二人で話そう。
肩の荷が下りた。長かったジュラでの出来事を終え、ようやくアルバードの地へ足を踏み入れた瞬間、レイズはそんな感覚を覚えていた。
「……帰ってきた」
ぽつりと漏れた自分の言葉に、レイズ自身が少し驚く。いつの間にか、この場所へ戻ってくると安心するようになっていたらしい。見慣れた町並みを眺め、行き交う人々を横目に見ながら、その向こうに小さく見える屋敷へ視線を向ける。以前なら、ただ自分が住んでいる場所としか思わなかったかもしれないが、今ではもう少し違った感覚があった。
(……なんか、本当に我が家って感じになってきたな)
不思議なものだと思いながら、レイズは町の中をとことこと歩いていく。ジュラでやるべきことは終わった。あとは屋敷へ戻るだけであり、帰ったら何をするのかも、すでに決めていた。
「まず風呂だな」
二日も野宿したのだ。身体は汚れているし、自分でもなんとなく臭うような気がする。それに柔らかい布団も恋しい。今日はもう難しいことなど何も考えず、風呂に入って、飯を食って、そのまま柔らかい布団で眠る。それだけでいい。むしろ今のレイズにとっては、それこそが何よりも完璧な予定だった。
そんな平和極まりない未来を思い描きながら歩いていたのだが、しばらくすると、レイズはようやく町の空気がいつもと違うことに気づいた。
「……ん?」
何やら騒がしい。人々は落ち着かない様子で行き交い、時折、遠くに見える屋敷の方角を気にしている者もいる。何かあったのだろうかと首を傾げながら歩いていると、一人の住民がこちらを見て、その目を大きく見開いた。
「あ……! レイズ様!!」
「ん?」
「レイズ様が戻られたぞ!」
その声を聞いた周囲の人々まで一斉に振り返る。
「本当か!?」
「早く知らせろ! レイズ様が帰ってこられた!」
「ようやく……!」
「レイズ様!」
「お待ちください!」
「レイズ様ぁ!」
「…………」
一斉にこちらへ意識が集まった瞬間、レイズの脳裏に嫌な記憶が蘇った。ジュラへ出発した日のことである。町の人々に取り囲まれ、逃げ場を失い、あれよあれよという間に持ち上げられ、最終的には盛大な胴上げまでされた。あの日はクリスとディアナがいなければ、ジュラへ出発することすらできなかったのだ。
もちろん、町の人々に悪意などない。それどころか、すべて好意からしてくれていることくらいレイズにも分かっている。だが、それとこれとは話が別だった。
(また捕まったら絶対長い!!)
風呂が遠ざかる。飯も遠ざかる。そして何より、柔らかい布団が遠ざかっていく。二日間野宿した今のレイズにとって、それだけは何としてでも避けなければならない。
「レイズ様! 大変なんです! お話が――」
「ごめん!!」
「え?」
「また後で! 話をする機会があったら、その時に!!」
言うが早いか、レイズは勢いよく地面を蹴った。
「うおおおおお!!」
「レ、レイズ様!?」
「お待ちください! 違うんです!」
「レイズ様ぁぁぁ!!」
背後から必死に呼び止める声が聞こえてくるが、レイズは振り返らない。それどころか、念には念を入れて死属性の力を周囲へ薄く広げていった。今回使うのは魔法を消し去るためではなく、自分という存在そのものを周囲から認識されにくくするためである。気配を薄め、まるで景色へ溶け込むように存在感を消していく。
「ふっ……」
レイズは小さく笑った。
(同じ過ちは踏まない主義なんだ)
一度胴上げされた男は強かった。しっかり学習したのである。
そうして気配を薄くしたまま、レイズは颯爽と屋敷へ向かって走り去っていったのだが、取り残された町の人々は、ただ呆然とその背中を見送っていた。
彼らは別にレイズを取り囲むつもりなどなかったし、ましてや胴上げするつもりなど欠片もなかった。ただ伝えたかっただけなのだ。屋敷の近くで起きた、あまりにも異常な出来事を。
