第4話:『見えない影と日米の密談(前編)』
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第4話:『見えない影と日米の密談(前編)』
東京・永田町の官邸、その地下にある完全防音の特命会議室。 一般の職員はもちろん、各省庁の官僚すら立ち入りが許されないこの部屋で、内閣総理大臣・茹蛸は、汗の滲んだ手で冷えた緑茶の湯呑みを握りしめていた。
その向かいには、防衛の現場を背負うベテラン・海洋護と、国家安全保障局の重鎮たちが険しい顔つきで陣取っていた。
「総理……もはや国内の警察力や、自衛隊の単独の沿岸警戒だけでこの事態を隠し通すのは限界です。三陸沖から宮城沖にかけて行方不明となった漁船および貨物船は、すでに二十隻を超えました。いかに報道管制を敷こうとも、民間の保険会社や海運組合から不穏な噂が漏れ始めています」
護の低く抑えた声が、重苦しい会議室に響く。 茹蛸総理は青ざめた顔で唇を噛みしめ、情けない声を漏らした。
「い、一体どういうことだ……! 一体誰が、これほど完璧に、痕跡を残さず我が国の船団を消し去っているというんだ……!」
「……政府内部のインテリジェンス部門、および外事警察の極秘見解では一つの仮説に行き着いています」
国家安全保障局の官僚が、一枚の極秘資料を机の上に滑らせた。そこには、日本近海を取り巻く周辺諸国の動向、とりわけ中国の海洋調査船による不穏な動きのデータが記されていた。
「中国の新型無人潜水艇、あるいはこれまでにない超高圧の流体兵器を用いた『秘密裏の海上封鎖テスト』である可能性が浮上しています。尖閣周辺だけでなく、太平洋の制海権を我が国から奪うための、新手のハイブリッド戦争ではないかと……」
中国の介入――。 その仮説が出た瞬間、総理執務室の空気が一段と凍りついた。もしそれが事実であれば、日本一国で対応できるレベルの紛争ではない。下手に対処すれば全面戦争の引き金になり、かといって沈黙していれば日本の経済生命線が完全に干からびる。
「ち、中国……っ! いや、しかしそれにしては攻撃が異常すぎるぞ。船体があんな粉々に……!」
「だからこそ、日本単独での調査や報復は不可能です」
護は真っ直ぐに総理を見据えた。その瞳には、保身に怯える政治家を突き動かすだけの、強い決死の覚悟が宿っていた。
「総理。直ちにアメリカ合衆国へ打診し、太平洋全域の軍事衛星データおよびペンタゴンの海洋音響解析の協力を仰ぐべきです。日米安全保障条約に基づき、水面下での共同調査を要請するのです」
茹蛸総理は震える手で眼鏡を押し上げ、しばらく天井を見つめた後、力なく、しかし絞り出すようにうなずいた。
「……わかった。ただちにワシントンへ極秘の特使を飛ばせ。ジョン大統領の政権へ、アメリカの協力を取り付けるんだ……!」
だが、人間たちが「中国の陰謀」という自分たちの枠組みの中で必死にパズルを合わせようとしているその時、太平洋の深海では、そんな人間の思惑など鼻で笑うかのように、タコ帝国による次なる「粛清」の準備が着々と進められていた。
(つづく・中編へ)




