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21話

20160302公開 1/2



20160302生成した落とし穴数修正

 青年は石井孝義様という名のお客様だった。

 時々店でも見掛けたが、確かに姿勢の良さから何となく元自衛官と思っていたお客様だった。

 陸曹候補生選抜試験を受ける筈だったが、家庭の事情で除隊したそうだった。

 俺と同じ様な境遇で親近感が湧いた。

 それに、今は家の事情も解決したそうで、警備会社に勤める傍ら予備自衛官に登録しているので、訓練も受けているそうだ。

 受け答えも誠実な人柄が分かって、好感が持てる。

 主婦は太田文子様で、こっちには中学生の息子さんと一緒に連れて来られていた。

 元々自衛官では無かったが、高校時代のバレー部仲間の友達と一緒に予備自衛官補の採用試験に応募したら受かったので、一緒に予備自衛官にまでなったそうだ。なので、練度はそれなりだが、頼りになれそうな人だった。


「予備自衛官になって、正解やったわ。何も知らんまま、何も出来ないままやったら、心細いやろ? 少なくともみんなの助けになる知識と訓練は受けたからな。それより店長さんが元幹部さんだったなんて、そっちの方がビックリや。これからもよろしゅう頼みまっせ」


 うん、何と言うか、「浪速のおかん」みたいで頼もしい。

 まあ、予備とは言え自衛官としての態度と云う点ではどうなんだ? という気もするが、俺は現役でも上官でも無いので構わないし、これくらいの距離感の人が居てくれた方が心が休まる。

 富田さんが元自衛官と云う事は知らなかった。


「まあ、昔、3年ほど居ただけだからな。ロクヨンの撃ち方は覚えているが、そんなに腕は良い方じゃ無かったので、あまり自信は無いぞ」

「いえ、富田様には自分が前線に出て、こっちに居ない間の皆様のまとめ役をお願いしようと思っていたので、小銃が使えると言うだけでも予想外のボーナスポイントです。それで、改めてお願いしたいのですが、まとめ役を引き受けてくれませんか?」

「分かった。その話、引き受けよう」

「有り難う御座います」

「すみません、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう、石井様?」


 声を掛けて来たのは石井青年だった。


「良かったら、自分も店長と行動を共にしたいのですが?」


 俺には理由が分からなかった。

 

「何故でしょう?」

「いえ、昨日からずっと見ていましたが、万が一店長が居なかったら、我々は結構酷い目に遭っていたと思うんです。ましてや、こっちの国王やら女王とも対等どころか優位に立って交渉している。もし、店長を失う事が有れば、我々の立場は弱くなります。と云う事で、店長を死なす訳には行かないので、誰かが傍に付いていた方が良いだろうと。それも店長に近い戦闘力を持っている人間の方が良い。という事で、自分が店長に付くのが、みんなの利益にもなるという結論なんですが、如何でしょうか?」

「ふむ、その通りだな。店長に死なれれば、色々と悪影響が出そうだ。石井君だったっけ? 俺からも店長の傍に居てくれる事をお願いする」

「でも、お客様を危険な目に遭わすのは、本末転倒ですよ、富田様」

「俺はスクーバダイビングをしてるんだが、安全性を高める方法としてバディシステムという言葉が有る。1人では気付かない危険も、複数がお互いに注意していれば気付き易いし安全性は飛躍的に高くなる。お客さんを危険に巻き込みたくない気持ちは分かるが、店長は自分の価値に気付いた方が良い。居なくなって困るのは残された俺たちなんだよ」


 どうやら逃げ道は塞がれたらしい。


「分かりました。石井様、宜しくお願いします」

「呼び捨てでいいですよ。どうしても言い難かったら、お互いに階級で呼び合うってのはどうですか? 自分は店長と呼びますので、自分の事は士長って呼んで下さい」

「店長と士長のペアというのも変ですが、分かりました。改めて宜しくお願いします、士長」

「はい、こちらこそよろしく願いします、店長」


 その後、魔法は俗に言う火属性のレクチャーに移ったが、意外な事実が発覚した。

 この世界では炎と言えば焚火が基準になっていたが、それだと温度は800~900℃でしか無かった。

 だが、俺が持っていたマッチ(俺も普段はガスライターを使うが、偶にマッチで点けた時の煙草の香りが嗅ぎたくて両方持っている)の温度を基準に出来た。なんせ、マッチと云うのは酸化剤入りの超強力な火力を一瞬だが捻り出せる。その温度は2500℃だ。これは、鉄の融点の1538℃よりも遥かに高い。

 その威力故に扱いには注意が必要だが、これは『敵獣』に対して大きなアドバンテージになる。

 そして、火属性魔法だが、この世界ではそれなりに使っている。

 生活魔法と呼ばれる範疇の『着火』から、攻撃魔法としての『炎弾』、『炎地』、『炎壁』が主なところだ。

 ただ、主に牽制や誘導に使われる『炎弾』でも、魔法に特化した兵士で100発までが限度で、『炎地』と『炎壁』に至っては10回発現させるとピコマシン欠乏症になってしまう。

 インターフェイスに確認すると、俺たちはこちらに連れて来られた時に限度いっぱいまでピコマシンを体内に溜められる様に改造されていたので、その数倍は使えるそうだった。

 以上の事から、俺たちは、火属性魔法に習熟出来ればチート持ち(と云う言葉を田中君に教えて貰った)になれるらしい。

 その後、水属性魔法や光属性魔法もレクチャーされたが、これらはこちらの常識では完全に生活魔法だった。

 まあ、ずるがしこい地球出身者なら、色々と応用出来るのだが・・・・・

 そうそう、この世界に新しい魔法属性が誕生した。

 土属性だ。

 体内のピコマシンの内包量の関係で発展以前の段階で開発さえもされていなかったが、30個くらいの直径1㍍くらいの落とし穴位ならば、時間を掛ければ作れた。

 発案者は、田中君と坂本一志様という高校生だった。

 なにやらネット小説から発想したらしいが、「これで勝つる」と言った時の笑顔にちょっと引いた事は内緒だ。



お読み頂き誠に有難うございます m(_ _)m

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