ガイルとクリス。二人の戦いによって生じた余波は、アルバードの町からでも分かるほど強大だった。遠くまで響く轟音、空気を震わせる衝撃、離れた場所からでも肌で感じるほどの圧。住民たちには何が起きているのかまでは分からなかったが、とてつもなく危険な何かが起きていたことだけは理解できた。だからこそ、人々は怯え、レイズが戻ってきた姿を見て安堵したのである。
「……レイズ様。どうか……私たちをお守りください」
一人の住民が、走り去っていった少年の背中へ祈るように手を組む。それにつられるように、同じように祈る者まで現れていた。
しかし、そんな住民たちの想いなど知る由もなく、当の本人は――。
「はははっ! さぁ、まずは風呂だ!」
ものすごく上機嫌だった。
屋敷まではもう少し。風呂に入って、飯を食って、柔らかい布団で眠る。今のレイズの頭の中には、それしかない。
「待ってろよ、俺の風呂……!」
そんなことを言いながら走っていたレイズだったが、やがて屋敷が見えてきたところで、不意に足を止めた。
「…………ん?」
誰かの怒鳴り声が聞こえる。
「おい!! 聞いているのか!! 返事をしてください!! 返事がなければ災いと見なし、今すぐ突入します!! いいのですか!!」
「…………」
聞き覚えのある声だった。レイズが目を細めて屋敷の玄関前を確認すると、そこにはクリスが立っていた。
「……あぁ。なんだ、クリスか」
思わず安堵する。
「いつものクリスだな」
うんうん、と一人頷く。帰ってきたのだ。アルバードへ。何やら屋敷へ向かって怒鳴っているが、それすら妙な安心感を覚えるほど見慣れた光景に思えてくる。
すると今度は、屋敷の中からイザベルの大声が返ってきた。
「ちゃんと聞いてるわよ、クリス!! レイズくんが帰ってくるまでは大人しくしてなさい!!」
「…………」
珍しくイザベルまで大声を出している。
(何やってんだ、あいつら……)
レイズは首を傾げながら、そのまま屋敷へ近づいていく。しかし、先ほど使った死属性で気配を薄くしたままだったため、クリスはレイズがすぐ後ろまで来ていることにまったく気づいていなかった。
「やはり、あの男は完全に抵抗できない状態にしておくべきです! イザベル様!! 何かあってからでは遅いのです!! レイズ様も必ず分かってくださいます! ですから屋敷へ入る許可を!!」
(あの男?)
誰のことだろうか。まあ、おおよその想像はつく。また何かの拍子にディアナを泣かせでもして、それを見たイザベルがクリスを外へ追い出したのだろう。
(突入って……何してんだよ、ほんとに)
思わず笑いながら、レイズはそっとクリスの背後へ回り、ぽん、と肩を叩いた。
「クリス……」
「――ッ!?」
クリスはものすごい勢いで飛び退いた。
「レ……レイズ様ぁぁぁぁ!!?」
「お、おう……」
あまりの驚きように、逆にレイズが引く。
「なんだよ。驚きすぎだろ……って、あぁ、悪い。死属性を切ってなかったから気づかなかったか」
「レイズ様!!」
「お、おう?」
クリスは一瞬で距離を詰めると、必死な形相で訴えた。
「このクリスに、屋敷へ入る許可をください!!」
「……は?」
「あの男――ガイルが! 屋敷の中に立てこもっているのです!!」
「…………」
レイズは何度か瞬きをした。
「立てこもってるって……なんだよ。強盗か……?」
「ガイルです!!」
「…………え?」
聞き間違いだろうか。
「誰?」
「ガイルです!」
「…………」
ガイル。
あのガイル。
「…………えええええええええええっ!!?」
レイズの絶叫が屋敷の前に響き渡った。
すると屋敷の中からも慌ただしい声が上がり、次の瞬間には扉が勢いよく開いた。
「レイズ様!!」
「レイズさまぁぁぁぁ!!」
リアナとリアノが待ち構えていたかのように飛び出してきて、その後ろからイザベルまで顔を出す。
「レ……レイズくん……!」
「や、やぁただい――」
「レイズ様ぁぁぁ!!」
リアナが勢いよく飛びついてこようとしたため、レイズは慌てて片手を突き出した。
「待て待て待て! 今はそれどころじゃないよな!?」
「レイズ様!」
