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平成之半妖物語  作者: アワイン
7-2章 知っていく一面深化していく絆
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2 馴染んできた学園生活

 学校に登下校して数週間ほど経った5月下旬。幽霊や妖怪がついてくる以外は問題はなく、普通に過ごせている。

 また学校の敷地内の何処かに、直文の力などを感じる。だが、 ■は探し回っても見つからず、直文も首を横に振るほど巧妙に隠されていた。己が憎いと直文が言うと、何いってんだこいつという目線を名無しの少女以外は送ったそうな。学校内にあることは間違いない。彼らは日々の学校生活を送りながら、名前の文字を宿した宝玉を探すしかなかった。

 勉強についてはついていける上に、クラスメイトについても問題はない。部活動の部員については澄から事前に名前を聞いており、彼女は顔と名前を一致させようと頑張った。

 昼食を食べ終えたあとのお昼休み。風呂敷に包み、 ■は息をつくと近くで奈央が机に突っ伏して、泣き言を言っていた。


「ふぇーん……次文田先生の数学だよ……」

「奈央ちゃんって、理数英が本当に苦手なんだね。なんで、文化系のクラスに行かなかったの? 私がいるクラスは理系に特化してるのに」


 名無しの彼女と奈央が在籍しているクラスは理系特化であり、文系ではない。走るのが得意な奈央が理系にいるのが、今の ■は不思議だった。奈央は顔を上げて、一瞬だけ「んっ?」という顔をするが、思い出したかのようにハッとした。


「ってそうだった。はなびちゃん。自分と私のなりたい職種のこと、覚えてなかったっけ……!」

「なりたい職種?」


 奈央は首を縦に振る。


「私は走るのが得意で好きだったから、走る人のサポートをする職業に就きたいの。その為に大学選びとか、職業とか迷っているけど……はなびちゃんは決まってるんだ。それも忘れちゃった……よね」

「花火を作る人になりたい、かな?」


 言った瞬間に奈央は驚き、 ■は笑顔になった。


「そっか、前の私も花火がまだ大好きだったんだ」

「うん。聞いたと思うけど、はなびちゃんは花火が好きだからはなびちゃんってつけたんだ。名前が戻ってこなかったときも、はなびちゃんって呼んでたんだ」


 話を聞き納得しながら ■は気になる。五歳以降、何があったのか。傷付くことなのは間違いないだろう。悩ましく思いながら、 ■は奈央に聞く。


「ねぇ、奈央ちゃん」

「なに?」

「私が名前を失っている間、どんな感じだった?」


 聞いた瞬間に奈央は一瞬だけ目を丸くし、すぐに表情を難しいものにする。奈央は悩ましい声を何度か出したあと、決意したように頷いた。


「うん、あのね。形容し難いんだけど……日々を頑張って生きている感じだった。今を感じている。刹那を感じているって言うのかな。はなびちゃんは、奪われた空白の名前を呼ばれることは嫌がってたよ」

「……そっか、ありがとう」


 話を聞き、申し訳なく感謝する。十歳の頃から五年間。家族や同級生から聞こえずわからない名前を呼ばれ続けるのは苦痛であろう。今を感じるという点で、察しがついた。名前がないのは嫌だという気持ちは ■は理解できる。だが、記憶を失った時の名無し状態の違和感に気付かない事柄が不思議だった。赤子の時ではないような気がし、その前があったのかと考えたときだ。


「あっ、はなびちゃん。次の数学の授業でわからないところがあるんだけど……」


 奈央に声をかけられ、彼女は我に返る。


「どれ……? あっ、ここはね。この数字を利用してこの数字を……」


 開かれた教科書を見つつ、彼女は教えた。

 ゆっくり丁寧に教えていく最中、刺さるような目線を感じ、一瞬だけ詰まる。視線を無視しながら教えていると、奈央は理解できたのかにこやかに笑う。時計を見ると昼休みが終わるまで時間があり、奈央は嬉しそうに教科書を閉じた。


