優秀な使用人たち。そして晩餐へ。
クリスと俺は、その後も様々な話をした。
彼はどうやらヴィルに強い恩を抱いているらしく、
語る姿はまるで「師を敬う弟子」のようだった。
その真っ直ぐさに触れ、俺は少しずつ心を許していく。
――悪くないやつだ。
やがて入浴を終え、脱衣室で衣を身にまとう。
以前は窮屈すぎて、次に着たときには緩くてずり落ちそうだった服。
だが今、袖を通した感触は違った。
肩も腰も、無駄な隙間がない。
ぴたりと身体に合っている。
「……あれ? サイズ、完璧じゃないか?」
不思議そうに呟くと、クリスが即座に答える。
「当主様。リリアナ様が仕立て直しました。鍛練で痩せられた分に合わせて、もう一度お作りしたのです」
「……リリアナ?」
リアナ……じゃなくて、リリアナ……?
誰だそれ。
胸がじんわりと熱くなる。
雑に扱われることに慣れていた記憶が、どこかに残っている。
だからこそ、こうして陰で支えてくれる存在のありがたさが、痛いほど響いた。
そして俺はまだ知らない。
リリアナという人物が、どれほどレイズと深い関わりを持っているのかを。
鏡に映る自分を見つめ、少し照れながら呟く。
「……悪くないな」
そのとき、クリスが真剣な声で問いかけた。
「……ですが、レイズ様。どうしてそこまで“痩せる”ことにこだわられるのですか?
鍛練も魔法も、当主としての力を得るためなら理解できます。ですが――痩せる必要は……」
俺は一瞬黙り込み、やがてゆっくり立ち上がった。
そして、誇らしげに宣言する。
「見よ! これが――俺の腹だッ!」
ぽよん、ぽよん。
両手で腹を叩き、わざと揺らしてみせる。
「……恥ずかしいだろ、こんなの」
その一言に、クリスは目を丸くする。
やがて口元を引き結び、深く頷いた。
「……なるほど。承知しました。確かに、それは……お辛いでしょう」
「わかってくれたか!」
二人の間に、不思議な絆が芽生える。
俺は初めて「理解者」を得たと感じ、さらに心を許したのだった。
――
広場に出ると、リアナが恭しく一礼した。
「当主様、皆様がお待ちです」
「……皆様?」
首をかしげる。
これまで食事は、ほとんど一人だった。
豪華ではあるが、孤独な食卓。
それが“当主”として当然だと思っていた。
(……そういえば、レイズの家族に会ったことがなかったな)
胸の奥がざわめく。
「皆様」が、家族を意味するのだと気づいた瞬間――
足取りが自然と重くなる。
リアナは微笑んだ。
「ではごゆっくりお過ごしくださいませ」
俺は深呼吸し、頭の中で必死にシミュレーションを繰り返す。
(自己紹介?いや、もう知ってるよな……礼儀正しく?でもカッコ悪いのは嫌だ……!)
重厚な扉の前で一瞬立ち止まり、
覚悟を決めて開け放つ。
――そこにいたのは、イザベルとヴィル。
「……え?」
思わず声が漏れる。
てっきり親戚一同ずらりかと思っていたのに。
拍子抜けと同時に、どこか安堵する。
だが二人の視線を受けた瞬間、背筋が自然と伸びる。
イザベルが軽く手を振る。
「こっちこっち」
ヴィルは厳かに頷く。
「……早く座りなさい」
俺は無言で席に着いた。
三人の食事が、静かに始まる。
料理の香りが漂う中、イザベルはどこか落ち着いた顔をしていた。
――すでに何か話を済ませたような、そんな空気。
そして。
ヴィルが静かに切り出す。
「……イザベルに、話してしまったのですね」
(……は? なにを?)
俺の頭上に、巨大な疑問符が浮かぶ。
意味が分からぬまま――
三人の会話が、ゆっくりと幕を開けていくのだった。




