↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【悪役転生 レイズの過去を知る 】―俺だけが知る結末を…。―(現在物語を大幅にリライト中)  作者: くりょ
変わる未来と起きる未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
340/358

小さな終わり。

ガイルは空を飛びながら、笑っていた。


アルバード――本当に、とんでもねぇ奴がいたものだ。


憎しみも、怒りも、失うことの苦しさも理解している。それなのに、それを理由に誰かを憎めとも、許せとも言わなかった。ただ自分の選んだものを守り、そのために必要ならば自分とは違う考えさえ受け入れてしまう。


ガイルには、それがどうにも理解し難かった。


レイズの魔力が特別強いわけではない。才能なら確かにある。戦うことに関しても、あの年齢を考えれば異常と言っていいほどのものを持っている。それはアルバードの血なのだと言われれば、ある程度は納得できる。


だが――血。


それだけでは、あまりにも説明がつかなかった。


長く生きてきたのは自分だ。人と魔族が争い、殺し、殺され、その死を理由にまた誰かが憎しみを抱く。そんな終わりのない連鎖を、嫌というほど見てきたのも自分だった。


なのに。


「あいつは………それを断ち切ったってか」


思わず笑いが漏れる。


百年以上生きてきた自分にもできなかったことを、あんな十四のガキがやってのけた。本人がそれをどこまで理解しているのかは知らない。もしかすると、何か大それたことをしたつもりすらないのかもしれない。


だが、それで十分だった。

ガイルは前を向きながら考える。


ならば、もうここで自分がやるべきことはないのではないか。


ルイガスがかつて言っていたように、もっと世界を見るために進んでもいいのではないか。あの頃、自分が知らなかった場所を見てみたいと思ったように、今度こそ自由に世界を飛び回ってもいいのではないか。


そう思ったところで、ガイルは小さく首を振った。


「……いや」


世界を見る前に、まだやるべきことがある。


アースリガルドで続いてきた魔族と人との戦いは、ようやく終わろうとしている。だが、この世界から魔族と人との争いそのものが消えたわけではない。


「……帝国の奴らか」


知ってはいた。


海の向こうにも人間がいることを。そして帝国の人間たちもまた、魔族と争い続けていることを。


これまでも気にならなかったわけではない。それでもガイルは、最果ての地を離れることができなかった。


自分がここを離れた時、アースリガルドの魔族たちに何かが起きればどうなるのか。王国が再び魔族へ牙を剥けば、誰が止めるのか。ルイガスを失い、ディアブロを失い、それでもなおこの地で生きている同胞たちを放って、自分だけが好き勝手に世界を見て回ることなどできなかった。


だからこそ、ガイルは動けなかった。


強くなった。

誰よりも自由に空を飛べるようになった。


それなのに、守りたいものが増えれば増えるほど、この場所から離れることができなくなっていた。


だが――今は違う。


王国は、もう簡単に魔族へ手を出すことはないだろう。そして、その間にはアルバードがある。


何より、レイズがいる。

「…………クハハ」


だったら、もういい。


自分がこの地に張りついていなくても、守られるものは守られる。何かが起きれば、それを止めようとする奴らがいる。


ようやく自分は動ける。

ようやく――自由になれる。

どこへ行くのも、何を見るのも、自分次第。


そう思ったガイルだったが、その自由を手にして最初に考えた行き先が次の戦場なのだから、自分でも笑えてくる。


「クハハハハ!! なんだかんだ言って……戦いもおもしれぇだろ? なぁ、ルイガス」


返事などあるはずがない。


それでもガイルは笑っていた。


ルイガスだって、戦うことそのものを嫌っていたわけではない。むしろ強さを競い、自分を磨き、昨日の自分より強くなることを楽しんでいた。


強くなれ。

世界を見ろ。

自由に飛び回れる喜びを知れ。


そう教えたのは、あいつだった。


だったら自分も、それを楽しめばいい。


戦いはガイルにとって、憎しみだけから生まれるものではない。強い奴と戦うことは好きだ。自分の力がどこまで通じるのか試すことも、新しい魔法を見ることも、知らない強者に出会うことも、昔から嫌いではなかった。


