35話
20160315公開
人類が生き残る為の戦略が明らかになる日の朝も快晴だった。
『西の国』と『中の国』のトップ会談は、朝食後に開始された。
ナジド王による幸女王が『西の国』に訪問してくれた感謝から始まり、お互いの息災を祝い、これからの人類も息災である事を、この会談で方向付ける事を誓いあった。
そして、話題は4年前に起こった『西の国』と『北西の国』の戦争の話になった。
戦争自体は2カ月で終わったが、残された惨禍は『西の国』の国力を大きく落とす事になった戦争だった。2カ月間、対『敵獣』に振り向けるべき戦力が減ったのだ。その間に陥落した町は21を数えた。村に至っては46に至る。
「私は思うのです。もしも人類がお互いに争わずに協力をしていれば、これ程の苦境に立たされなかったのでは無いかと。貴国と今は無き『北西の国』との戦争はその最たるものでしょう。もし、『北西の国』が、あの戦争を仕掛けず、お互いに協力しておれば貴国がここまで苦戦する事も無かったでしょう」
この幸女王の言葉は、会談に出席していた『西の国』側の参加者に驚きを齎した。
何故ならば、幸女王はこれまで『西の国』と『北西の国』の戦争について何も語らなかったからだ。
むしろ、『西の国』が『北西の国』を完全に占領した事に反発を軽くだが表明していた程だ。
それが、ここに来て、態度を一変させたかの様な言葉だ。
ナジド王が『中の国』で起こした事件の事は、作戦に参加した部隊しか顛末を知らなかった。
そして、その後の人類の戦略を決定付けた会談はナジド王しか参加しておらず、その後、官僚の一部を呼び寄せて交渉を続ける密命を下したが為に、ほとんどの官僚は水面下の動きを知らされていなかった。
「幸女王の言葉に感謝を。だが、我も今となっては、さすがにやり過ぎたと反省をしておる。もっと彼らと話し合いをしておれば、避けられた悲劇だと考える様になった」
これには、出席者全員が驚いた。
ナジド王が公式の場で、自らの失敗を認めるなど考えられなかったからだ。
「人は過ちを犯すもの。大事な事は、過去を糧に現在を如何に動くかでしょう。もちろん、その先に有る未来が善きものになる様に、正しい目で先を見据えなければ、また同じ過ちが起きるでしょう」
「まさにその通り。そこで相談だが、我の国の民をしばらくの間、受け入れて貰えんか?」
その言葉は、更なる衝撃を出席者に齎した。
『西の国』の国民は、土地に対しての執着が強い。
それは豊かとは言えない土地をなんとか住める様にして来た歴史から来るものだった。
「それはどう言う事でしょうか?」
「このままでは、いつか綻びが出て来る。その前兆も現れておる。先日、前線よりもかなり奥に在る砦を『敵獣』共に包囲される異変が起こった。その時は『奇跡』としか言えない偶然に依って事なきを得たが、今後の事を考えると、今のままでは限界を迎える日も近いであろう」
もう、この頃になると、出席者は驚き過ぎて、感覚が麻痺していた。
これまでのナジド王では有り得ない意見だが、国民も薄々は感じていた事だった。
だが、ナジド王が言葉にすると重みが全く違う。
この瞬間に、『西の国』は未来の敗北を認めたとも言えるからだ。
「ナジド王の覚悟、受け止めましょう。我が『中の国』は要請に全力でお応えします」
「幸女王の配慮に感謝を」
『西の国』の出席者は自分でも気付かない内に涙を目に浮かべていた。
その姿は『中の国』側の出席者の感情にも影響を与えていた。
「で、ナジド王よ。その『しばらくの間』とは、どれくらいの期間でしょうか?」
その幸女王の言葉は、出席者全員にある疑問を抱かせた。
まさか、その期間を過ぎれば、追い出すのか? と・・・
「そうだな、我の見立てでは、8年から10年ほどと考えておる。5年後には『敵獣』に反攻を仕掛ける事は可能となろう。我の国を取り返すのに3年から5年と言ったところか」
「分かりました。その間、『西の国』の皆様には、開墾計画が上がりながらも人手が足りずに立ち消えになっていた土地をお貸ししましょう」
「幸女王の援助に感謝を」
出席者は怒涛の展開に感情が付いて行かなくなっていた。
国を捨てるのでなく、取り返す為に一時的に後退すると言う事が2人の会話で読み取れるのだが、その様な事が可能なのだろうか?
「私からもお願いが有ります。精強と名高い貴国の兵に私の国の兵たちの訓練をお願いしたいのです」
これには『中の国』の出席者が驚いた。
確かに『西の国』の兵士は強い。それに組織として見た場合の軍隊としての完成度も高い。
『中の国』はどちらかと言えば、警察機構を基として拡大させて、東から侵入しようとしている『敵獣』に対処をしていた。これは『中の国』が対人戦争をした事が無かった事から軍と言う組織を持った事が無いので仕方が無い事だが、対『敵獣』という点では弱点にしかならなかった。
とはいえ、軍を組織するノウハウは普通は外には出さない。出せば、将来は自分に火の粉が降りかかって来るかも知れないからだ。
「お安い御用だ。なんなら、我自ら訓練を付けても良いぞ」
会談が始まってから初めてナジド王が笑い声を上げた。
「お手柔らかにお願い致します」
対する幸女王も笑顔を浮かべていた。
「そうそう、先程のお話で出て来た、砦を『敵獣』に包囲された時に起こった奇跡というのどの様な事だったのでしょうか? 私の国にも噂は流れて来ておりますが、本人に訊いても詳しくは教えてくれないのです」
ここで、『西の国』の出席者の脳内に疑問符が浮かぶ。
幸女王と直接会話が出来る人物は限られている筈だ。
『女神様が遣わしてくれた神の兵』の容貌を思い出して、初めて真相に気付いた。
あの2人は、『中の国』だけが手に入れる事の出来る“力”だったのだ。
『中の国』の出席者は召喚が行われた事を知っているし、実際に王城の中庭で訓練している集団を見ている。
幸女王と同じ様な容貌をした集団は身体能力も魔法の威力も自分達とは全く違っていた。
もし、彼らが自分達に協力してくれれば、かなり前線の負担は減るだろうが、残念ながら戦力として使わない事は幸女王が明言している。
「幸女王に見せてやりたかったぞ。まさしく、あれこそが“力”だ。そして、その“力”を我の国に遣わした事に感謝をする」
「いえ、兄の意志で赴いたのです。私は何もしておりません」
もう、この会談が始まってから、幾度、驚いたのだろう。
出席者は、驚き過ぎて、意識が朦朧として来ていた。
だが、最大の驚きはこの後に控えている事を出席者は知らない。
お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m




