真実を見てる。
イザベルは涙が出るほど笑っていたが、その一方で心の奥では別の感情が芽生えていた。
――あの魔法。わたしも知らない術だった。発動こそしなかったけれど、確かに“違う道”を示していた。
意地を張るレイズを見ていると、胸の奥が不思議とざわめく。
(なんだろう……いまのレイズ君、前よりずっと大人になったみたい)
イザベルは表情を整え、ふっと微笑む。
「じゃあ、次は簡単な魔力トレーニングをやってみよっか。魔力を錬成して、その状態で私と会話するの。途切れたら最初からやり直しね」
真剣な眼差しで説明するその姿は、まるで教師そのものだった。
レイズは素直にうなずき、従順に指示に従う。
魔力を練り、静かに呼吸を整え、会話に集中する。
その姿を見守るイザベルの心には、奇妙な痛みと温かさが同時に広がっていた。
悲しいようで……でも、どうしようもなく愛しく感じてしまう。
(昔はわたしが引っ張っていたはずなのに。……いまは、置いていかれそうな気がする)
イザベルは胸の奥に湧くその感情を、静かに押し隠しながら微笑み続けた。
イザベルは微笑みながら、次々と質問を投げかけてくる。
「ねぇ、レイズ君。どうしてダイエットなんかしようとしてるの?」
レイズは魔力錬成に集中しているため、お腹を揺らす余裕もなく、ただ真剣な眼差しで視線を送る。
“これだよ、これ!”と目だけで必死に伝える。
イザベルは吹き出すように笑い、首を横に振った。
「そんなの気にしなくていいのに。……たぶん、みんな全然気にしてないと思うよ?」
そして、ふと真顔になる。
「じゃあ次の質問ね。ここの草原で、昔よく遊んだこと……覚えてる?」
レイズは一瞬迷ったが、静かに首を横に振る。
イザベルは小さく「……そう」と呟き、わずかに俯いた。
「レイズ君。私ね、昔、レイズ君と約束したことがあるんだよ」
「えっ、約束……?」
思わず心臓が高鳴る。こんな可愛い子と、約束を交わしていた?
だが記憶を探っても思い出せず、レイズは再び首を横に振った。
イザベルは少し寂しそうに、それでも笑みを保ちながら言う。
「じゃあ、これが最後の質問ね」
その瞳が真っ直ぐに射抜く。
「あなたは……本当にレイズ君なの?」
その瞬間、集中していた魔力錬成がぷつりと途切れる。
「ちょ……! もちろんレイズだよ! なに言ってるんだよ!」
落ち着いた声色を装って返すが――イザベルの眼差しは、すでに真実を見抜いているようだった。




