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知らない魔法。



ヴィルはコーヒーを片手に、窓から大書斎の方角を眺めていた。

「大丈夫だ、レイズ。おまえなら、きっと乗り越えられる」

そう信じるその顔は、どこかほっこりと和んでいる。


――しかしその期待とは裏腹に。


大書斎の中でレイズは見事にパニックに陥っていた。

「あ、あ、あの……そうですね! ちょっと運動してて、少し痩せた? かもですね! うん、是非もない!!」


自分でも意味不明なことを口走り、顔が真っ赤になる。


イザベルはそんなレイズを見て、優しく微笑んだ。

「そんなに緊張しなくてもいいのに。昔みたいに“イザベル”って呼んでくれたらいいのよ」


その一言で、張り詰めていた空気がふっと和らぐ。

だが同時に、レイズは悟ってしまう――。

(……この子とレイズは、すでに旧知の仲だったのか)


イザベルは本を閉じて問いかける。

「それで、どうして私に魔法を教わりたいの? レイズ君なら、もう魔法を使えていたじゃない?」


レイズは心臓をわし掴みにされた気持ちだった。

――やはり、かつての“レイズ”は魔法を使っていた。

だが今の自分は違う。


少し息を整え、静かに口を開く。

「そうだね。……かつての僕は、魔法を使えていたんだ。

でも……いろんなことがあって、忘れることにしたんだ。」


リアノに言った“いろいろあって、思い出さないようにしてる”という言葉が脳裏をよぎる。

――あの、ホラーな部屋とともに。



イザベルは静かに微笑みながらも、どこか切なげに言葉を紡ぐ。


「フロストバインド……レイズ君は、自分で記憶を縛り付けたんだね。

そっか……だから、だったんだ」


まるで、長い間の疑問にようやく答えを見つけたかのように、少し納得した表情を浮かべる。


そして視線を逸らさず、真剣に告げた。


「私ね、今も昔も……レイズ君が大切。

だから――もう二度と、あんな悲しい魔法は使わないでね」


その言葉に、俺は思わず心の中で叫んでいた。

(だからなんなんだよ、そのフロストバインドって!)


けれど、かつての自分を知り、そして今も変わらず心を痛めてくれる彼女の姿を見て……理由もわからないのに、胸の奥が苦しくなるのだった。




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たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
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