「ガイル! ガイルが来てんの!?」
「はい!」
「なんで!?」
「それが――」
「レイズ様、私の話を聞いてください!!」
そこへクリスまで割り込んでくる。
「ガイルがアルバードへ危害を加えたのです! ディアナは殺されかけ、さらにイザベル様までガイルに惑わされ――」
「は……?」
あまりにも情報量が多い。
「殺されかけた……?」
「はい!」
「惑わされた……?」
「そうです!」
「誰が?」
「イザベル様です!」
「誰に?」
「ガイルに!!」
「…………」
意味が分からない。
しかもリアナとリアノまで同時に説明しようとしてくる。
「レイズ様、大変だったんですよ!」
「そうなんです、当主様! ガイル様が突然――」
「それでクリス様が――」
「ディアナ様が――」
「イザベル様まで――」
「待て待て待て待て!!」
レイズは両手を上げた。
「一人ずつ喋れ!! 何一つ分からん!!」
ようやく静かになったところで、レイズは額を押さえながら大きく息を吐いた。
「……とりあえず、クリス。お前の話は後でちゃんと聞く」
「ですがレイズ様!」
「後で!」
「……はい」
「それよりガイルだ。あいつ、何しに来たんだ?」
誰もすぐには答えなかったため、レイズはさらに周囲を見渡し、そこで一人足りないことに気づいた。
「……ディアナは?」
その名前を聞いた瞬間、クリスの表情が曇った。悔しそうに拳を握りしめながら、低い声で答える。
「ディアナは……ガイルによって酷い怪我を負わされ、今は部屋で横になっています。それはもう……とても酷い状態でして……」
「……ディアナが?」
先ほどまで混乱していたレイズの表情が一瞬で変わった。
「どこだ??」
「レイズ様?」
「ディアナはどこにいる??」
もし本当にガイルがディアナを殺しかけたというのであれば、いくらゲームでガイルという人物を知っているとはいえ、冗談では済まない。レイズはすぐさま屋敷へ入り、クリスたちも慌てて後を追った。
「ディアナ!」
部屋へ勢いよく飛び込む。
そこにはイザベルがいて、その隣には――。
「レイズ様。おかえりなさいませ」
「…………」
ディアナが普通に立っていた。
「…………」
レイズは一度瞬きをし、さらにもう一度瞬きをする。傷は見当たらない。血も出ていない。包帯すら巻かれていない。
それどころか。
(……ピンピンしてんじゃねぇか)
レイズはゆっくり後ろを振り返り、クリスを見る。
「ディアナが……なんだって? 酷い状態?」
「はい!」
即答だった。
「どこが!?」
「レイズくん!」
今度はイザベルが割って入った。
「とりあえず話はするから! でもクリスがいると絶対ややこしくなるから、入れちゃ駄目! 絶対よ!?」
「イザベル様! なぜですか!!」
「ほら始まった!!」
「私は事実を申し上げているだけです!!」
「話が進まないのよ!」
「レイズ様! 私の話を聞いてください!」
「当主様、私からも――」
「レイズ様!」
「レイズくん!」
「…………」
レイズはクリスを見て、イザベルを見て、リアナとリアノを見た。そして最後に、どう見ても元気そうなディアナを見る。
ガイルがいる。
ディアナが殺されかけたらしい。
イザベルは惑わされたらしい。
クリスは屋敷から締め出されている。
町の人々は大騒ぎしていた。
そして自分は二日間野宿して、ただ風呂に入りたい。
「……意味わかんねぇよ」
レイズはとうとう考えることをやめた。
風呂は――まだ遠かった。
「……とりあえず、ガイルに会わせてくれよ。どこにいるんだ?」
額を押さえながらそう言った瞬間、案の定クリスが即座に割り込んできた。
「いけません、レイズ様! このクリスが必ずお側でお守りいたします! もし少しでもおかしな動きを見せれば、今度こそ一切容赦しません!!」
「…………」
一切容赦しない。
