当主の実力。
「じゃあ――未来の当主様?」
イザベルはわざとらしく首を傾げる。
その口元にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。
「魔法の実力、見せてもらおっかな?」
その言葉を聞いた瞬間。
レイズは待っていましたと言わんばかりに胸を張る。
「ふっ……」
顎を上げる。
「よぉし、見てろよ!」
自信満々。
まるで英雄が必殺技を披露する直前のような表情だった。
もちろん。
死属性は使わない。
あれは切り札だ。
ヴィルからも、
『決して軽々しく見せてはなりません』
と何度も念を押されている。
ならば――
見せるべきはもう一つの力。
氷属性。
ゲームの中でも後半になってようやく解禁される希少属性。
そしてレイズが最も期待している力だった。
レイズは深く息を吸う。
意識を集中する。
身体の奥にある魔力へと手を伸ばす。
ゆっくりと魔力が集まっていく。
青白い光が生まれた。
淡く輝く粒子が身体の周囲を巡り始める。
イザベルは思わず目を見開いた。
(すごい……)
まだ幼いはずのレイズ。
だが、その魔力操作は既に新人の域を超えている。
そして。
レイズは右手を前へ突き出した。
「……アイスフィー――ッ!!」
次の瞬間。
どさっ。
レイズが倒れた。
「え?」
イザベルが固まる。
「え?」
再び言う。
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
慌てて駆け寄る。
倒れたレイズは地面にうつ伏せになっていた。
ぴくりとも動かない。
「レイズ君!?」
肩を揺する。
反応はある。
生きている。
ただ――
魔力が空っぽだった。
そう。
知識があっても。
技術があっても。
魔法を発動するための魔力量が足りていなかったのである。
草原を吹き抜ける風だけが、なんとも言えない空気を運んでいった。
しばらくして。
レイズはむくりと立ち上がる。
服についた砂を払う。
そして何事もなかったかのように顎を引いた。
「……っふ」
妙に落ち着いた顔を作る。
「これは未来を見せた魔法なのさ」
まるで大賢者。
あるいは全てを悟った老人のような口調だった。
イザベルは数秒固まる。
そして――
吹き出した。
「あはははっ!」
肩を震わせる。
「な、なにそれっ!」
笑いが止まらない。
「レイズ君ずるい!」
「あはははははっ!」
腹を抱えて笑い転げる。
レイズは顔を真っ赤にしながらも必死に平静を装った。
「笑うなよ…」
「これは深遠なる未来視だ」
「未来を見せた代償で魔力が尽きたのだ」
それらしく言ってみる。
だが。
声が微妙に震えている。
必死に誤魔化そうとしているのが丸分かりだった。
結果――
さらに面白くなった。
「あはははっ!」
「もうダメっ!」
「レイズ君おもしろすぎるっ!」
草原にはイザベルの笑い声がいつまでも響いていた。
――不発。
結果だけ見れば、それで終わる話だった。
だが。
今レイズが発動しようとした魔法は、確かに未来に存在する。
氷属性。
その力の一端。
もしも今。
もしもこの時。
その魔法が完成していたなら――
イザベルは驚愕しただろう。
ヴィルは言葉を失っただろう。
そしてアルバード家は、その異常性に戦慄することになる。
なぜなら。
死属性だけが異常なのではない。
死属性。
それはゲームの理を崩壊させる、まさにバグのような力。
だが――
氷属性もまた異常だった。
レイズという存在に秘められた、もう一つの規格外。
ゲームの中で。
誰よりもレイズに期待していたプレイヤーだからこそ知っている。
その力がどれほど常識外れなのかを。
そして。
まだ誰も知らない。
この小さな失敗が。
未来の怪物の、ほんの始まりに過ぎないことを。




