第3話:『消えた船団の謎(後編)』
第3話:『消えた船団の謎(後編)』
総理執務室の重苦しい沈黙を破るように、海洋護はタブレット端末の画面を消し、まっすぐに茹蛸総理を見据えた。
「総理。これ以上の隠蔽は、国家の自殺を意味します。幸い、今のところ行方不明になっているのは沿岸の小規模な漁船と、単独運航の母船が中心ですが……奴らが狙っているのは、我が国の食料とエネルギーの命脈そのものです」
「し、しかし海洋君……! もし今これを大々的に公表すれば、市場はパニックになり、支持率は……いや、それどころか我が党の基盤が崩壊してしまう!」
茹蛸総理は椅子に深く沈み込み、頭を抱えた。その表情には、国家の危機よりも自分の足元を守ることで精一杯な政治家の醜悪さと、圧倒的な恐怖に怯える哀れさが入り混じっていた。
そんな総理の姿に、護は内心で深い絶望と怒りを覚えたが、ぐっと奥歯を噛み締めて抑え込んだ。国を守るのは政治家ではなく、いつの時代も現場の人間だ――。
「……総理の許可が下りようが下りまいが、自衛隊は独自に動きます。これ以上の被害を防ぐため、三陸沖の該当海域へ護衛艦隊の派遣を命じる。警戒監視を極限まで引き上げさせます」
「ま、待て海洋君……独断で動かれては……!」
総理の制止を背後で聞き流しながら、護は執務室をあとにした。 廊下に一歩踏み出した彼の耳には、すでに頭上で鳴り響く不穏な警戒音が幻聴のようにこびりついて離れなかった。
人間たちは、いまだに「人間同士の政治や経済のいざこざ」こそが世界の主役だと信じ込んでいる。 だが、その足元――ほんの数百メートル下の深海では、マダラとタコワサの率いるタコ部隊が、冷徹なまでの正確さで「次の包囲網」を完成させつつあった。
日本近海という限られた舞台で始まった、静かなる狩り。 それは、人類が築き上げた文明という砂上の楼閣を根底から崩壊させる、ほんの「序章」にすぎなかった。
(第3話・完)