その言葉を聞き、レイズはようやく今起きていることを少しずつ整理し始めた。ガイルがなぜアルバードへ来たのかまでは分からないが、ディアナがガイルと遭遇し、そこで何かが起き、それを見たクリスが完全に冷静ではなくなった。そしてイザベルが必死に止めている。どうやら、大筋はそんなところなのだろう。
「……つまり、ディアナがガイルと遭遇して、そこで何かあって、お前が完全に頭に血が上った。それでイザベルが止めてる。そんなところか?」
「その通りです、レイズ様!」
クリスは力強く頷いた。
「ガイルはディアナを殺そうとしたのです! この私があと一歩遅れていたら……今頃、ディアナは……!」
そこまで言ったところで、クリスの声がわずかに震えた。そこにあるのは怒りだけではない。悔しさと、そして恐怖。もし自分があと少し遅れていたら、もし間に合わなかったら、ディアナはもうここにいなかったかもしれない。その想像が今もクリスの頭から離れていないのだろう。
「クリスさん……」
ディアナがそっとクリスの手を握った。
「私はこの通り、もう元気になりましたから……」
「ですが!! 到底許せるものではありません! あの男が何を考えているのか分からない以上、やはりここは私が――」
「分かった」
レイズが遮った。
「話は分かった。分かったから……ディアナ」
「はい、レイズ様」
「悪いけど、クリスを少し頼む」
「……え? わ、私がですか?」
「ああ」
レイズはクリスへ視線を向ける。
「こいつがここまで取り乱してるのは、お前が心配だったからだろ。だったら話は簡単だ。お前がもう大丈夫だってことを、ちゃんと分からせてやってくれ。安心させてやってほしい」
ディアナは少し驚いたようにクリスを見たあと、小さく頷いた。
「……はい」
クリスは何とも言えない表情を浮かべていたが、レイズはそれ以上踏み込まなかった。
「詳しい話はあとで聞く。今はまず――ガイルに会う」
「しかし! 何か起きた時、私が側にいなくては――!」
「いや………クリス」
「はい!」
「今、一番何か起こしそうなの、お前だから」
「…………」
クリスが固まり、その横でイザベルが思わず吹き出しそうになって口元を押さえた。
「と、とにかくだ。イザベル、ガイルは応接室か?」
「う、うん……。でもレイズくん、クリスの言ってること、かなりめちゃくちゃなんだけど……全部、事実ではあるの。本当にディアナは死にかけてたし、ガイルが傷つけたのも事実」
その言葉に、レイズの表情が少しだけ引き締まる。今こうして元気なディアナを見ているからこそ冷静でいられるが、もしクリスが間に合っていなければ、本当に取り返しのつかないことになっていたのだろう。
「でもね、ガイルは今、戦いに来てるわけじゃないの。レイズくんと一度ちゃんと話したいって、それでアルバードまで来てくれてるだけなの。だから私は、まず話を聞いた方がいいと思って――」
「イザベル様!! 騙されているのです!!」
「また始まった……」
イザベルが額を押さえたが、クリスは止まらない。
「あの男が、そのような穏便な目的でアルバードへ来るはずがありません! 間違いなく何か企んでいます! それに、ガイルは魔法にも長けている!」
「……うん?」
「ならばイザベル様は奴の術によって幻惑されている可能性があります! 現実とは違うものを見せられて――」
「ちょちょ……ちょっと待ちなさいよ!」
「レイズ様! 間違いありません!」
「いや、だから――」
その時だった。
「なに適当なこと言ってやがんだ、てめぇ!!」
屋敷の奥から、低く荒々しい声が響いた。
全員の動きが止まる。
「そもそもだ! てめぇら、魔法なんかまともに効かねぇだろうがよ! 何が幻惑だ! バカなのか!?」
重い足音とともに、一人の男がこちらへ歩いてくる。
レイズはその声のする方へ、ゆっくりと顔を向けた。
そして――見つけた。
「…………」
ガイル。
この世界へ来てから、初めて会う。
それなのに、初めて見る気はしなかった。ゲームの中で何度も見てきたからだ。画面越しに、イベントで、戦闘で。その荒っぽい口調も、鋭い目つきも、他者を威圧するような立ち姿も、レイズが知っているガイルと何一つ変わらない。