いや――好きだった。


「帝国か……」


どんな奴がいるのか。

どれほど強い奴がいるのか。

何が待っているのか。

まだ何も分からない。


だからこそ――面白い。


ガイルの口元が大きく吊り上がった。


「戦えることを楽しみながら……守ってやりゃいい」


もう、憎しみに自分の行き先を決めさせる必要はない。


守りたいものを自分で選び、行きたい場所へ自分で行く。そして戦わなければならないのなら、思い切り戦えばいい。


それだけのことだった。


「終わらせてやるよ」


ガイルは遥か先を見つめながら呟いた。


「憎しみだけで戦うなんざ……つまらねぇ」


かつて自分へ向けられた言葉を思い出す。

小せぇなぁ、お前は。

あの時は腹が立った。


自分は子供なのだから、小さいのは当たり前だと本気で思った。


けれど、今なら少しだけ分かる。

世界は広い。


自分が百年以上抱え続けてきた憎しみですら、その広い世界のすべてではない。


「……あまりにも、小さなことだ」


ガイルはそう呟くと、少しだけ空を見上げた。


「そういうことだよな? ルイガス……」


やはり返事はない。

それでいい。


今度は自分で決める。

ガイルは大きく笑うと、その速度を一気に上げた。


アルバードの空を越え、さらにその先へ。

もう何かに縛られて飛ぶのではない。


自分自身が選んだ場所へ向かうために、ガイルは空を飛んでいった。




その姿を、遠くから見つめている者たちがいた。

ヴェルたちもまた、アルバードから遠ざかっていくガイルの姿を見ていた。


「…………行ったか」


ヴェルが静かに呟く。


ガイルがアルバードから離れていく。


ただそれだけの光景のはずなのに、ヴェルには何か途方もなく長いものが、ようやく終わりを迎えたように感じられた。


そして、今になってようやく理解する。


「……イェイラ」


あの者たちが何を守ろうとしていたのか。


ルイガスが死んだあと、魔族は大きく二つの道へ分かれた。


ルイガスの意思を受け継ぎ、人との共存を捨てなかったイェイラ。


そして、人を信じたからこそルイガスは殺されたのだと考え、人との共存を拒絶したガイル。


同じ男を大切に思っていた者たちが、その男を失ったことによって別々の道を歩くことになった。


長い、長い時間だった。


それが今――。


「レイズ……お前は本当に、とんでもない奴だ」


ヴェルは思わずそう呟いた。


ガイルがイェイラとまったく同じ考えになったわけではない。人間を好きになったわけでもなければ、王国を許したわけでもない。


それでも、もうガイルは王国を滅ぼすために生きてはいない。


魔族を守る。

ただ、そのために生きる。

それだけで十分だった。

ガイルとイェイラ。


大きく二つに分かれていた道が、完全に一つになったわけではない。それでも互いを否定し、殺し合わなければならないほど遠く離れていた二つの道は、今ようやく同じ方向を向こうとしている。


ヴェルには、そう思えた。


「やっぱり、レイズ様でしたね」


隣から聞こえてきた声に、ヴェルは視線だけを向けた。


エルイが、どこか嬉しそうに笑っている。


「……ぁあ。どこまでも予想外なことをする」


あれほど頑なに王国を滅ぼすことだけを見続けていた男が、今はもうその憎しみに縛られていない。


解決したとは言えない。


ガイルが王国を許したわけではないし、王国と魔族の間に積み重なった長い歴史が消えるわけでもない。


だが――それでもいい。


少なくとも、この地で今すぐ新たな戦争が始まる理由はなくなった。


王国。


アルバード。


そして、最果ての魔族たち。


これまで別々の方向へ渦を巻き、いつぶつかってもおかしくなかった三つの大きな流れが、アルバードという場所を中心に、少しずつ同じ方向へ流れ始めている。


本当の意味ですべてが終わったわけではない。

それでもヴェルは、確かに感じていた。

長く続いた何かが――今、終わったのだと。


「…………イェイラ」


ヴェルは静かに空を見上げる。


「それに……ルイガス」


もし二人が今も生きていたなら。

この光景を見たなら、何を思うのだろう。


人と魔族が同じ町を歩き、互いを恐れることなく暮らすアルバード。


王国と繋がりながら、それでも魔族を拒絶しない場所。


そして、人間を滅ぼすことだけを見続けていたガイルが、自分の意思でその地を離れ、もっと広い世界へ向かって飛んでいく姿。


かつてなら、そんな未来が来るなど誰が信じただろう。


「ここは……大きくなるな」


アルバードは、もう小さな一つの領地というだけではない。


人と魔族。

王国と最果て。

長い間決して交わらなかったものが、ここで繋がろうとしている。


ヴェルはしばらく空を見つめたあと、ゆっくりと身体を丸めた。


そんなヴェルを見ていたエルイが、ふっと笑う。


「ヴェル様も……なんだか可愛くなりましたね?」


「…………ふざけろ」

「ふふっ」


ヴェルはそれ以上何も言わず、目を閉じた。


不思議なほど身体から力が抜けていく。


長く、長く生きてきた。


その時間の中で、人を警戒しなかった日はどれほどあっただろう。いつ王国が動くのか、いつ魔族が動くのか、いつ再び誰かが殺され、その死を理由に新しい戦いが始まるのか。


そんなことを考えず、ただ目を閉じることのできた夜が、これまでどれほどあっただろうか。


だが今は、何も考えなくていいような気がした。


ヴェルだけではない。


ガイルが飛び去っていく姿を見ていた魔族たちも、それぞれが何かを感じ取っていた。


誰かが宣言したわけではない。


戦争が終わったと告げる鐘が鳴ったわけでもない。


王国と魔族が手を取り合い、過去のすべてを水に流したわけでもない。


それでも――。

もう、憎まなくていい。

もう、殺さなくていい。

もう、怯えなくていい。


明日、誰かが攻めてくるのではないかと、常に身構えていなくてもいい。


過去が消えるわけではない。


失った者たちが戻ってくるわけでもない。


それでも、過去と同じことを繰り返さない未来なら選ぶことができる。


アルバードがある限り。


レイズが、自分の選んだ道を歩き続ける限り。

王国も。

魔族も。

そしてアルバードも。


それぞれが、それぞれのままで生きていくことができる。


アースリガルドはようやく、長い憎しみから自由になろうとしていた。


そんな空気を感じながら、ヴェルは静かに眠りにつく。


長く長く生きてきた時間の中で、ここまで心地よく眠りにつけたことが、かつて一度でもあっただろうか。


その答えを考える必要すらなかった。


今はただ――眠ればいい。

もう、怯える必要はないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たくさんの方に読んでいただき、本当にありがとうございます。 完結済の長編です。レイズたちの物語をぜひ最初から。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。