第3話『消えた船団の謎(前編)』
今度は人間陣営の視点になりますっ
東京・永田町の総理官邸。その一室で、内閣総理大臣・茹蛸は、またしても重いため息をついていた。 政治基盤が盤石ではない彼にとって、連日のように積み上げられる「不都合な報告書」は、まさに精神をすり減らす毒そのものだった。
「総理、本日も三陸沖から宮城沖にかけての海域で、中小の漁船三隻が突如として連絡を絶ちました。これで今月に入ってから十隻目のロストです」
そう言って険しい顔つきでデータを突き出したのは、自衛隊勤務40年のベテランにして、防衛の現場を一身に背負う男・海洋護だった。 護の鋭い視線に気圧されながら、茹蛸総理は冷や汗を拭い、頼りなげに言葉を濁す。
「じ、十隻……? いや、しかしだな海洋君、それはその……例年の不注意による事故や、急な悪天候が原因ではないのかね? 海上保安庁の方でも調査中だろう……」
「事故ではありません、総理」
護は総理の甘い見立てをぴしゃりと遮った。その声には、長年の勘が告げる不気味な確信が満ちていた。
「どの船も、遭難信号すら発していません。 SOSの一声もなく、一瞬にしてレーダーから消え去っている。さらに言えば、回収されたわずかな浮遊物には、爆発物や座礁の痕跡ではなく――まるで超高圧の水流で内側から粉砕されたような、異常な破断面が見つかっています」
「水流で……? そんな馬鹿な、自然界の潮流で鉄の船が粉々になるものか」
「だからこそ問題なのです」
護は窓の外に広がる穏やかな海原を睨み据えた。 この国は島国であり、エネルギーも食料も、その命脈のほとんどを「海」に依存している。その海が、今や音もなく、しかし確実に牙を剥いている――そんな嫌な予感が、古強者である護の背筋を冷たく撫でていた。
「……マスコミに嗅ぎつけられる前に、原因を徹底的に洗え。だが、大騒ぎにはするなよ。私の足元が……いや、政権が持たんのだ」
茹蛸総理が情けない声を絞り出したその時、防衛省の端末が再びけたたましいアラートを鳴り響かせた。
(つづく・中編へ)




