20話
20160301公開
食事後は割り当てられた部屋に案内されて、一旦落ち着く事になった。
まずはこちらの世界の衣装に着替える。
上はVネックの厚手の長袖シャツで、下は折り目の無い綿パンに近いズボンだった。
下着はヒモを結んでずり落ち防止をするトランクスの様なものだ。
それまで着ていた衣服は靴下も含めて渡された布袋に入れて、世話係に渡したが、ドライクリーニング指定の衣服を着ているお客様はちゃんと洗い方を指定しただろうか? この世界にはドライクリーニングの技術は無いだろうから、素材によっては優しく手洗いして貰う事を伝えないと、傷んでしまう等と、どうでもいいことを考えながら、あっさりと眠ってしまった。
翌日は朝から沐浴を済ませてからの朝食だった。
相変わらず半分以上は未知の食材だったが、俺がいつも朝食で食べる内容よりは手間と言い、味と言い、ボリュームと言い、格段にハイソなものだった。
まあ、インスタントのシャケ茶漬けと比べるのがおかしいのだろうが・・・
朝食を終えた後は、大幅に向上した身体能力に慣れる為に軽く運動をして、こちらの世界特有の魔法のレクチャーを全員で受けた。
≪魔法と言っても、そんなに凄いってものじゃないんだな≫
≪採集サンプルMale-3の意見を確認。魔法は、この惑星の生物を絶滅させない為の保険として機能しています≫
≪どういう意味だ?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。均質な工業製品による対抗を行う場合、最終的に人類が勝利しますが、この惑星の生物の一部は絶滅するとの結論が出ています。それを防止する為に、個人の資質に依存する魔法を授けました≫
≪わざと産業革命みたいな進化をさせなかった、という事か?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。肯定です。魔法の威力の上限を術者が経験した事に限定する事により、過剰な殺戮を抑制しています≫
≪その足枷のせいで人類が絶滅したら、本末転倒だろうに≫
≪採集サンプルMale-3の意見を確認。その修正の為に今回の採集行動が行われました。我々は人類の要請無く採集行動は実施出来ません。ナジド王の要請は即時に許可されました≫
みんなは巨大なバリスタの様な弓から放たれた矢を目で追っていた。
≪なるほど、上限をあの程度に留めておく理由は分かったが、俺は自衛官時代にもっと威力が有って、殺戮に特化した兵器を扱っている。それは有効なのか?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。肯定です。所持していたスマホ内の映像により、威力の算定は終了しています≫
≪どうすれば使える? 頭に思い浮かべるだけでいいのか?≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。発現します≫
足元にいきなり89式5.56㎜小銃が出現した。
手に取って確認したが、可動部は全て固定されていた。
≪これでも撃てるのか?≫
≪採集サンプルMale-3の質問を確認。肯定です。あくまでも発現した物質は採集サンプルMale-3が運用する際に必要との結論に依ります。通常は効率化の為に効果のみを再現します≫
確かに撃つごとに巨大な弓を再現するのは非効率だろう。
≪なら、銃剣も欲しいんだが≫
≪採集サンプルMale-3の要請を確認。発現します≫
8年ぶりに撃った89式小銃は、記憶よりも命中率が高かった。
狙った所に集弾する。
ま、魔法だし、そんなものかも知れない。
俺が軽快に試射していると、みんなが集まっていた。
「店長、それって、ライフルっすよね? どうやって出したんすか?」
田中君がみんなを代表するかのように質問をして来た。
「昔、使っていたからな。どうやら実際に体験した以上の魔法は使えないそうだが、これくらいの大きさなら再現出来るみたいだな」
「でしたら、自分も可能かも知れません」
そう言った青年の足元にも89式小銃が発現した。
その青年は俺の方を見た後で、お辞儀をした。
もっとも、そのお辞儀は見る者が見れば分かる作法だった。
その青年以外にも64式小銃を発現させた主婦と、同じく64式小銃を発現させた富田さんを合わせた4人が自衛隊で実際に小銃を撃った事の有る人間だった。
自衛隊出身者が4人も居る事は安心材料と言えた。
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