3 RUN! STOP RUN! STOP
■■と奈央が現れた場所は、里山体験できる学習施設の敷地内であった。彼女は手を握り、奈央に声を掛ける。
「奈央ちゃん、大丈夫!?」
「うん!行こう!」
二人は施設の敷地から出ていき、道路を走っていく。まだ有度山の中におり、すぐに女陰陽師に追いつく。長い一本道の道路を走っていくが、奈央との距離が離れてくる。
奈央は陸上部に所属しているだけはあり、■■は置いていかれる。向日葵少女は気付いて、立ち止まって振りかける。振り返って、名無しの少女を待ってくれる。申し訳無さを感じつつ、彼女は奈央の元にゆく。
息がしづらく、走るペース配分を間違えたことを自覚する。息切れをしながら奈央に追いつき、走りから歩みへと変化させていく。
「奈央ちゃん。……気にせずに先に行っていいよ」
歩きながら言うと、奈央は首を横に振る。
「駄目。はなびちゃんを一人にしておけないし、もう危ない目に遭わせたくないもん!」
「……っごめん」
膝を両手でつきながら申し訳なくなる。軽度であるが、奈央には神通力がある。神足通、天耳通、天眼通。軽くであるがこれらをある神使の狐から与えられた。今でもその神使の狐は奈央を守る為に憑いている。
■■は身体能力が上がるのは羨ましく思うが、その力を使いこなすだけの身体づくりと技量がないと難しいとのこと。余談であるが、奈央が神通力を使いこなせたのは彼女のボーイフレンド的な人からスパルタを受けたらしい。前に断らないのかと、聞くと。
【八一さんのご褒美が美味しすぎて……断れない……!】
と。奈央は元来のチョロさもあって、八一の誘いにホイホイと乗る。毎回ご褒美があるらしく、奈央は釣られる。今では八一が呼びかけると無条件で誘いに乗ってしまうらしい。パブロフの犬か。
彼女と奈央はゆっくりと歩いて、息を整える。乗馬体験ができる施設の近くまで来ると、奈央は心配そうに■■に話しかける。
「ここから、また走れそう?」
「……問題、ないよ。力の配分、間違えちゃっただけだから。ごめんね、奈央ちゃん。足手まといで」
悔しくて宝珠を握る手をさらに強くする。女陰陽師の守られているばかりという言葉がまさにと言えるほどの正論で、■■は悔しかった。悔しそうな彼女を見て、奈央は首を横に振る。
「ううん、そんなことないよ。足手まといじゃない。それにね、さっきのはなびちゃんの転移の札をすぐに使う判断。私はきっとできなかった。さっきの判断で私も助かったものだもん。お互い様だよ!」
ニッコリと明るく笑う奈央に染み入り、■■は涙目になりながら何度も頷いた。
「私、ペースを落として走るね。はなびちゃんも自分のペースでいいからね」
頷いて、■■は歩く。
乗馬体験施設の前から歩いて去り、彼女たちはゆっくりと走り出した。
■■は有度山の中にある町はあまり行かない。行ったことがあるのは娯楽施設か神社ぐらいなものだ。見慣れない風景を目に移しながら、二人は道路を沿って走っていく。
見た目は田舎ではあるものの遠くから発砲する音が聞こえ、二人はビクッとする。奈央は思い出したように声を上げた。
「ってそうだ。ここ、乗馬体験出来る場所だけじゃなくて、射撃も出来る施設もあるんだった!」
「そ、ういえば、そういう話を聞いたことがある!」
彼女はもみじ兄と慕う親類の婚約者も時々通う話を聞く。この近くにあるとかと納得して、彼女たちは射撃場の前を去っていく。
乗馬体験や射撃場。いろんな場所があると思いつつ、住宅地が見えてきた。多くの人が住まう風景を見るだけで安心してしまう。住宅街の中に入り、歩くと登り坂がある。
「……あ」
この近くにある場所のことを思い出す。彼女は奈央に声をかけた。
「奈央ちゃん。この近くに先にちょっとした坂があるから登ろう!」
「えっ、いいけど、どこ行くの!?」
