半年も掛からないでしょう」

「問題はどの時点から疎開を始めるか?だ」


 こうして、俺たちが召喚された直後から開始していた事前協議を土台に問題点を潰して行った。


お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m

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