33話
20160313公開
明日には『西の国』に向けて出発するという幸女王の時間を、これ以上は邪魔する事はさすがに気が引けたので、しばらくして退散した。
そして、ずっと気になっていたみんなの許に向かった。
中庭は何故か観衆が沢山居た。俺たちに気付くと道を開けるように左右に分かれて行く。
「これに似た光景を映画で見た覚えが有りますけど、何か自分が偉人になった様な気がして落ち着きませんね」
「大丈夫だ、士長。俺たちはしがない元自衛官と予備自衛官に過ぎない。すぐに化けの皮が剥がれて、日陰者に逆戻りさ」
「それはそれで哀しいんですけど?」
みんなは魔法の練習をしていた。
最初に俺たちに気付いたのは田中君だった。
「あ、店長! 帰って来たんですね?」
その後は、従業員に囲まれてしまった。
「店長、噂で聞きましたが、『神の兵』って呼ばれているそうですね? どうやったらそんな『称号』を貰えるんですか?」
何故か異常にテンションが高い田中君が真っ先に質問して来た。
「まあ、その話は後でするからな。それで佐々木副店長、みんなの様子は? 何か問題は出ていない?」
「今の段階では問題ありません。富田様が上手くしてくれたので、お客様も自分たちの状況を理解してくれています」
「悪かったな、厄介な事を押し付けて」
「いえ、私には店長の様に実力で立場を作る事は無理ですから、裏方に徹しますよ」
「それって、意外なほど難しいし、地味に大変なんだぞ。縁の下の力持ちって、実力が無ければ務まらないしな。なんにしろ、助かった」
俺は佐々木副店長に頭を下げた。
「止して下さい、店長。『英雄』に頭を下げられるとこそばゆいですよ・・・」
「ははは、英雄って言葉が自分に向けられるなんて、これまでの人生で考えた事も無かったけど、面と向かって言われると照れるし、実感も湧かないな」
その時に富田様がやって来るのが見えた。
「店長、大活躍だったそうじゃないか」
「まあ、若気の至り、って奴です」
「若気の至りで英雄になれるなら、世界中で増え過ぎた英雄を叩き売りするぞ」
「二束三文の英雄ですか? なんか100均ショップでも取り扱ってそうですね」
「だが、本物の英雄はブランドショップでも扱っていないものだ」
俺自身は自分を本物の英雄とは思っていない。
何故ならば、俺以外の自衛官でも同じ事をやり遂げられると思うからだ。
代わりがごまんと居る英雄が本物とは思えない。
「自分の代わりなんて十万人は居ますよ?」
「だが、ここに居るのは君と石井君だけだ。そして、英雄に足るだけの実績を示した。この惑星の人類にとって君と石井君だけがやっと現れた英雄なんだ」
俺は軽いショックを感じていた。
陸自で小隊長を何年かしただけの平凡な俺が、富田様に英雄と呼ばれるギャップの酷さに・・・・・
「まあ、それはともかく、皆様の様子を見に来る事がメインですが、お願いも有って、やって来たんです。まあ、お願いと言っても、断られる事前提なんですが」
「なんだ? 簡単な事なら断る理由も無いが?」
俺は、断られる事を前提として、『西の国』で考えた贖罪行為を説明した。
反応はやはり予想通りに微妙なものだった。
「そこまでする必要が有るのかな? 確かにそれをしたら喜ばれるし、再び取り返す意欲も湧くだろう。だが、参加者の危険性の事も考えると、参加希望の者が現れるか微妙なところだぞ?」
「うーん、やはりそうですよね・・・」
「まあ、一応はみんなに事情を話して、参加希望者を確認はしてみるが、あまり期待しない方が良いと思う。だが、それ以前に可能なのか? いくらピコマシンが多いと言っても、何百倍も違いがある訳では無い。いっそ、『西の国』の人間自身でさせた方が良くないか?」
それは残念ながら無理だった。
同じ事を石井青年にも指摘されたから、確認したからだ。
≪前に訊いた、魔法で軽石と発砲スチロールを俺が創った後に、それを基にこちら側の人間が創る事は可能か?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。前回の質問の条件、召喚者ならば両方可能ですが、こちら側の人類では発泡スチロールを創る事は不可能です≫
≪理由は?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。こちら側の人類には発泡スチロールの概念を理解出来ません≫
≪抜け道は無いのか?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。今次採集サンプル群と同等の科学技術に対する理解を教育すれば可能。ただし、それは『プラント』の方針により不可能≫
「残念ながら、無理だったんです」
「うーん、まあ、みんなに訊くだけ聞いてみる。あ、それと、それって結構、ピコマシンを使う事にならんか? 1軒や2軒の話じゃ無いから、無理な気がするぞ」
「1回試しましたが、これに関してはインターフェイスが協力してくれて、特別にピコマシンの消費を抑えてくれる事になっています」
まあ、試したと言ってもこちらに帰ってくる間に俺と石井君がそれぞれ1回ずつ試しただけだが、確かにそれほどの負担を感じなかった。1軒分でハチキュウ1発分くらいの感覚だった。
だから、召喚者であれば1000回くらいは可能な筈だ。
「じゃあ、試しにやってみますね」
みんなを下がらせた後で、みんなも真似し易いようにワザと口にして魔法を発動させる。
出来上がったのは厚さ10㌢の縦横20㍍ほどの発泡スチロールの敷き物だった。
観衆がどよめいていた。
そりゃ、いきなり異様で巨大な物が産み出されたのだ。度肝も抜かれるのも分かる。
「発泡スチロールだけだと、『害獣』や『敵獣』が変な関心を示さないとも限りませんので、表面を軽石で覆っています。今回は包む家が無いので地面に拡げましたが、実際は家を丸ごと包む感じで出します」
実演したら、離れた場所でこちらをチラチラと見ていたお客様たちが寄って来た。
「店長、これ、なんに使うの?」
真っ先に質問して来たのは鈴木様だった。
千恵ちゃんは相変わらず母親の後ろに半分隠れていた。
「『西の国』を脱出して貰う際に、住んでいる家を丸ごと保護する為の保護シートみたいなものです。取り返した時にボロボロだと大変ですし、この保護シートを被せる事でもう一度土地を取り返す意欲も希望も出るかな? と思って考えついたんですけど、召喚された人間しか出せないみたいなんです。となれば危険な仕事ですから、どうしようかと思っているんですが・・・」
「やる! 私はその仕事をやります!」
いきなり大きな声を出した女性が居た。
確か4年くらい前に引っ越して来た岡田さんだった気がする。
横に大学生の長男と高校生の長女だったかな、2人の子供が立っている。
「家を無くす人間の苦しみは大変なものです。私たちはそれを味わいました。ですから、少なくとも私たち親子は危険でもやります」
「立候補は嬉しいのですが、岡田様、本当に危険ですよ?」
「私たちの家は双葉町に今も有りますが、2度と帰れません。何故だか分かりますか?」
「まさか・・・」
「ええ、『帰還困難区域』に指定されています。そう、放射能に追い出されたからです」
その後、何人かの立候補者が出た。
その中には鈴木様母娘も居た。
本当に、この人たちには頭が下がる。
俺の頭は自然と45度の角度に下がっていた・・・・・・
お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m




