表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/586

劣った力。


「レイズ・アルバード! 氷属性と……死属性を使う!」


俺がやけくそ気味に名乗った瞬間、ヴィルの眼が細く鋭くなる。


「――やはり、おまえはレイズではないな」


低い声が訓練場に落ちた。次いで、木刀の切っ先がほんのわずかに俺へ傾く。


「問う。なぜ“死属性”を知っている?」


空気が張りつめる。

死属性――それはアルバード家が外へ出さない“事実”だ。禁じられているからではない。そう名乗った瞬間、人はおまえを劣等と断じる。家は侮られ、縁は切れ、騎士団も門戸を閉ざす。だからこそ、徹底して隠す。


「死属性は悪徳でも禁忌でもない。だが、この国では“劣印”だ。」

ヴィルの声は静かだったが、砂塵より重く胸に沈む。

「知る者は限られる。屋敷の者ですら、上の許しなくしては口にしない。……にもかかわらず、おまえは自ら名乗った。」


木刀の影が、俺の足元に伸びる。


「答えろ。誰に聞いた。――おまえは何者だ。」


喉が焼けるほど乾く。言い訳の言葉を探すより早く、背中を冷たさが走った。

指先が、かすかに白む。氷の気配――いや、違う。影が滲むように、熱でも冷でもない“空白”が皮膚の下で蠢いた。


ヴィルの眉がわずかに動く。


「……やはり反応するか。」


俺は一歩、無意識に後ずさる。

この世界では、ただ名乗るだけで“下”に転がり落ちる烙印。

それを俺は、なんの覚悟もなく口にしたのだ。


ヴィルが木刀を肩に載せ、静かに告げる。


「ここで嘘を重ねれば、おまえは守れない。レイズも、家もだ。」


心臓が、ひとつ強く跳ねた。


――どうする。

俺は、“俺”を言うのか。

それとも、“レイズ”を演じ切るのか。


砂塵が、音もなく落ちる。訓練場の空気だけが、やけに澄んでいる。


「……俺は、死……死属性の使い方を知っている! だから殺気を向けるのはやめてくれ!」


必死に叫んだ。心臓が爆発しそうだ。

(ムリムリ……ほんと怖い! この人、マジで強いよ! ゲームでもこんな強キャラいなかったのに……!)


ヴィルの眼がさらに鋭くなる。

「死属性の“有効性”を知っている、だと?」


その声は重く、冷たい。

「……そんなことは、誰にも解明できていない。この世に“扱える者”など存在しないはずだ。なぜ嘘を重ねる?」


「ほ、ほんとに! ほんとに知ってるんだ!」

必死に首を振る。

「証明だってできる! ただ……今は使い方が分からない。だから……教えてくれ! 教えてもらえれば示すから! だから殺すのは待ってくれ!」


ヴィルは木刀をゆっくり下ろし、俺を見据えた。

「……示せるのか?」


「お、教えてもらえれば……! 必ず!」


長い沈黙が流れる。

やがてヴィルは目を細め、吐息を漏らした。


「……いいだろう」

「ほ、ほんとに!?」


「だが覚えておけ。これは“修練”ではない。生まれ持った属性を、どう生かすかを探るだけだ。……死属性が本当に使えるというのなら、ここで初めて証明される」


ヴィルの言葉は冷静だった。

彼にとってこれは“現実”だ。

ゲームもチュートリアルも存在しない。あるのはただ、生まれ持った属性と、それを使う覚悟だけ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