当主の実力。
「じゃあ、未来の当主様?」
イザベルはわざとらしく首を傾げ、にやりと笑う。
「魔法の実力、見せてもらおっかな」
レイズは待ってましたとばかりに胸を張り、顔を上げる。
「ふっ……よぉし、見てろよ!」
自信満々、まるで英雄が必殺技を放つ前のようなどや顔だ。
もちろん死属性は使わない。あれは“切り札”であり、ヴィルからも「むやみに見せるな」と念を押されている。
ならば見せるのは――そう、ゲームでも後半にやっと解禁される、氷属性の魔法。
レイズは深く集中し、手をかざす。
その周囲に青白い光が生まれ、身体をぐるぐると取り巻く。
「……アイスフィー――ッ!」
次の瞬間。
どさっ。
レイズはその場に崩れ落ちた。
「え、えぇぇ!?」
イザベルは思わず声を上げる。
そう――いくら知識があっても、魔法を行使するだけの魔力量がレイズにはまだなかったのだ。
草原に吹き抜ける涼風だけが、なんとも虚しく通り抜けていく。
レイズは草原に立ち上がり、砂埃を払うと、あえて落ち着いた顔を作った。
「……っふ。これは未来を見せた魔法なのさ」
言葉だけはまるで大賢者のように、静かに、深みを込めて。
イザベルは一瞬ぽかんとしたあと――次の瞬間、吹き出した。
「……あはははっ! なにそれっ! レイズ君ずるい! あっはははは!」
腹を抱えて笑うイザベルを前に、レイズは頬を赤らめつつも無理やり澄ました顔を続ける。
「笑うな。これは深遠なる未来視だ……」
しかし声の端が震えているせいで、余計におかしく聞こえ、イザベルはさらに笑い転げてしまうのだった。




