ダイエットするだろ普通。
リアナが、おずおずと伺うように口を開いた。
「それで……次は、どうなさいますか……?」
俺は一拍置き、胸の内で軽く息を整えてから言った。
「もちろん――ダイエットする。この体じゃ重たすぎて、かなわん」
「っ!?!?」
リアナは目を見開き、そのまま崩れ落ちそうにふらついた。
「そ、そそそそそんな……レイズ様のお口から、“ダイエット”なんて……!」
今にも泡を吹きそうな勢いだ。
「いや、大袈裟すぎんだろ。見ろよ、この体を!」
俺は自分の腹を両手でつまみ、わざとぽよんぽよんと揺らしてみせた。柔らかい脂肪が波打つ感触が、妙にリアルで情けない。
「……ですが、レイズ様は素敵ですよ」
「バカにしてる?」
「そ、そそそんな! 許してください!!」
リアナは恐怖に涙を滲ませ、ひたすら首を横に振る。
「だから大袈裟だって! とにかくダイエットだ。体を動かせる場所に連れてってくれ!」
「は、はいっ!」
そうしてリアナに導かれ、俺は訓練所へと足を踏み入れた。
そこは石造りの広い空間だった。壁にはずらりと武器が並ぶ。剣、槍、斧――金属の冷たい光が、どれもやけに眩しく見えた。
「おぉ……これだよ、これ。ファンタジーを感じるね!」
胸が高鳴る。だが同時に、入り口に立っただけで汗が滲んでいた。俺の身体は、思った以上に重い。
それでも俺は片っ端から武器を手に取った。
「軽すぎる……これじゃダメだ」
「これも……うーん、しっくりこない」
夢中で武器を漁る俺を、リアナは少し距離を取って見守っていた。
やがて彼女は一礼し、控えめに言う。
「その……レイズ様。私は一度お屋敷に戻ります。また参りますので……どうか、お気に召すものをお探しください」
「おぉ、わかった。適当にやってるから、リアナはどっかで休んでていいぞ」
その瞬間、リアナの表情が止まった。
「っ……! そ、そんな“休め”なんて……初めて言われました……」
目を潤ませ、信じられないものを見るような顔。
「それでは……どうか、くれぐれも無茶はなさらぬように……」
そう言い残し、リアナは足早に去っていった。
「いやいや……大袈裟すぎるんだよ……ほんとに」
呟きながらも、俺はまた武器に手を伸ばした。
この肉体は重く、鈍い。けれど――不思議と今は、楽しくて仕方がなかった。
場面は屋敷へと切り替わる。
石畳の廊下に、慌ただしい足音が響いた。
「と、とうしゅさまっ! レイズ様が――!」
駆け込んできたリアナは息を切らし、声を張り上げた。
重厚な扉の向こうから返るのは、この屋敷の主――ヴィル。
「……何事ですか?」
低く落ち着いた声が廊下に響く。
リアナは涙目のまま、声を裏返らせた。
「れ、れ、れれいず様が――ダ、ダイエットを……!」
「――なに!?」
ヴィルの瞳が鋭く光り、その場の空気が一変した。
「詳しく話しなさい。リアナ」
リアナは訓練所での出来事を語り始めた。
豚の丸焼きを一頭しか食べず、野菜を求めたこと。
「休め」と労われたこと。
そして武器を漁りながら楽しそうに笑っていたこと。
「……そんな馬鹿な」
ヴィルは低く呟く。
まるで世界の理が崩れたかのように。
一方その頃、訓練所。
俺は武器を振り回しながら思考を巡らせていた。
(てか……レイズって、カイルに殺されるキャラだったよな……?)
ゲームではチュートリアルの悪役として登場し、主人公に倒される存在。
だがそれは、今のレイズから数十年も先の話だ。
(……もしかしたら、こいつは死なないで済むかもしれないな)
背筋がぞくりとする。
(それにしても……この頃のレイズって何者なんだよ?)
リアナに「レイズ様」と呼ばれ、恐れられ、敬われている。
そして思い出す。
アルバード・レイズ。
アルバードという家名。
俺はまた武器を手に取り、振り回した。
「はは……楽しくなってきた!」
ゲームでは語られない、レイズという人物の過去。
プレイヤーとして、これ以上に興味深いものはない。
「ハハハハハ!! やばいな!! めっちゃ楽しそうだ!!」
そして数分後。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が上がる。
「にしても……この身体、重すぎるぅぅ……!」
情けない雄叫びが、石壁に虚しく反響した。