「……たぶん、奈央ちゃんと知ってるところ!」
■■は近くの坂を登り、■■は心配そうに後をついていく。二人は近くにある茶畑を見ながら坂を登った。二つに別れた道があるが、行き着くところは同じである。一つの上がる坂が見えた。二人は共に坂を上がると、奈央は■■の言っていた意味に気づく。
見覚えのある道路と道で彼女はほっとした。
「やっぱり……見覚えあった」
「あっ、ここって県立美術館への道……!」
舗装された道路に並木道。美術館へと向かう道があり、二人がよく知る道だ。近くには県立大学が管理する一般開放されている公園があり、美術館へ向かう道には芸術品とも言える銅像がある。
地元でも見慣れぬ道はある。普段なら探検気分であるが、今は気楽な状況ではない。
彼女たちは歩道へと移り、坂となっている道を駆け足で下る。
坂が多く足が疲れるが、下り坂であるためまだ楽であった。坂が多いのは山の地域であるため仕方ないと言えよう。二人は真っ直ぐにある私鉄の駅へと向かった。
下り坂である分楽に進むが。
「意外と長く感じるよー!」
奈央が声を上げ、■■は苦笑する。
「出る場所が微妙だったからねー! 仕方ないよ!」
県立美術館の通りから住宅がある通りに映り、赤信号で足止めを食らう。奈央と■■は立ち止まった。赤信号で皆が渡れば怖くないわけではない。奈央は赤信号で止まっている間、待ち切れない様子で声を上げた。
「もー! タイミング悪いー! なんで横断歩道の信号が赤なのー!! はなびちゃんのために青になれー!」
「交通ルールを守らないと、皆不幸になっちゃうから我慢だよ! 奈央ちゃん」
「むーっ!」
諭され、奈央は不服そうに声を上げる。車とバイクが走っていくのを見ている中、■■は息を整えつつ走る準備をし、奈央は身構える。道路の信号機が赤になる。横断の歩行者信号機が青になると、二人は走っていった。
だが、遠くで見えた歩行者専用の信号機は青。二人が来るときには赤となり、奈央と■■はまた足止めを食らう。
奈央はまた怒り出した。
「抗議だ! こーぎする!
なんで、こんなときに二度目のしんごーき! はなびちゃんをどうしてくれるんだ!」
「怒ってくれるのは嬉しいけど、仕方ないって。この先の南幹線にもあるから文句は駄目だよ?」
「ぶー!」
両手拳を握って怒る友人にありがたいと思い、宥める。歩行者専用の信号機が青になり、わたって良しとなる。横断歩道をわたり地元では南幹線と呼ばれる大きな道路につくが、歩行者信号が赤になっている最中に足止めを食らう。
三度目の足止めにより、奈央はぽつり。
「……赤信号。みんなで渡れば怖く」
「怖いからめっ!」
指でばってんを作って、奈央を留まらせた。赤信号での足止めは仕方なく、外部からの意図はないと思われる。
青信号となり二人は白いラインを踏んで、歩道にゆく。駅が見えてきて、二人は身隠しの面を出す。組織の駅構内に入ってしまえば安全だ。駅に近づく最中、二人は車が来てない隙に道路をわたり、駅の前につく。
二人は息を荒くして、人の邪魔にならない位置で息を整えた。
「はぁ……はぁ……ついたぁ……ちょっとしたマラソン競技だね……」
■■は疲れた顔をするが、奈央は走り慣れているのか息を少し荒くしつつも整えていた。
「お疲れ様、はなびちゃん。あそこからここまで約四キロぐらいかなぁ……足止め食らって少し休めたとはいえど……かなり距離はあるよね」
「……うん、でも、大丈夫。行こう」
二人は身隠しの面をする。■■と奈央が改札向かって、■■が先に改札に入ろうとして嫌な予感がした。振り返ると、奈央の掴もうと大きな黒い手が襲ってきている。
気付いていない奈央に■■は驚いて、身が動く。
「奈央ちゃん!」
「え?」
突き放すには間に合わず、■■は奈央ごと抱きしめた。




