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平成之半妖物語  作者: アワイン
7-3章 大切な記憶 大切な誰ヵ
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2 場所は有度山山頂

 車に揺られながら、清水側にある日本平パークウェイの道路を行く。

 望岳橋と呼ばれる場所があり、そこは絶景の富士山のビュースポットである。しかし、車が停まる場所はないため通り過ぎるしかない。停まることは事故を起こす可能性があるのでおすすめできない。

 茂吉が機械が歌う流行の曲を流していく。

 全員シートベルトをしているが、茂吉の運転に荒さはない。商業施設に行くときも帰るときも、法定速度を守っている。見た目が陽キャの顔の良いチャラ男に見えて、車の運転はゴールド免許の優良ドライバーという模範の走りをしていた。

 危険を引き起こさないようにハンドルを操作しており、運転も上手い。というよりもパークウェイには走り屋が多く道も曲がりくねっている為事故も多い。安全運転は心がけなくてはならない。

 助手席に座っている澄は茂吉に話しかけていた。


「茂吉くん。運転上手いね」

「どうも、けど、ここのパークウェイの道は曲がりくねっているから安全運転が大切だ。煽れる場所じゃないし、命大事にだ」

「まあ、確かに、ここ道の脇に車の一部を見かけることもあるし、事故の話も聞くね」

「そうそう、さっきからちらほら幽霊がいるよ。この車自体は魔除けの術がかかっているから襲われないようにしているけどね」


 談笑するように話すが、明らかに談笑するような内容ではない。

 話を聞いて■■と奈央は風景が良い場所以外は、余所見をしないようにする。確かにパークウェイでは幽霊の話は聞くが知りたくなかった。運転しているうちに、日本平を象徴する白い電波塔が見える。目的地が近くなり、茂吉が声を掛けた。


「見えてきたよ。皆、降りる準備してね」


 言われると、日本平の全容と駐車場が見えてきた。見えてきたのはお茶屋。車で視界が動く。土産の店と駐車場が見え、一般駐車場にバスの駐車スペースがある。日本平の山頂は観光客が富士山と駿河湾の風景を撮影しに来る。

 駐車場に入り、車に止める。久々に来た訳ではないが、変わった部分もあった。七年分とも言える記憶がないのだ。七年も経てば変わるのは当然だと理解しているが、心ではどこか寂しさを感じていた。

 シートベルトを外し、四人は車から降りる。■■は最後に降りて扉を閉めると、身の奥からざわつくものを感じた。警戒心を露わにして、彼女は周囲を見回す。名無しの彼女が反応する前に澄と茂吉が反応しており、雰囲気を変えて真剣になる。

 茂吉は車の扉をロックした。車のキーを軽く振るうと狸の顔に模した木造の身隠しの面に変わる。彼は面を被る前に話す。


「澄、田中ちゃん。はなびちゃんを任せた。俺はちょっと妨害してくるけど──」

「相手の仲間が行く手を阻んで妨害が失敗するかもしれないだろう? 八木田さんの時もまさかって思ったんだ」


 指摘を受け、茂吉は間をおいてからほほ笑む。


「……さっすが、澄。けど、無理はしないように」

「無理はしないけど、容赦はするつもりはないよ。茂吉くんも気をつけて」


 返事に茂吉は頷いて微笑む。仮面を被るとともに姿を消した。女陰陽師がここに来ている可能性が高い。三人は警戒しながら、山頂へと向かう。山頂に向かう道には観光客もおり、気分転換をしにくる地元民もいるだろう。狩衣の姿で現れる可能性もあるが、服装や髪形を変えてくる可能性もある。

 ■■も周囲を見ながら山頂へと向かっていく。記憶の中での日本平と彼女の見ている風景はだいぶ異なっていた。坂を登り、彼女は大きなパラボラアンテナのタワーと新たに作られつつある建物を見ながら、彼女たち三人は日本平の山頂へと行く。


「……わぁ」


 彼女は眼の前に広がる風景に感動の声を漏らす。地元民でも飽きないであろう絶景。

 奥に見える山々に静岡市の町並み、駿河湾の海だけではなく、反対側は太平洋の海面が揺れて煌めいて見える。清水港には工場や商業施設があり、海に沿うように街が広がり、伊豆半島が見えた。富士山もぎりぎり見えるが、梅雨という時期だからか雲が多く一部しか見えない。

