0話Part2 自己紹介が終わらない。
どこにでもありそうな公立高校の、よく見かける様な部室棟の、これまた平凡な部室の中、折りたたみのデスクを二つ中央に配したその造りは、まさにどこにでもある文科系の同好会の日常風景にしか見えない。
部員は今のところ二人しかいない。和泉は机に肘をついて少年コミックスを眺めていた。
もう一人は耳にレシーバーをあて、スルメイカをかじり、靴を履いたまま机に足を乗せ、不遜にこう呟く。
「あのハゲ共……監視役なんて送り込むつもりなのか……」
「何してるの? 佐渡くん?」
「ユッキーには今んとこ関係ねーよ」
態度の悪い部長は、さらに胸ポケットからタバコとライターを取り出し、火を着ける。
「ちょ、ちょっと佐渡くん! タバコなんて吸ったらダメだよ! 体に悪……ってか僕たち一応未成年なんだよ! 見た人に悪影響って言うかその……」
「あ? 何言ってんだユッキー? 未成年の喫煙描写がダメなら、なんで昼ドラで殺人描写が許されてるんだよ?」
「ふぇ? う~ん……」
「つまり殺人は助長してもオッケーで、未成年の喫煙はダメって事か?」
「うぅ……そう言われると……」
「日本は狂ってやがる。未成年の喫煙や酒は禁忌みたいに扱う癖に、昼間っから人は殺してるんだぜ?」
「なんか違う気もするけど……」
「つまりはオッケーなんだよ! そもそも、なんで規制したら改善すると短絡的になるかね? メディアではけ口が無くなったら、実行に移る犯人が増えたっておかしくねぇじゃねえか?」
「やめてよ! ボク難しい話は苦手だよ!」
和泉がそのクルクル巻いた癖っ毛を掻きむしって混乱する中、ドアがガチャリと音を立て、新たな部員が入ってきた。背の高いオールバックの男だ。
「うーっす。おい佐渡、なんか校長達がまたくだらん事考えてるらしいぞ」
「なんだ周防? もしかしてお前も校長室に盗聴器仕掛けてたのか?」
「……なんだ、佐渡もか? いらん二度手間だったな。ならいいんだわ……それはそうと由希」
呼ばれた和泉がビクリと肩をすくめる。
「なななナニ? すす周防くん?」
「やっぱりお前が犯人か」
「なんのはな……話かな?」
さらに白を切る和泉に周防は溜め息をついた。部長が下品な笑いと共に会話入ってくる。
「なんだユッキーまたやったのか? 連チャンじゃねえか」
和泉は黙秘権を行使する。
「噂だが、今朝早くに体育館の倉庫で、パンツまで下ろした半死半生の男子生徒が気絶してたらしい」
「なるほど……体操服のユッキーに欲情したってわけか。情状酌量の余地ありだな」
「由希はいいよな。被害者は基本泣き寝入りだもんな」
容疑者は半ベソになりながら、ついに立ち上がって机を叩いた。
「全然良くないよ! すごく怖かったんだから! っていうかボクが被害者だよ!」
「現時刻は16:08。自白を受け、犯人確保しました」
部長は壁にかかった時計を見ながら言った。
またドアがガチャリ、部員が気だるそうに入室する。艶やかなレッドブラウンの髪で淡いピンクのシャツを包み、指定のスカートを短くして、なぜか裸足にファーのもふもふしたサンダルを履いている。
「何の用よ佐渡、急に部会なんて?」
「よし、全員集まったな! 取りあえず全員自己紹介をしてくれ!」
おかしな事を言い出すのは、この男に珍しい事ではないが、周防は気付いた。
「また神様か?」
「そうそう、なんかクズ部を小説化したいらしいぜ!」
藤蘭高校二年、佐渡 帝。
語る程の特徴も持たないこの男は小物のクズだ! だがその能力、『神との対話』だけは能力評定AA+ランクに位置づけられ、国も一目置く存在となっていた。
「勝手に紹介するんじゃねえ!」
「なんだ、紹介してくれてるならいいじゃねえか」
「よくねえよ。俺のスーパー・グッド・アドバイスに『神との対話』なんて変な和名つけやがって」
「よっぽどストレートで分かりやすいな。むしろ親切じゃねえか。俺のも頼んだわ」
藤蘭高校二年(というかここにいるのは全員2年)、周防 皇。
名前も言葉遣いもキャラも微妙に部長と被っているため、『二大皇帝』として校内外は愚か近所の犬でさえ恐れる存在だ。
だが小物のバカと違って頭脳明晰、成績優秀で医学部を目指している。なぜ医学部を目指しているか後々明らかになるだろう(人の肉が食えるから)。能力は『十三日の金曜日』。具体的な力は後で考える。
「神のヤロウ……テキトー且つ、完全に俺に喧嘩売ってやがんな」
「まぁ大体合ってるじゃねえか。神様が俺の能力変えたら、それが現実になっちまう訳だし」
ここで和泉も興味津々、キラキラした瞳で部長に聞く。
「ねぇねぇ! 僕は!?」
和泉 由希。
生まれる時に神が性別を取り違えてしまった、花も羨む絶世の美少年。皆は敬意をもって彼をユキ、あるいはユッキーと呼ぶ。そのあまりの可愛さは、もはやそれ自身が能力と言っても過言ではない。要するに、彼は三つの能力を所持するスーパーIAPなのだ! 彼はいつまで男子生徒の服を着ているつもりだろうか?
「説明はしょりすぎだろ。残り二つも説明してねぇし、何言ってるかわかんねぇよ」
「どういう事? 僕『みんな仲良し』以外にの能力なんてないよ?」
「ユッキー……残念だが、もうその力、『マーチング・フォー・ブレーメン』って変なルビ振られてるぞ」
「そうなの!? でもそれなんか可愛いね……ってか僕、性別取り違えられてたの!?」
可愛い少年はかなり遅まきに驚いた。
最後の少女は部室の端に畳まれたパイプ椅子に腰を下ろしてからというもの、無表情で事の成り行きを見守っている……本当は自分も説明して欲しいくせに。
「なんだ、紹介してほしいなら素直にそう言えよ? 備前?」
「ちょっ!? 神様使って心読むの卑怯よ! やめなさい!」
備前 焔衣。♀。以上。
「だそうだ」
「なんで私だけそんな雑なのよ! 佐渡が噓ついてるんでしょ!」
「いやいやマジだよ。つか自己紹介すればいいじゃねぇか」
「い、いきなり顔見知りだけで自己紹介とか恥ずかしいに決まってるじゃない。イヤよ、佐渡が神様に頼んでよ!」
こんな風に、小さな部室の中、四人はいつもの様に楽しく会話していた。
時は四月、季節は春。桜が咲き、花粉症には辛い季節……新入生にとっては、新たな物語が動き出す、特別重要な季節の始まりだ。
「これこのままフェードアウトしてく感じだぞ……」
「ウソ!? ちょっと、私の説明もしてよぉー!」