「いやぁ、やっぱり、はなびちゃんは教えるのが上手だなぁ」

「そうかな? でも、わかりやすかったなら良かった」


 同じようににこやかに微笑んでいると、教室から声が聞こえる。


「やっぱ、  さん。……くなったよね」

「うん、落ち着いた……から明るくなったね」

「  、……よな……。……いるかな」

「……がいる噂はあるけれど……」


 小声でも聞こえてくる話と聞こえてこない話もある。気になっていると、奈央は教科書を整えながら話す。


「大丈夫。悪口とかじゃなくて、はなびちゃんが明るくなったっていう褒め言葉だから」

「えっ、そんなに私は暗かったの?」


 驚いて言うと、奈央は思い出すように話す。


「どんよりというより、少し影があったかなって感じ。普段より今のほうが笑顔が増えたからだと思うよ」


 影があったと聞き、 ■は「そうなんだ」と返すだけにする。前の自分と比較するつもりはないが、記憶を戻しておく際の心構えが必要になる。経験値まで取られているわけではないとしても、心構えをしておいた方がいいような気がしたのだ。

 思い出すことがすべて楽しいものではない。

 五歳の記憶だけなら五歳児の精神でいられたのかもしれない。だが、 ■の精神は五歳児ではなく、年相応の精神となっている。経験や記録までもが取られているわけではないのだろうと考えているうちに予鈴が鳴った。


 革靴を履いて眼鏡をかけたフォーマルスーツの先生が入ってくる。教科書と数学で使う三角定規を手にしていた。数学を担当する文田和久。普通の先生だが、眼鏡をはずすと絶世のイケメンと噂されている。それもそのはず、久田直文本人だからだ。教壇の前につくと、全員に声をかけた。


「そろそろ、授業が始まる。皆、ちゃんと予習のプリントは終えたかな。事前準備をしていないとまずいぞ」


 穏やかな声だが表情はリアクションが少ない。全員は慌てて席につく。文田和久として直文が先生として、生徒も接する場面はあるが機会は少ない。授業は問題なく行える程度に知識はあるらしく、先生との交流も差し障りない程度だ。だとしても、無表情で現代までの記憶がないのは不便だ。雰囲気など誤魔化しきれるものではないが、必要な部分は茂吉がサポートしてくれているようだ。

 奈央は席に戻って空欄を埋めてあるプリントを見ていた。予習のプリントは終えたらしい。授業のノートや教科書を出し、授業の挨拶をして着席する。


「皆は予習と復習を繰り返しているか?

覚えるということは──……」


 と話していきながら、直文は黒板に数式を書いていく。器用だと思いつつ、■は教科書を手にすると近くの二人の男子の喋り声が聞こえた。


「……やっぱ、 ■を放課後に呼び出して告白してみる……」

「おっ、勇気あるな……!」


 聞こえないように喋っているつもりだろうが、そこそこ聞こえている。奈央は呆れ、噂の本人は首を横に傾げていた。喋る二人に直文は目を向け、口を動かす。


「鈴木克也、望月階」


 淡々とした声でフルネームで呼ばれ、二人はビクッとして顔を向ける。直文は黒板にはいつの間にか式の問題が書かれており、チョークで黒板を指し示す。


「お喋りをしている余裕があるということは、ここにある式を答えられるな。予習しているならできるはずだ」


 初めて習うものであり、見ていてなかなか意地が悪い。だが、喋っていた二人は直文が怒っていると気付いたのか、気まずそうに黙る。二人が「わかりません」と答えた後、直文は怒りを静めた。


「喋っていて良い時間でないのに、喋ってはいけないよ。授業で学校だからまだいい。だが、社会に出ると今のようなお喋りは咎められて印象が悪くなる。気を付けるように」


 穏やかな声色に戻り、説教をする。だが、怒りがなくなったわけではない。授業をしている最中の直文の表情は保っているものの、雰囲気は鋭いものがある。下手に一言漏らせば、何かされると思われるほどに。最初の注意以降、直文の授業が終わるまで一言も話さなかった。

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