(……ガイル)
本物だ。
ゲームの中にしか存在しなかったはずの男が、今、自分と同じ空間に立っている。
そんな感慨に浸っているレイズとは対照的に、ガイルは初めて見るレイズを上から下まで何度も確認していた。顔を見て、身体を見て、再び顔を見る。そしてしばらく黙り込んだあと、本当に心の底から驚いたような声を漏らした。
「え……」
もう一度レイズを見る。
「……マジでガキじゃねぇかよ」
その瞬間。
「貴様ァァァ!! ついに一線を越えたな!!」
クリスが爆発した。
「はぁ!?」
「ディアナだけでは飽き足らず! 今度はレイズ様にまでそのような無礼を!!」
「てめぇは少し黙れ!!」
「黙るのは貴様だ!!」
「クリス!」
「レイズ様! 下がってください!」
「だからお前が一番危ないんだって!!」
再び言い争いを始める二人だったが、レイズはその喧騒の中でもガイルだけを見ていた。そしてゆっくりと歩み寄り、静かにその名前を呼ぶ。
「……ガイル」
ガイルが言い争いをやめ、レイズを見る。
ほんの少しだけ間を置いて、レイズは迷いなく口を開いた。
「会いに来てくれたんだな」
「…………」
ガイルの表情が止まった。
そんな言葉を向けられるとは、まったく予想していなかったのだろう。罵倒されると思っていたのかもしれないし、睨まれると思っていたのかもしれない。あるいは、ディアナを傷つけたことを真っ先に責められると考えていたのかもしれない。
だが、レイズの瞳に浮かんでいたものは、拒絶でも、憎悪でも、恐怖でもなかった。
ただ、長い間会いたかった相手をようやく目の前にしたような、妙に静かな眼差しだった。
「…………」
ガイルの眉がわずかに寄る。
「……ガキってのは撤回だ」
「?」
「てめぇ……なんだよ、その目」
「…………」
「俺が何したか、聞いてねぇのか?」
「聞いたぞ?」
「ディアナって女を傷つけたことも?」
「ああ……」
「それで……その顔かよ」
ガイルには理解できなかった。怒っていないわけではない。何も感じていないわけでもない。それなのに、目の前の少年からは自分へ向けた敵意がほとんど感じられなかった。それどころか、何かを確かめようとしているようにも、何かを知ろうとしているようにも見える。
そして何より、自分をずっと以前から知っていたかのような目だった。
「……てめぇ、どんな感情なんだよ、それ」
ガイルが低く呟く。
レイズは少しだけ目を伏せたあと、再びガイルを見る。
「……気にしないでいい」
「は?」
「ガイル。俺は、お前と話したいことがたくさんある」
「…………」
「たぶん、お前も俺に聞きたいことがあるんだろ?」
ガイルは何も答えなかった。だが、否定もしない。
レイズは一度だけ周囲を見回した。クリス、イザベル、ディアナ、リアナ、リアノ。誰もが二人を見つめている。
この場で話すべきことではない。
少なくとも、レイズがガイルへ聞きたいことは。
「だったら、ここじゃ無理だ」
「レイズ様!」
案の定クリスが声を上げたが、レイズは今度ばかりは振り返らなかった。
ただ目の前にいるガイルだけを見て、静かに告げる。
「ガイル。二人で話そう」
「…………」
「俺とお前で、一度ちゃんと話し合うべきだと思う」
決して大きな声ではなかったが、その場にいた誰もがはっきりと聞き取った。
ガイルは答えず、ただ目の前にいる十四歳の少年をじっと見つめている。
自分を恐れない。憎しみをぶつけてもこない。ディアナを傷つけたことを知ってなお、まず自分の話を聞こうとしている。それだけでも理解し難いというのに、その目はまるでずっと昔から自分という人間を知っていたかのようだった。
――レイズ・アルバード。
ガイルはようやく、自分がアルバードまで会いに来た少年と、本当の意味で向き合った。
そしてレイズもまた、ゲームの中で何度も見てきた男と、この世界で初めて向き合う。
二人が本当の意味で言葉を交わすのは――ここからだった。




