納得できない!
「その……レイズ様。私は変わらず素敵だと思いますよ?」
メイドはそう言った。
無理をしているようには見えない。
だが俺には、どうしても慰めにしか聞こえなかった。
「んなわけあるか! どう見てもおデブだろ! こんなんじゃお外に出られるわけないよ!!」
俺は腹をぽよんぽよんと揺らしながら叫ぶ。
メイドは慌てて両手を振った。
「そ、そんなことありません!」
「ある!」
「ありません!」
「ある!」
「……」
「……」
二人して黙り込む。
なんなんだこの会話。
するとメイドがおそるおそる口を開いた。
「……あの、レイズ様?」
「ん?」
「少し……変わられました?」
その瞬間。
背中を冷たい汗が流れた。
しまった。
完全に素が出ていた。
俺はレイズではない。
だが、この世界ではレイズとして生きていかなければならない。
それなのに、さっきから俺は好き勝手に騒いでいる。
怪しまれて当然だ。
「えっ? あ、ああ……」
慌てて咳払いをする。
「ちょっと疲れていただけだ…。気にするな…」
我ながら苦しい言い訳だった。
メイドは目をぱちぱちと瞬かせる。
信じたのか。
信じていないのか。
判断できない表情だった。
やがて小さく頭を下げる。
「そう……ですか」
ほっと胸を撫で下ろす。
どうやら追及はされないらしい。
危なかった。
本当に危なかった。
俺は心の中で安堵の息を吐く。
――俺はいまレイズなんだ。
この身体も。この名前も。この立場も。
全部ひっくるめてレイズとして扱われる。
それがどれだけ納得できなくても。
(……いや、納得できるかぁぁぁ!!)
心の中だけで叫ぶ。
鏡には相変わらず金髪碧眼の美少年と、その美貌を台無しにする大量の肉が映っていた。
俺が頭を抱えている一方で、メイドは静かに俺を見つめていた。
違う。明らかに違う。
レイズは使用人にこんな話し方をしない。
レイズは自分の体型を気にするような人ではない。
レイズは今まで、一度たりとも自分を笑い者にするような振る舞いを見せたことがなかった。
目の前にいるのは間違いなくレイズ様だ。
顔も。声も。身体も。
何ひとつ変わっていない。
それなのに――。
まるで別の誰かが中にいるようだった。
(レイズ様が……私と、こんなふうに会話を……?)
胸の奥に生まれた違和感は消えない。
むしろ時間が経つほど大きくなっていく。
けれど、その違和感と同時に。
ほんの少しだけ。本当にほんの少しだけ。
彼女は思ってしまった。
今のレイズ様の方が――。
前よりずっと、人らしいと。




