優秀な使用人たち。そして晩餐へ。
クリスと俺は、その後もいろいろな話をした。
どうやら彼はヴィルに強い恩を抱いているらしく、語る姿はまるで「師匠を敬う弟子」のようだった。
そんな彼の真っ直ぐさに触れ、レイズは少しずつ心を許していく。
やがて入浴を終え、脱衣室では最後までクリスが手を貸してくれた。
入浴を終え、脱衣室で衣を身にまとう。
以前は窮屈すぎて、次に着たときには緩くてずり落ちそうだった服――。
だが今、袖を通したその感触は違った。
肩にも腰にも無駄な隙間がなく、ぴたりと身体に合っている。
「……あれ? サイズが、完璧に合ってる?」
レイズが不思議そうに呟くと、すぐにクリスが答えた。
「当主様。リリアナが仕立て直しました。鍛練で痩せられた分に合わせて、もう一度お作りしたのです」
「……リリアナが?」
驚きと共に胸が熱くなる。
自分がどれほど雑に扱われてきたのかを知っているからこそ、こうして陰で支えてくれる存在のありがたさが痛いほど響いた。
レイズは鏡に映る自分の姿を見て、少し照れながらも誇らしげに呟く。
「……悪くないな」
衣服を整えていると、クリスがふと真剣な声で尋ねてきた。
「……ですが、レイズ様。どうしてそこまで“痩せる”ことにこだわられるのですか?
鍛練も、魔法の習得も、当主としての力を得るためなら理解できます。ですが――痩せる必要は……」
その問いに、レイズは一瞬黙り込み、やがてゆっくりと立ち上がった。
真剣な表情で、そして誇らしげに。
「見よ! これが――俺の腹だッ!」
ぽよん、ぽよん。
お腹を両手で叩き、わざと揺らしてみせるレイズ。
「……恥ずかしいだろ、こんなの」
その一言に、クリスは目を丸くしていたが、やがて口元を引き結び、深く頷いた。
「……なるほど。承知しました。確かに、それは……お辛いでしょう」
レイズは胸を張ってにやりと笑う。
「わかってくれたか!」
その瞬間、二人の間に更に不思議な絆が芽生えていた。
レイズは初めて理解者を得たとさらに心を許すのだった。
-
広場に出ると、リアナが恭しく一礼して迎えた。
「当主様、皆様がお待ちです」
「……皆様?」
レイズは首をかしげる。
いままで食事は、ほとんど一人で取ってきた。
豪華ではあるが孤独な食卓――それが“当主”として当然なのだと思っていたからだ。
ふと頭に浮かぶ。
(……そういえば、レイズの家族に会ったことがなかったな)
胸の奥で、なにかがざわめく。
「皆様」とは誰なのか。
そして、それが“家族”を意味するのだと気付いた瞬間、足取りが自然と重くなる。
リアナは微笑んで告げる。
「ではごゆっくりお過ごしくださいませ。」
レイズは胸の鼓動を抑えるように深呼吸しながら、食堂へと足を進めた。
頭の中では必死にシミュレーションを繰り返す。
(自己紹介?いや、もう知ってるだろ……礼儀正しい挨拶?でもカッコ悪いのは嫌だ……!)
重厚な扉の前で一瞬立ち止まり、勇気を振り絞って開け放つ。
――そこにいたのは、イザベルとヴィル。
「……え?」
思わず声が漏れる。
てっきり「皆様」というから、親戚一同ずらりと並んでいるのかと思い込んでいた。
拍子抜けと同時に、どこか安堵の息を吐くレイズ。
だが、イザベルとヴィルの視線を受けた瞬間、背筋は再びピンと伸びてしまうのだった。
イザベルは軽く手を振り、
「こっちこっち」とでも言うように笑みを見せる。
ヴィルは厳かに頷き、
「……早く座りなさい」
と短く告げる。
その空気に押され、レイズは用意された席へ腰を下ろす。
三人での食事が静かに始まった。
料理の香りが広がるなか、イザベルはどこか落ち着いた顔をしていた。
どうやらヴィルとすでに何か話を済ませたようで――
「……イザベルに、話してしまったのですね」
ヴィルがそう切り出す。
(……は? なにを?)
レイズの頭上に大きな疑問符が浮かぶ。
意味が分からぬまま、三人の会話が幕を開けていくのだった。




