ともにゆくぞ!
大書斎にたどり着いたレイズは、さっきまでの決め顔をすっかり忘れたように、
「すっげーー!!」
と目を輝かせていた。
高い天井、壁一面に並ぶ膨大な書物。
その光景は、少年の心を素直に揺さぶったのだ。
リアナが一歩前に出て、恭しく頭を下げる。
「それでは当主様。中にはイザベル様がお待ちですので……私はここで失礼いたします」
「え? 一緒に入らないの?」とレイズが尋ねると、リアナは静かに首を振った。
「私には許可がございませんので」
その言葉を聞いたレイズは、ふんと胸を張る。
「ならば、このレイズ・アルバードが許可する! さぁ! 共に行くぞ、リアナ!」
張り切ったその声は、大書斎の分厚い扉をも突き抜け、中にまで響いていった。
そして窓辺でその様子を眺めていたイザベルは、思わず小さく吹き出した。
「……なんだか雰囲気がガラリと変わっちゃったな」
けれど、その瞳には柔らかな色が宿っていた。
「でも……そんなレイズ君も、かわいくて好きだなぁ。」
しかし、レイズの誘いはそっと断られてしまった。
リアナは小さく首を振り、穏やかな微笑みを浮かべる。
「ですが……私にはやらなければならないことがございます。ですから、どうか当主様お一人でお入りください」
そして、少し照れたように言葉を添えた。
「……でも、嬉しいです」
そう言ってニコニコと笑い、静かにその場を立ち去る。
残されたレイズは、どこか寂しげにその背を見送った。
(……なんだよ。せっかく一緒にって言ったのに)
だが、すぐに顔を上げ、気持ちを切り替える。
深く息を吸い込み、重厚な扉へと歩み寄る。
その姿は――まるで魔王に挑む勇者のような、
大書斎に足を踏み入れると、そこには本に囲まれた静謐な空間が広がっていた。そこには桃色の髪に柔らかな光が差し込み、その横顔は年頃らしい可愛らしさを帯びている少女がいた。
――レイズの胸が、どきんと跳ねる。
(……か、かわいい……)
思わず「男の子」の部分が顔を出し、ぎこちなく口を開く。
「そ、その……イザベルさん、……ですか?」
その声に、少女はぱたりと本を閉じ、ふわりと微笑んだ。
「いらっしゃい、レイズ君」
どこか嬉しそうに、優しい声色でそう伝えてくる。
レイズはかみかみになりながらも、背筋を伸ばして声を張った。
「そ、そ、それでは……魔法のご教授、お願いします!」
自分では完璧に言ったつもりだったが、沈黙。
イザベルは本を閉じたまま、しばらくじーっとレイズを見つめている。
その長い沈黙に耐えきれず、レイズは心の中で悲鳴を上げた。
(ちょっと……ヴィル……! 今ここにいてくれなきゃ困るよ!)
しかしイザベルはふっと微笑んだ。
「レイズ君……たくましくなったね」
その声音には、からかいも試す色もなかった。ただ純粋に、少し痩せて精悍になった姿を見て、心から褒めてくれているのが伝わってくる。
レイズは思わず目を瞬かせた。
「えっ……、その……」
顔が熱くなる。
魔法の話を期待していたのに、返ってきたのは“努力を見てくれていた”証の言葉。
胸の奥が、不意にくすぐったくなるのだった。