 だが、それでも絶景に変わりはない。■■はふっと先輩と友人を見た。

 奈央は開花した向日葵のようにキラキラした表情で見ていた。澄は嬉しそうに風景を見ながら笑っている。

 同じ風景を見ていてもリアクションは違う。しかし、目の前の風景を悪く思っているわけでもない。この三人で風景を見ていることに、■■はそこから温もりが湧き上がった。

 海と山の匂いが混ざった風を浴びながら、彼女は二人に口を動かす。


「奈央ちゃん、高島さん、ありがとうございます」


 唐突な感謝に二人は驚いて首を向ける。目線を向けられたことに、名無しの少女は戸惑いつつも、湧き上がる思いを言語化していく。


「あの、今の私は二人を覚えていないけど……奈央ちゃんと高島さんといるとすごく胸が温かいのです。だから、こうしていられるのが嬉しいというか……楽しいというか……」


 最初のときに駆けつけてくれたり、怪談から助けるために協力してくれたり、今も名前を探すのに協力してくれている。それ以外でも喋ってくれたり、助けてくれたりもする。

 ■■は高揚していると自覚しながら、頬を赤くして思いを二人に届けた。


「……私にとって、二人は本当に大切な親友と先輩なんだなってすごく思いました。

……だから、奈央ちゃん、高島さん。この先も、よろしくお願いできますか?」


 恐る恐る聞く彼女に、聞いていた奈央はむず痒そうだが次第に嬉しそうにはにかみ、■■を抱きしめた。抱きしめられて■■は驚き、奈央は嬉しそうに笑う。


「当然だよ。はなびちゃんは大切な親友だもん。これからもよろしくね!」


 彼女に近寄り、澄は奈央ごと■■を抱きしめた。


「私も、二人は大切な友人でもあり、大切な後輩だ。だから、私達の関係に遠慮しなくていいんだよ。はなび」


 二人の優しさに名無しの彼女は涙が溢れそうになる。出すのは涙ではなく、感謝だ。■■は目を拭い、二人に笑顔で感謝した。


「奈央ちゃん、高島さん、ありがとう……」


 感謝し二人の抱きしめを受け入れて顔を上げると、先程は見えなかった光が空中にある。山頂を示す石碑の上に一瞬だけ光って見えた。女は目を丸くし、二人から離れる。


「あれ……は」

「? はなびちゃん?」


 不思議そうに呼ぶが、彼女はそれに手を伸ばして掴む。手の中に物体のようなものが現れ、彼女はぎゅっと握る。驚いて彼女は手の中を見ると、直文の宝珠があった。澄と奈央は駆け寄り、驚く。


「はなびちゃん。それって」

「……うん、奈央ちゃん。直文さんのだ」


 頷く■■に澄は取り込むのを促そうとするが、真剣な顔をして動かす。どうしたと聞く前に悪寒を感じ、奈央と■■は顔色を変えた。


「ズルイ、ㇹㇱィナ」


 先輩の見る方に首を向ける。『ほしがりさん』の女陰陽師がいた。観光客は女陰陽師に気付かない。■■はバッグから札を出し、奈央の腕を掴む。女陰陽師は忌々しそうに名無しの少女を見る。


「……ずるい、ズルイズルイズルイズルイズルイ! とてもズルイ!!

ㇹㇱィㇹㇱィㇹㇱィ! ほしい! なんで、そう友人に愛されてるの!?

羨ましい!! ㇹㇱィ!」


 影から黒い手が現れ、■■は苦虫を噛み潰したように陰陽師を見る。澄は顔を顰めて、二人の前にたった。


「……茂吉くんが邪魔してないとなると……なるほどね。妨害相手が茂吉くんが困るほどの相手と見た」

「っ寺尾さんが困るほどって、妨害相手ってだれなんですか!?」


 困惑する奈央に澄は浮かない顔をし、身隠しの面をしながら片手で刀印を組む。


「わからない。でも、今は私が食い止める。……はなび!」

「はい! 転!」


 ■■は札とともに言葉を出して、奈央と共にその場から姿を消した。



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