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第5話『白衣の異端児と自衛隊の戸惑い(後編)』

ついに本格的な衝突が!?

第5話:『白衣の異端児と自衛隊の戸惑い(後編)』


「きりさめ」の艦内全域に鳴り響いた耳をつんざくような警報音に、海上自衛隊のベテラン・海洋護(かいよう まもる)は鋭く振り返った。


「なんだ、何が起きた! 衝突しかけたのか!?」


若い幕僚が青ざめた顔でメインコンソールに飛びつき、震える声で叫んだ。 「っ、護さん! 艦艇のソナーには相変わらず何も映っていませんが……海面下の水温が急激に上昇し、艦の真下で説明のつかない凄まじい推進エネルギーの塊が急浮上しています!」


その報告を聞き、スコッチネルは白衣のポケットから両手を引き抜き、冷や汗を拭いながら歯を鳴らした。 「当たり前だ! アンタたちの高価な軍用ソナーは、水中で音波を反射しない生物の群れや、音を立てない移動体に対しては完全に目隠しをされているのと同じなのさ。だが、私のセンサーが拾った熱量と水圧の変動は嘘をつかない……来るぞ!」


「なんだと……!?」


スコッチネルが指し示した海面を、護が双眼鏡で捉えたその瞬間。 三陸沖の荒々しい海面が、まるで巨大な地割れを起こしたかのように一斉に盛り上がった。


そこには、人間の作ったいかなる潜水艦の形状とも違う、異様なまでのスピードとしなやかな推進力を誇る無数の影――マダラとタコワサの率いる突撃部隊が、音もなく姿を現していた。 先頭に立つのは、深紅のまだら模様を不気味なまでに明滅させる若い部隊長――マダラ。そしてその背後を、冷静沈着な群青色の体表で完璧にコントロールする副隊長――タコワサ。


「ば、馬鹿な……っ! 生体だと!? あんな深海から、魚雷を凌駕する速度で生物が浮上してくるだと!?」


自衛隊の幕僚たちが、信じられないものを見る目で甲板の外へと叫んだ。 政治家たちは「中国の新型潜水艦」だと信じ込み、軍の幹部たちも「どこかの国家の極秘兵器」を想定してこの海域にやってきた。だが、目の前に現れたのは、そんな人間の矮小な思惑を嘲笑うかのように、地球の海を我が物顔で支配する「異形の覇者」そのものだった。


護は奥歯を強く噛み締め、冷や汗を流しながらも、歴戦の軍人としての誇りを絞り出すように命じた。


「……全艦に通達! 迎撃態勢に入れ! 米国艦艇『ジョン・ポール・ジョーンズ』にもシグナルを送れ、総員戦闘配置!」


次の瞬間、マダラの率いるタコ部隊の吸水漏斗が一斉に開放された。


――ドゴォォォンッ!!


音速を超える超高圧ジェット水流「タコ足水流」が、海面を突き破って直撃する。それは爆発ではなく、圧倒的な「水の質量と物理的暴力」だった。 米軍駆逐艦「ジョン・ポール・ジョーンズ」の側面装甲が凄まじい水圧で凹み、甲板の対空機関砲が吹き飛ばされる。さらに、護衛艦「きりさめ」の冷却水取り込み口や排水パイプといったわずかな隙間から、骨格を持たないタコたちの先端が「液体のように」にじり寄る――ゴースト・インフィルトレーション(隙間侵入)だ。


「くそっ、艦内への浸水が発生! 機関室のパイプから何かが這い上がってくるぞ!」 「対抗しろ! 消火栓と高圧電流を流せ!」


艦内は瞬く間に怒号と悲鳴に包まれた。最新鋭の電子制御システムが異物によって次々とショートし、メインのスクリューがガリガリと異音を立てて停止していく。完全な「動く鉄の棺桶」と化す寸前の危機だった。


だが、自衛隊のベテランである護と、米軍の歴戦のクルーたちはここで崩れなかった。 「退がるな! 応急措置とバルブを締めろ! 敵をこれ以上内部へ通すな!」 自衛隊員たちが決死の消火活動と白兵に近い物理的排除を行い、米軍駆逐艦もまた残された主砲と機関銃の近接射撃で海面を荒らし、マダラたちのさらなる突入を辛うじて押し戻した。


圧倒的なタコ部隊の奇襲と非対称戦の前に、艦艇は深刻な浸水と装甲の破損を負ったものの、辛うじて全滅・沈没だけは免れた。


深海の暗闇から、マダラはまだら模様をわずかに渋い色に染め、その様子を冷徹に見下ろした。 『……ほう。人間どもの割には、我々の水流と侵入をよくぞ耐え抜いたな』 副隊長タコワサは冷静に艦艇の動きを分析し、シグナルを送る。 『流石は軍の正規組織、これまでの丸腰の漁船とは耐久力が違います。ですが、船体主要部に致命的な浸水を与え、電子系統を半壊させました。彼らの戦闘継続能力はすでに奪っています』 『よし、深追いする必要はない。今回の目的はあくまで偵察と最初の威嚇だ。全軍、撤退の準備に入れ!』


マダラの合図のもと、タコ部隊は一糸乱れぬ動きで再び漆黒の深海へと身を翻し、波のない水面へと戻っていった。


三陸沖の荒海の上。 煙を上げ、片舷を沈ませながらも、護衛艦「きりさめ」と米軍駆逐艦は辛うじてその浮力を保っていた。 艦橋でボロボロになった制服のまま息を荒げる護の前に、アメリカから乗り込んできた白衣の男――スコッチネルが、冷や汗を拭いながら呆れたような、しかし戦慄の色を浮かべた顔で歩み寄ってきた。


「……見事だったな、ジャパニーズ・オフィサー。一撃で沈められなかったのは称賛に値する。だが、思い知っただろう? 彼らはただの魚介類じゃない。我々人類のテクノロジーなんて、あの海原の前ではただの紙細工にすぎないということを」


護は答えず、ただ沈みゆく海面を睨みつけ、拳を固く握りしめた。 人類は生き残った。しかし、それはタコたちが「今日のところはまだ泳がせておくか」と慈悲をかけたにすぎない――その残酷な真実を、日米の精鋭たちは身をもって痛感させられたのだった。


(第5話・完)

物語が動いてきたっ

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