食事にいきましょう。
メイドの少女はぺこりと頭を下げた。
「レイズ様、食事の用意ができました」
「そ、そうか……」
俺は慌てて取り繕いながら返す。
「それで君……いや、えっと、今日の食事はどんなメニューなんだ?」
少女は一瞬、不思議そうに俺を見てから、淡々と答えた。
「はい。今日は豚の丸焼きを一頭と、レイズ様の大好きなカウイのジュースをご用意しております」
「……豚の……丸焼き?」
「ええ。それと……レイズ様。いつもは私のことを“リアナ”とお呼びくださるのですが……」
彼女はわずかに俯き、寂しそうに唇を噛んだ。
あ、やべ……名前、すっかり忘れてた。
「そ、そうだ! リアナ、リアナ! ……って、豚の丸焼き一頭!? そんなもん食えるか!!」
思わず素で叫んでしまった。
「む、無理無理無理無理! 腹が破裂するわ! 何考えてんだ!」
俺の狼狽をよそに、鏡の中のレイズは――静かに笑っているように見えた。
まるでこう告げているかのように。
――食っていたさ、いつも通りにな。
「……マジかよ……」
頭を抱える。
俺はようやく理解した。
つまり、この肉体の“前の持ち主”は――本当に豚の丸焼きを日常的に平らげていたのだ。
「その、リアナ……俺は豚の丸焼きじゃなくて、野菜とか、そういう……なんていうんだ? ヘルシーなのがいいんだけど……」
俺の言葉に、リアナは顔を真っ青にした。
「な、なにをおっしゃるのですか!? レイズ様!! いつもなら“なんで二頭じゃないんだ!!”と仰るのに……!」
「殺す気かァァァ!!」
思わず廊下に響き渡る。
「そ、そんな……では作り直しますか……?」
リアナは恐る恐る尋ねてきた。
「いや、それは悪いから……とりあえず案内してくれよ」
そうしてリアナに導かれて食堂へ。
そこに鎮座していたのは――
本当に、豚の丸焼き一頭。
香ばしい匂いが漂い、黄金色に焼き上がった皮がパリパリと音を立てる。
だが、見ただけで俺の胃は拒否反応を示していた。
(……うえぇ、腹いっぱいになりそうだ……これ全部一人で? 嘘だろ……?)
椅子に座り、目の前の料理を前にため息をつく。
食事の席だというのに、ほかに誰もいない。
広すぎる食堂の中央で、丸焼きと俺とリアナ。異様すぎる光景だ。
「……とりあえず、一口だけ……」
恐る恐るナイフを入れ、肉を切り取って口に運んだ。
――!!
「……な、なんだこれ……めちゃくちゃ、うまい……!」
気づけば二口目。三口目。
そして――あっという間に、ぺろりと平らげていた。
しかも、まだ余裕がある。
腹はいっぱいのはずなのに、体が勝手に「もっと食える」と訴えてくる。
「……まじかよ、この体……」
ぽかんとしている俺の横で、リアナはほっとしたように微笑んだ。
「よかった……。やはりいつもながらお見事ですね、レイズ様!」
「……あ、ああ……」
褒められても素直に喜べるわけがない。
「……その、リアナ。次からは……肉はこれの半分以下にして、サラダも用意してくれ」
「えっ!? そ、そんな! レイズ様!! それではレイズ様が餓死してしまいます!」
「アホか! 死なんわ!」
俺のツッコミが、広い食堂に響き渡った。




