クリスとの繋がり。
クリスは丁寧にタオルを泡立て、慎重にレイズの背中を流していく。
湯けむりの中、低く落ち着いた声が響いた。
「……レイズ様。わたしは感動いたしました。
強くなるために、あれほどの鍛練を積まれるその精神力……あれは並の者には決して歩めぬ道。まさしく当主様の器にございます」
その真っ直ぐな言葉に、レイズの胸はどこか高鳴った。
(……おお。痩せたいは完全に抜け落ちてるけど……でも、なんか悪くないぞ!)
気持ちよさに身をゆだねつつも、レイズは低く落ち着いた声で答える。
「そうだな……あの鍛練は、己を強くするだけではない。
私がそれを成すからこそ、皆がついてくるのだ……そう理解した」
クリスは感嘆の息を漏らし、さらに手を丁寧に動かす。
「……お言葉、深く心に刻ませていただきます」
クリスはタオルを動かしながら、しみじみと口を開いた。
「……確かに、私どものレイズ様を見る目は変わりました。
そしてそれをいち早く見抜かれていたヴィル様……やはり傑物にございます」
その言葉に、レイズは少し引っかかりを覚える。
(……ん? 初日はあからさまに“関わりたくないオーラ”出してただろ、おまえら……)
そこで、振り返るように問うた。
「クリス、素直に言え。前の俺はどうだった?」
クリスの手が一瞬止まる。
湯気の中で、静かに言葉を探すように。
「……そうですね。レイズ様は、以前から“ただ者ではない”気配をお持ちでした。
ですが――“メルェの件”から、我々はどこか距離を置いてしまっていたのかもしれません」
「……メルェ?」
聞き慣れない名にレイズは思わず眉をひそめる。
(誰だそれ? ゲームには出てなかったぞ?)
すぐに表情を取り繕い、低く落ち着いた声を装う。
「あぁ……そうだな。あの件は、簡単に乗り越えられるものではなかった。
だが――このままでは何も生まれないと、理解したのだ」
クリスが目を見開く。
レイズはさらに続ける。
「草原で空を仰いだとき、己の存在がどれほど小さいかを悟った。
だからこそ、進むべき道を決めたのだ」
それらしいことを言うレイズ
クリスは深くうなずき、感銘を受けたように背中を洗い続けるのであった。
レイズはふと気付いた。
(……おいおい、背中いつまで洗ってんだ……?)
「クリスよ。もう十分だと思うのだが……?」
だがクリスは真剣な顔で答える。
「申し訳ございません。当主様。
あまりにも深いお話でございましたので、つい手が止まらず……。
それでは次は、前を丁寧に――」
「まてぃ!!!」
レイズは慌てて振り向く。
「前は――そうだな、実は傷が痛むのでな。先に入念に洗ってある!だから大丈夫だ!」
堂々と宣言するが、内心は必死だ。
(あぶねぇぇ! 変なことになったら立場も威厳もゼロだろ!!)
すぐに話を切り替える。
「さぁ、湯船に入るぞ!」
クリスは深くうなずき、慎ましくタオルをたたんだ。
「御意。当主様」
こうしてレイズはギリギリのところで“尊厳”を守り抜いたのだった。




