表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を、今度こそ覆す―(現在物語を全話を丁寧に修正しています。6-13話大幅に加筆してます。。)  作者: くりょ
レイズを知る。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/793

知らない魔法。

ヴィルはコーヒーカップを手に、窓の外を眺めていた。


視線の先にあるのは大書斎。

その表情はどこか穏やかで、優しい。


「大丈夫だ、レイズ」


小さく呟く。


「お前なら、きっと乗り越えられる」


祖父として。執事長として。

ヴィルはそう信じていた。


そして何故か少しほっこりしていた。


――だが。


その期待とは裏腹に。

当のレイズは大書斎の中で盛大にパニックを起こしていた。


「あ、あの……そうですね!」


声が裏返る。


「ちょっと運動してて!」


さらに裏返る。


「少し痩せた? かもですね!」


そして最後に。


「うん! 是非もない!!」


意味不明だった。

自分でも何を言っているのか分からない。

レイズは顔を真っ赤に染める。


(何言ってんだ俺ぇぇぇぇぇ!!)


心の中で頭を抱えた。そんなレイズを見て。

イザベルは優しく微笑む。


「そんなに緊張しなくてもいいのに」


柔らかな声。

どこか懐かしむような響き。


「昔みたいに『イザベル』って呼んでくれたらいいのよ」


その一言で。

張り詰めていた空気がふっと和らいだ。

そして同時に。

レイズはある事実に気付く。


(……そうか)


胸の奥が少しだけざわつく。


(この子とレイズは、もともと仲が良かったんだ)


知り合いどころではない。

もっと近い。

もっと自然な関係だったのだろう。

だからイザベルは戸惑わない。

だからイザベルは変わらず接してくれる。


それが少しだけ嬉しかった。

イザベルは机の上の本を閉じる。

そして首を傾げた。


「それでね」

「ん?」

「どうして私に魔法を教わりたいの?」


レイズの肩がぴくりと動く。

イザベルは続ける。


「レイズ君なら、もう魔法を使えていたじゃない?」


その言葉に。

レイズは心臓を掴まれたような感覚を覚えた。


――やはり。


かつてのレイズは魔法を使えていた。

それも恐らく、かなり高いレベルで使えていた…。


だが。

今の自分は違う。

深く息を吸う。

そして静かに口を開いた。


「そうだね」


少しだけ視線を落とす。


「かつての僕は魔法を使えていたんだと思う」


曖昧な言い方。

だが嘘ではない。


「でも……色々あって」


言葉を選ぶ。


「忘れることにしたんだ」


その瞬間。脳裏によみがえる。

リアノへ語った言葉。


――色々あって思い出さないようにしている。


そして。あの恐怖の部屋。

得体の知れない空気。

絶対に思い出したくない記憶。


(いや本当に何だったんだあれ……)


思い出しただけで少し怖い。

イザベルはそんなレイズを静かに見つめていた。


そして。

どこか納得したように微笑む。


「フロストバインド……」


聞き慣れない単語。

レイズは首を傾げる。

だがイザベルは続けた。


「レイズ君は、自分で記憶を縛り付けたんだね」


その声は責めるものではなかった。


むしろ――

悲しそうだった。


「そっか……」


小さく呟く。


「だから、だったんだ」


長年抱えていた疑問が解けた。

そんな表情だった。

そして真っ直ぐレイズを見る。


逃げることなく。逸らすことなく。

真剣な眼差しで告げた。


「私ね」


その声は優しい。どこまでも優しい。


「今も昔も……レイズ君が大切」


レイズの胸が僅かに揺れる。


「だから――」


イザベルは微笑んだ。少しだけ寂しそうに。


「もう二度と、あんな悲しい魔法は使わないでね」


レイズは固まった。数秒後。


心の中で盛大に叫ぶ。


(だから何なんだよそのフロストバインドってぇぇぇぇぇ!!)


知らない。本当に知らない。初耳である。


だが。

そんな心の叫びとは裏腹に。

レイズは何も言えなかった。


目の前の少女は。

自分の知らない『レイズ』を知っている。

その過去を知っている。


そして今もなお、その記憶に胸を痛めている。

その姿を見ると。

理由は分からないのに。


胸の奥が少しだけ苦しくなった。


――フロストバインド。


イザベルが口にした魔法の名。

それは氷属性に由来する特殊な魔法だった。

膨大な書物を読み。

数多の魔法知識を学んできたイザベルだからこそ知っている術。

そして彼女は勝手に結論へ辿り着いていた。

レイズは自らの記憶を凍結したのだと。

思い出したくない何かを封じるために。

悲しい過去から自分を守るために。

だから今のレイズは覚えていないのだと。


だが――


それは完全なる誤解だった。


本人だけが、その事実を知らないのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